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第五章

妻と陛下と王妃殿下と ~クラレンス公爵Side~

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 オリビアが領地に行って、領地では様々な物事が動いていった。
 


 そのオリビアが領地に行きたいと言い出した時、しばらく領地に行けなかった事もあって、もりかしたら何か起こるかもしれない……とは思ってはいたけど、それを解決するという事までは望んでいなかった。

 必要なら私が行こうと考えていたのだけど、殿下が領地に飛んで行ってくれて手を貸してくれてから、事態はどんどん動いていく。


 皆の力を借りながら子供たちだけで解決してしまう……私は彼らの成長に目を細めていた。


 特に殿下は、私が領地に行った時に夕食をご一緒したけど、とても表情豊かになっていて、大きな口を開けて笑う姿は初めて見たかもしれない。

 オリビアも遠慮なく喋っているような感じで、二人の関係性が変わったような感じがする。



 そんな領地での出来事が解決し、王都に戻ってくると、領地での一件で王都はてんやわんやな状態になっていた。私はすぐに領地での事を陛下に報告をしに行った。


 「………………ご苦労だったな。ヴィルヘルムとオリビア嬢がここまでやってくれるとは……やはり教会の動きはどんどん活発になってきている。ここでひとまずストップをかけられたのは大きいな」

 「はい。私の領地にまで手を伸ばし始め、恐らく方々に教会の手の者が潜んでいる可能性もあります。教会と懇意になっている貴族の領地にはすでに配置済みのようですし、信者も増える一方…………ここで教会の信頼を落とす事が出来たのは良かったです。これから司教と司祭についての審議に入る事になりますが……王妃殿下も参加されますでしょうか」

 「するだろうな。きっと今頃衝撃を受けているだろう…………大司教とは長い付き合いだ、擁護してくるに違いない。食いついてくるだろう」


 「………………楽しそうですね、陛下」

 「……ふっ…………そんな事はないぞ」


 この人はこういうところがある。

 

 陛下とジョセフィーヌは幼馴染だった。

 ジョセフィーヌは伯爵家の令嬢で、彼女の母上であるソフィア様がとても優秀な方で陛下に歴史などの勉学を教えていた事もあり、2人は共に学び、共に育った為、当初は2人が婚約を結ぶと考えられていた。


 私は父上が先代国王陛下と仲が良く、王宮へ行く事も多々あり、2人の中に入れてもらうような感じで仲良くなっていった。

 ジョセフィーヌと陛下が兄妹と思えるくらい親密な関係なのを見て私の入り込む余地はないと考え、彼女への気持ちは生涯打ち明ける気はなかったのだ。


 しかし私が12歳くらいの時にジョセフィーヌから衝撃の事実を打ち明けられる。


 「アレクシオスはね、時々意地悪なのよ、とても。それを面白がるところがあって、私はそんな事をしていたら皆に嫌われるわよって言うんだけど…………自分に怒りの目を向けられるのが楽しいって言うの。正直私には気持ちが分からないし、絶対にアレクシオスのそういう対象になりたくないわね」

 「それは…………確かに嫌かも……」

 「アレクシオスも私はあまり怒らないからつまらないってよく言われるし、皆が思っているような事にはならないと思うわ。私はもっと穏やかな人と生涯を共にしたい……」


 ジョセフィーヌがそんな事を言うから、私がその時に申し込んで、私たちは後に婚約をする事になる。

 
 
 つまり陛下は、自身に負の感情をぶつけてくる人が好きなのだ。


 虫も殺せないような清らかな見た目なのに……正直ジョセフィーヌからこの話を聞いた時、未来の国王陛下という身分がなくとも、こんなに清らかに見える人物に負の感情を堂々とぶつけてくる人などいるのだろうか、と思っていた。

 しかし王妃殿下だけは別だったようで、堂々と陛下に嫌味を言うし、怒りもするし、嫌悪の目を向ける。


 いつだったか、陛下がまだ王太子時代にドルレアン国の国賓として呼ばれて帰ってきた際「私の運命の人を見つけた」と嬉しそうに言っていた。まさか本当に正妃に迎えるとは思っていなかったのだけど…………陛下にとっては彼女が運命の人だったのだろう。


 正妃にしてからも順調な夫婦生活とは言えない状況にも関わらず、こういう時は本当に楽しそうな悪い顔をする。


 王太子時代に皆がご機嫌を伺いながら接するから、感情をぶつけてくる人が珍しいんだろうな。理解はしても共感はし難い。きっとジョセフィーヌも同じ気持ちだっただろう。


 大司教と王妃殿下が懇意にしているのも本当は腸が煮えくり返っているだろうに、虎視眈々とやり返す時を狙っている感じがして恐ろしい。怒らせない方がいいのに王妃殿下は全く分かっていない。

 彼女は拗れに拗れ、陛下や我が公爵家を目の敵にし、王太子殿下の命まで狙っている様子だった。


 私はそういった意味で殿下が哀れでもあった…………しかし、それももう無用の心配になるかもしれない。近頃の殿下は一皮むけた感じがするから。


 
 ~・~・~・~
 


 議会では一向に刑が決まらない日々が続いていた反面、私の研究の方は順調に進み、オリビアの体内にあった成分についての結果がついに出た。

 私は剣術などはあまり得意ではないけど、こういった研究については専門分野なので、その力を遺憾なく発揮させてもらい、原因を突き詰めていったのだ。


 その結果…………デラフィネという植物にたどり着く。



 私は急いで陛下に報告しに行った。

 

 「…………ようやくオリビアから検出された毒の成分が分かったのに……まさかこのような危険なものが出回っているとは!」

 「うむ…………この植物は我が国では生育出来ぬ。これは他国から仕入れるか…………いや、簡単には手に入れる事は出来ない。エキス状にして混入させたにしてもそこまで多量には作れないだろう。これほどのモノを精製するにはよほどの財が必要だ。」

 「その為の人身売買だったという事でしょうか?」


 「ふーむ………………」

 
 
 あまり手に入らないこの植物で、色々と精製するのは難しいと思う……恐らくエキス状にして少量混入されたものを少しづつ飲まされていたに違いない。

 最後に高熱を出した時に禁断症状が出た、という事か――――


 この植物の厄介なところは中毒性がある事。私が反対しても王妃殿下のお茶会に通っていたのも、その作用があったからなのか?

 今は摂取していないからオリビアの方も落ち着いている。もう体の中にもデラフィネの成分は残っていないだろう…………それでも危険な事には変わりない。



 
 私と陛下がそんな話をしていると、突然扉が開かれる…………そして入って来た人物に私と陛下は目を見開いた。


 「幽霊でも見ているかのような顔だな。陛下も…………話は廊下に漏れ出ておりますぞ。それにしても先ほどの話は本当なのですか?オリビアから毒が検出されたというのは…………しかもそれは我が国では出来ない物のようですね」


 扇で顔を隠しながら、私と陛下を見すえ、威厳たっぷりに話すのは王妃殿下だった。


 まさかの人物の登場に驚いたが、もっと驚いたのは彼女が毒について知らない様子を見せている事だった。

 デラフィネの現物を見せても分かっておらず、オリビアのお茶に毒が入っていたのも初耳と言った感じだ――――――どういう事だ?王妃殿下が入れていたわけではないのか?もしかして私は大きな考え違いをしていたのでは…………

 
 あまりに何も知らない風なので、デラフィネについて説明していくと、深く考えている様子を見せ始める…………そして……



 「…………まさか、それで聖女の力が……?」



 王妃殿下が放ったこの言葉は青天の霹靂だった。聖女?彼女は教会絡みで何かを知っている。陛下も同じ事を思ったのか、王妃殿下とじっくり話し合う態勢に入った。

 そこで聞いた話も衝撃的な内容で、人身売買に献金の横領、教会が聖女を召喚しようとしている事、そして聖女の力を使ってゆくゆくは我が国を治めたいと考えている事…………一番驚いたのは王妃殿下がその事を大司教から聞きながら、教会を利用しようとしていた事だった。


 大司教と王妃殿下、2人の関係はかなり濃いものだと思っていただけに…………もしかすると大司教も王妃殿下の強かさを分かって、デラフィネについて教えなかったのかもしれない。


 陛下は全て聞き終えて、私に退出を促した。ここからは夫婦の話し合いという事で…………その時の陛下がかつてないほど楽しそうな悪い顔をしていたので、これは相当お怒りだなと思い、そそくさと退出してきた。



 私はまず自分の頭の中を整理しなければならない。今までの事が色々と覆される出来事だったので、私自身も混乱している。



 それから聖女についての情報収集をしなくては――――



 まずは明日、オリビアにデラフィネについて説明しよう…………翌日、そんな私の元にオリビアが街で騒動に巻き込まれた話が舞い込んできて、それどころではなくなった私は、彼女の元へ飛んで行ったのだった。


 
~・~・~・~


 国王陛下も負けず劣らず拗らせておりました~(^^;

 次からオリビアに戻ります!毎度キャラクターSideがコロコロ変わってすみません<(_ _)>
 
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