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第二章

ゼフSide

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 領地の貧民街に行きたいというオリビア様に付いて行ってくれとロバート様に頼まれ、本来なら止めるべきだった。しかし俺を救ってくれた殿下も幼いながら貧民街を直に見る必要があるとやって来たのを思い出し、オリビア様にも必要な事なのかもしれないと考え、協力する事にしたのだ。
 
 
 彼女の目指すところがどこなのか、興味もあった。王都の貧民街で育った俺には、殿下やオリビア様が目指す国を見てみたい、少しでも俺やソフィアみたいな人間が減ってくれる事を願ってしまう……そんな自分もいた。
 
 俺は殿下に拾われて本当に幸運だったのだ。ソフィアも…………


 俺を必要としてくれた殿下からの指示を何としても果たす、その為にオリビア様の事は全力で守ろうと思っていた。しかし現実は甘くはなく、オリビア様は貧民街の男に捕まってしまい、俺も身動きが取れなくなってしまった。

 
 コウダ達の時と同じようにヘマをしてしまう…………全然成長していない自分に愕然とする。どうにかしてオリビア様を解放させなければ…………

 

 そこへ殿下が現れ、オリビア様を解放させた。

 住人の気が緩んだ隙に払いのけ「……申し訳ございません…………我が主……」と殿下に駆け寄った。オリビア様に自分の立場がバレてしまうが、ここは仕方ない。


 「…………ゼフ、言い訳は後で聞く。それよりもこの状況を説明してくれ」


 殿下は常に最善を考え、最短の道を選ぼうとする。この人には敵わないな…………殿下に状況を説明し、住人にも話を聞く事が出来た。そして帰り道では殿下が一刻も早くオリビア様と二人きりになりたいのだろう、俺に新たな任務を与え、スタスタと歩いていった。

 
 俺は新たな任務を与えられた事が嬉しかった。また殿下の元で役に立てる……まだ必要としてもらえる。それだけが自分の価値だと思うから。



 この領地に派遣されてきたヤコブ司祭がどんな人物か探るべく、教会へ行くか…………扉は固く閉ざされているので屋根に飛び乗り、二階の窓からあっさり侵入する。二階から誰かが入ってくるとは思わないのか…………そんな事を思いながら物音を立てずに教会内を調べる。

 俺が入った部屋はどうやら客室で、誰かが滞在しているようだ。荷物には高級感漂う衣服が詰められていて、明らかに聖職者の衣服だと分かる。ヤコブ司祭を訪ねてきた聖職者…………王都から誰かが来ているのかもしれない。
 殿下がこちらにいる事を知っているのか?ひとまずその部屋を出て、一階におりてみる。気配を消すのは得意なので、物音を立てずに応接間のような部屋を探した。

 
 一階は中央に礼拝堂があり、祭壇の右側から奥の通路を行くと修道院に行ける仕組みになっているようだ。

 そっちは行く必要はないかもしれないと考え、祭壇の左側にある通路の方を静かに進んだ。案の定扉が幾つかあり、両開きの大きめの扉の中から声が聞こえる………………


 「…………ヤコブよ、よくやっているな。公爵家の領地は大層賑わっているようだし、当面は領民も問題なく税を納めてくれるだろう。」

 「ありがとうございます。ここは本当に活気があります。領民も喜んで納めてくれていますよ。その税が領主ではなく、我々教会が潤っているとは知らずに………………」

 ヤコブ司祭と司祭より偉そうな人物が喋っている内容が聞こえてくる。誰もいないと思って大声で話しているのだろう…………さらに聞き耳を立てて全て聞く事にした。


 「……ふふ。王都からの司祭という立場は本当に役立ちます。ここに来たばかりの時に変な男に子供の行方不明について聞かれた時は焦りましたが………………」

 「それについては絶対に聞かれてはならんぞ。まぁ…………その辺に転がっているゴミを処理したところで誰が何を言うわけでもあるまいが……人身売買は我が国で、表向きは禁止されているからな。王族に見つかると厄介だ。王族派の貴族にも気取られてはならん……特にここの領主であるクラレンス公は、陛下と懇意であるからな。」
 「そう言えば公爵の娘が今領地に来ているとか…………」

 その辺に転がっているゴミ………………思わず手に力が入る。手の平から血が滲むほど握りしめてしまった…………

 
 それにしてもヤコブ司祭はオリビア様が来ている事をすでに知っていたか。さすがに隠し通せる事ではないな。姿はバレていないとは思うが。


 「………………領主の娘か……王太子妃候補でもあるのになぜ今、ここに来る必要があるのか……十分気をつけるがよい。」

 「はい。今のところ挨拶にも来ていませんし、動きはありませんが……」
 「……ふむ………………まぁじきにここは司教である私のものになるだろうがな。まだ王都でやる事があって、ここにはたまに顔を出す程度だが…………」


 「ヴェットーリ司教様が来てくだされば安心です!領主館を預かる家令も司教様には口出しは出来ないでしょう」

 ここで話しているのは驚くべき事実だった…………今はヤコブ司祭がここを預かっているが、次は司教クラスが来るという。司教となれば領主と同じくらいの権限を持てる事は俺でも知っている。ここに司教が来ればロバート様では太刀打ち出来ない。

 そうなればクラレンス公爵がここに来たとして、王都の方が……王族派と貴族派のバランスが崩れる。

 殿下にこの話を伝えなければ、そう思いこの場を後にしようとすると「司教様はあとどのくらい滞在いたしますか?」という声が聞こえてくる。

 
 「……そうだな…………あと四日ほどで王都に戻るとしよう。その間に港に寄らなければな……」

 「子供たちの引き渡しに立ち会われますか?明日、その船が寄港する予定ですが……」

 「…………それも悪くないな。挨拶もしておかねばなるまい。」

 
 司教の滞在はあと四日…………そして明日港に寄港する船で子供が運ばれていくという情報まで聞く事が出来た。国内の売買ではなく他国へ?だから足取りがつかめなかったのか?

 急いで殿下に知らせなければ…………必要な情報はだいたい手に入れたのでそっとその場をあとにし、マナーハウスに戻った。



 
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