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第一章
王太子Side
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オリビアから領地へ行くと言われてから、鬱々とした日々を過ごしていた。オリビアが領地へ行く…………私から離れていく………………今も領地への準備とやらでこの学園には全く来なくなった。
私は生徒会に所属し生徒会長を務めている為、放課後は生徒会室にいる事が多いのだが、当然オリビアもついてきて生徒会室に居座る事が多い。
生徒会のメンバーは、オリビアが王太子の婚約者であるが故に私のいる前で大っぴらに批判したりはしない。しかし、当の本人がいないのであれば本音が出てしまう。
「今日もオリビア様は来ませんね~~来なくていいんですけど!」
そう言い放つのは、生徒会で書記を務める伯爵令嬢ブランカ・メクレーブル。ストレートな髪がゴールドに輝き、クールな髪型に対して甘い顔をしている。学園一の美女と謳われているが…………性格が直球過ぎるので度々問題が起きる。
「まぁそう言うな……体調不良が長引いているのかもしれない。殿下は何か聞いてらっしゃいますよね?」
眼鏡をスッと中指で上げながらブランカ嬢を窘めるのは、深いグリーンの髪を真ん中から分け、理知的な雰囲気を漂わせる侯爵令息トマス・リッシモンド。彼も書記だ。いつも書類と戦っている中、オリビアがいる事で私の仕事が遅れるので、当然オリビアの事は邪魔に思っているだろう。
「…………あぁ…………それが……」
∞∞∞∞
「領地へ療養に行く?」
二人が声を揃えて復唱した。オリビアが私の元を離れるという事と、そんなに状態が悪いのかという事、両方で驚いているのだろうな。皆が思っている事が手に取るように分かる…………それくらいオリビアが私から離れるという事が有り得ない事実だからだ。
私としても衝撃に打ちひしがれているというのに………………だがそんな私の気持ちなど彼らは知る由もなく、オリビアについて思っている事をつらつらと話し始めた。
「ではしばらくは仕事が捗りますね」
滅多に表情に出ないトマスが、ほんの少し笑みを浮かべている……
「良かった~~何の用もないのにヴィル様について回って死霊のように背後にいらっしゃるから、本当に怖くて…………ヴィル様がいつ追い出してくれるか、心待ちにしていたのです~」
ブランカ嬢は嬉しそうにそう言って私の腕に絡みついてきた。さりげなく腕を解いて距離を取ったが…………オリビアがいないとこんな事をしてくるのか。王族にむやみに触れる事はオリビアなら絶対にしてこない。
そう、オリビアはついてくると言っても、必ず適度な距離を保っていたのだ。淑女教育を受けていた彼女は、異性に絡みつくような行為は絶対にしてこなかった。私と二人きりの時はもちろん、あくまで近くにいるというのを徹底していたのだ。
今思えば彼女に対する噂は全てバカげたものだと思える…………そんな事をするような人間ではない。
「……今日は王宮の方でやる事がある。すまないが、先に失礼するぞ」
生徒会を去ろうとすると、ブランカ嬢が私の手を両手で握り、引き止めた。
「ヴィル様…………ブランカがお送りします。いつもはオリビア様がいらっしゃって出来なかったから…………ダメですか?」
上目遣いでこちらを伺うように聞いてくる。女の武器をこれでもかと使おうというのだな。私からため息がもれると、トマスが察したのか「ブランカ……まだ仕事が残っていますよ」とブランカ嬢にそう言ってくれたのだが、全く引き下がりそうもないので、これ以上誤解されても面倒だからはっきり言う事にした。
「すまないが、今私が見送りをしてほしい人はオリビアだけなんだ。君はトマスの手伝いをしてくれ。…………では、また明日」
二人とも驚いて固まっていたが、まぁ仕方ないだろう。二人がオリビアの事を良く思っていないのは分かっているし、あのように態度が行き過ぎてしまうのもそれを許していた自分のせいなのだ…………そしてそんな自分のせいでオリビアが貶められている。
自業自得とは言え、あの場にいるのは耐え兼ねて出てきてしまった。
オリビアが私から離れていくのも仕方ないかも……しれないな…………しかし諦めるわけではない。今度は私が追いかける番だ。
こんな時でも王太子の仕事は山積みで、領地には今すぐ一緒に行く事は出来ない…………建国祭の準備もある。ならば、王太子付の護衛を付ける事にしよう。
「ゼフ、そこにいるな」
学園の柱の影からスッと音もなく出てきた人物は、王太子を陰から守る護衛である。隠密行動を得意とし、諜報活動も出来るのでゼフは打ってつけだ。
「そなたにはオリビアと行動を共にしてもらう。公爵にはそなたをオリビアに紹介してもらう手筈をつける。オリビアから片時も離れず、守るのだ。何かあればすぐに報告してくれ。」
「…………承知致しました」
ゼフはまた音もなく姿を消した。これでいい、何かあればゼフから報告が届くだろう。ゼフが片時も離れずそばに…………ずっとオリビアのそばに……………………自分で頼んでおきながら、ズーンと落ち込でしまった…………私が一緒にいられないのにゼフは……………………
「………………」
気を取り直して空を見上げると、春の匂いがした。オリビアが好きなモクレンの花が咲く季節だ…………領地への道のりが良きものになるといい。
そんな事を思いながら公爵にゼフの事を話すべく、王宮へと向かった。
私は生徒会に所属し生徒会長を務めている為、放課後は生徒会室にいる事が多いのだが、当然オリビアもついてきて生徒会室に居座る事が多い。
生徒会のメンバーは、オリビアが王太子の婚約者であるが故に私のいる前で大っぴらに批判したりはしない。しかし、当の本人がいないのであれば本音が出てしまう。
「今日もオリビア様は来ませんね~~来なくていいんですけど!」
そう言い放つのは、生徒会で書記を務める伯爵令嬢ブランカ・メクレーブル。ストレートな髪がゴールドに輝き、クールな髪型に対して甘い顔をしている。学園一の美女と謳われているが…………性格が直球過ぎるので度々問題が起きる。
「まぁそう言うな……体調不良が長引いているのかもしれない。殿下は何か聞いてらっしゃいますよね?」
眼鏡をスッと中指で上げながらブランカ嬢を窘めるのは、深いグリーンの髪を真ん中から分け、理知的な雰囲気を漂わせる侯爵令息トマス・リッシモンド。彼も書記だ。いつも書類と戦っている中、オリビアがいる事で私の仕事が遅れるので、当然オリビアの事は邪魔に思っているだろう。
「…………あぁ…………それが……」
∞∞∞∞
「領地へ療養に行く?」
二人が声を揃えて復唱した。オリビアが私の元を離れるという事と、そんなに状態が悪いのかという事、両方で驚いているのだろうな。皆が思っている事が手に取るように分かる…………それくらいオリビアが私から離れるという事が有り得ない事実だからだ。
私としても衝撃に打ちひしがれているというのに………………だがそんな私の気持ちなど彼らは知る由もなく、オリビアについて思っている事をつらつらと話し始めた。
「ではしばらくは仕事が捗りますね」
滅多に表情に出ないトマスが、ほんの少し笑みを浮かべている……
「良かった~~何の用もないのにヴィル様について回って死霊のように背後にいらっしゃるから、本当に怖くて…………ヴィル様がいつ追い出してくれるか、心待ちにしていたのです~」
ブランカ嬢は嬉しそうにそう言って私の腕に絡みついてきた。さりげなく腕を解いて距離を取ったが…………オリビアがいないとこんな事をしてくるのか。王族にむやみに触れる事はオリビアなら絶対にしてこない。
そう、オリビアはついてくると言っても、必ず適度な距離を保っていたのだ。淑女教育を受けていた彼女は、異性に絡みつくような行為は絶対にしてこなかった。私と二人きりの時はもちろん、あくまで近くにいるというのを徹底していたのだ。
今思えば彼女に対する噂は全てバカげたものだと思える…………そんな事をするような人間ではない。
「……今日は王宮の方でやる事がある。すまないが、先に失礼するぞ」
生徒会を去ろうとすると、ブランカ嬢が私の手を両手で握り、引き止めた。
「ヴィル様…………ブランカがお送りします。いつもはオリビア様がいらっしゃって出来なかったから…………ダメですか?」
上目遣いでこちらを伺うように聞いてくる。女の武器をこれでもかと使おうというのだな。私からため息がもれると、トマスが察したのか「ブランカ……まだ仕事が残っていますよ」とブランカ嬢にそう言ってくれたのだが、全く引き下がりそうもないので、これ以上誤解されても面倒だからはっきり言う事にした。
「すまないが、今私が見送りをしてほしい人はオリビアだけなんだ。君はトマスの手伝いをしてくれ。…………では、また明日」
二人とも驚いて固まっていたが、まぁ仕方ないだろう。二人がオリビアの事を良く思っていないのは分かっているし、あのように態度が行き過ぎてしまうのもそれを許していた自分のせいなのだ…………そしてそんな自分のせいでオリビアが貶められている。
自業自得とは言え、あの場にいるのは耐え兼ねて出てきてしまった。
オリビアが私から離れていくのも仕方ないかも……しれないな…………しかし諦めるわけではない。今度は私が追いかける番だ。
こんな時でも王太子の仕事は山積みで、領地には今すぐ一緒に行く事は出来ない…………建国祭の準備もある。ならば、王太子付の護衛を付ける事にしよう。
「ゼフ、そこにいるな」
学園の柱の影からスッと音もなく出てきた人物は、王太子を陰から守る護衛である。隠密行動を得意とし、諜報活動も出来るのでゼフは打ってつけだ。
「そなたにはオリビアと行動を共にしてもらう。公爵にはそなたをオリビアに紹介してもらう手筈をつける。オリビアから片時も離れず、守るのだ。何かあればすぐに報告してくれ。」
「…………承知致しました」
ゼフはまた音もなく姿を消した。これでいい、何かあればゼフから報告が届くだろう。ゼフが片時も離れずそばに…………ずっとオリビアのそばに……………………自分で頼んでおきながら、ズーンと落ち込でしまった…………私が一緒にいられないのにゼフは……………………
「………………」
気を取り直して空を見上げると、春の匂いがした。オリビアが好きなモクレンの花が咲く季節だ…………領地への道のりが良きものになるといい。
そんな事を思いながら公爵にゼフの事を話すべく、王宮へと向かった。
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