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第四章
笑い話
しおりを挟む「そう言えば王妃殿下のお茶会では、領地での事を沢山聞かれたから、ヴィルの武勇伝もしっかりと披露してきたわよ」
私がニッコリ笑ってそう伝えると、ヴィルは顔を引きつらせて苦笑いをしている。
「ぶ、武勇伝?どんな話を……?」
「もちろん領地での活躍よ!司祭や司教を捕まえる為に自ら荷馬車に乗って港に行ったり、荷馬車を奪う時のヴィルの動きとか…………ブランカ嬢なんて身を乗り出して聞いていたわ」
私の話を聞いているヴィルが、あまりにも動揺しているので面白くなってお茶会での事をどんどん話してしまった。ヴィルは恥ずかしいのか耳まで真っ赤にして片手で顔を覆っている…………得意げな顔になるかと思ったんだけど、むしろ恥ずかしがってしまうのね。
「その話はその辺で、止めておいてくれ…………王太子が荷馬車に乗っている貴重な姿を見られたとか、ニコライにも散々弄られているんだ……」
「ニコライ卿に?ふふっそれは辛いわね。でも皆面白そうに聞いていたわよ、イザベル嬢も戦いが得意だからか、荷馬車を奪うところなんて『どのように襲い掛かったのですか?!』って興味深々だったし…………」
「………………全く他人事だと思って……………………しかし、母上は反応しなかっただろう?」
ヴィルに言われて、ハッと気づく。この話を続けてしまったら、王妃殿下がヴィルの事を悪く言っている事を伝えなきゃいけなくなるのでは?
「……王妃殿下はこんな感じで般若のような顔をしていたわ……」
私は気まずい雰囲気を隠すように変顔をして誤魔化そうとした――けど、それもお見通しだったみたいで…………
「ははっよく似ている。…………気を遣わせてすまない。オリビアは優しいな」
「ヴィル、そんな事はないわ。この際だからあなたに話しておくけど、王妃殿下はお茶会の度にあなたの事を私に悪く言ってくるの。私が同意するまでそれは終わらない……でも今まで私は何も出来なくて…………」
「オリビア、それは当たり前の事だ。相手は王妃なのだから……」
「いいえ、それでもそんな自分が許せなかったから、今回は言いたい事を言ってきたわ。売られそうになっていた子供を下賤な者とか言うし、許せなくて……『陛下も王太子殿下も皆大切な民だと仰っております。その大切な民をお守りするのがお役目だと思っているし、そのお心を蔑ろになさるおつもりでしょうか?』って」
未来ある子供たちを下賤な者とか言う人間がトップにいるから、国がダメになっていくのよ。
私は気付いたら立ち上がって力説していたので、急に恥ずかしくなっていそいそとソファに腰を下ろした。ちょっと気恥ずかしくてチラッとヴィルの方を見ると、肩を揺らしている。
「ヴィル、どうし……」
「あっははは!オリビアは最高だな!母上にそこまで言える人はなかなかいないよ。凄い顔をしていたのではないか?」
「…………そりゃ凄かったわよ。扇で口元を隠してはいたけど、目だけで人を殺せそうな顔だったわ」
「ふふっこれ以上笑わせないでくれ…………想像してしまう。久々にこんなに笑ったよ、一生分かもしれない」
ヴィルの笑い方が領地にいる時からどんどん砕けてきて、年頃の若い男性って感じになってきているわね。若者はやっぱりこのくらいでなくちゃ……王妃殿下の話を出しても悲壮感がなくなっているし、いい傾向ね。
「君はこのまま変わらないでいてくれ。正直で真っ直ぐでいてほしい……貴族なんて皆仮面を貼り付けた人間ばかりなのは当たり前なのだが、オリビアといると素でいられる。きっと君が真っすぐな人だからだ」
ヴィルはソファにある私の手を握りながら、真っすぐな眼差しでそう言ってくれた。
それは私自身が自分に正直でありたいと思っているから、そう見えるんだと思うけど、とても嬉しい言葉でもあった。誰かにとって信頼出来る人間であるという事は、こんなに嬉しいものなのね――
「……もちろん私は変わらないわ。きっとこれからもずっと、こんな感じだと思う……あんまり自分に正直に生きていると、お父様や周りの人達には苦労ばかりかけてしまうんじゃないかと思う時もあるけど……自分の人生だから悔いなく生きたいの」
「悔いなく…………そうか、そうだな――」
ヴィルは何かを考えて、納得したような顔をした。その顔は苦悩している顔ではなく、スッキリしたような、覚悟を決めたような……かなりいい表情をしていたと思う。
私もせっかく転生出来たのだから、怯えて暮らすのではなく、人生楽しまなくてはと前向きな気持ちになったのだった。
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