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第一章

目覚め

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 だんだんと呼吸が浅くなる……あぁ…………そろそろお迎えが来るのね……
 
 私の周りで3人の子供たちが泣いている……その隣りで夫が何か言っている………………後悔があるとすれば子供たちを残していく事。


 ごめんね、こんなお母さんで…………幸せに……な…………て……――――――――――


 プツンッ。


 私の意識はそこで途切れ、暗闇へと落ちていった。




 ∞∞∞∞


 
 最期はお迎えがくると思っていたのに……来なかったな………………

 ゆっくり目を開けると、眩しいほどの日差しと美しい模様の天井、そしてシャンデリアが輝いている。ここが天国ってやつね……なんて綺麗………………うっとりと浸っていると、意識がはっきりしてきたのでゆっくりと起き上がってみた。
 さっきまで病院のベッドで寝たきりだった自分は、まるで中世ヨーロッパのお姫様になったかのような部屋の豪華なベッドで寝ていた。ベッドの寝心地はまさに天国のようなフカフカさで、ずっと寝ていたいと思わせるほど。
 でもここは……天国?

 何かおかしい…………天国に行った事もないのにおかしいも何もないのだけど、明らかに人が住む家のように見える。
 
 
 あの時、確かに命は尽きたはずだ――――――

 私は末期の乳ガンだった。3人の子供の母で、子育てしながら朝から晩まで働き詰め、病気に気付く間もなく働いていたら症状を発症し、時すでに遅しという状況に…………30代と若かった事もありあっという間にガンは転移し、そのまま亡くなった…………はずだ。
 
 私の周りで子供たちが泣いている姿を見たし、夫もそこにいた――――全く子育てに無関心で家事も無頓着な夫。
 
 そう、私はほぼ一人で全て回していたのだ。
 子供たちは可愛かったけど、夫に対しての気持ちは冷え切っていた…………最後も何か言っていたような気がするけど、大方私がいなくなったら子供たちはどうするんだとか、そんな事でしょうね…………辛辣な言葉しか出て来ない。来世があるのなら結婚はうんざり。子供だけ育てて生きていけたら、どんなにいいか。

 考えがぐるぐるしていると、ふいに扉がトントンとノックされる。自然と「はい」と返事をすると、扉がそっと開かれた。


 「あ、お目覚めになられましたか、お嬢様……」

 
 私の顔を見て心底ホッとしたような表情をした、この可憐な女性は誰?全く記憶にない可愛らしい女性の登場に戸惑いながら、彼女の顔を見つめていた。
 あまりにもジーッと見つめていたせいか、その女性は私の顔を覗き込み心配そうに額に手を当てる。

 「お熱は下がられたようですね……まだボーっとしますか?オリビアお嬢様」


 オリビア?今、オリビアと言った?
 私を見てオリビアお嬢様と言ったその女性は、何か間違った事を言っただろうかとキョトンとしている。
 目が覚めた時、確かに少しだけ違和感を感じていた……まさか、と思い可愛らしい掛け布団をよけてベッドから下り、立ち上がろうとすると眩暈で立ち眩みがする。

 
 「お嬢様!」

 すぐにその女性が駆けつけて支えてくれた。

 「申し訳ないんだけど……ドレッサーのところまで支えてくれる?」

 「承知いたしました。でも、無理はなさらないで下さいね……高熱で6日ほど寝込まれていたのですから……」
 「6日…………」
 
 その言葉にも驚きを隠せなかったけど、とにかく確認しなければ。でも、流石に脚に力が入らない……何とか力を借りて、重い体を引きずりながらドレッサーまで辿り着く。小さな椅子に座らせてもらい、自分の顔を鏡に映すと、世にも美しいお姫様がそこにいた。

 この美少女は、どちら様?

 ツヤツヤのラベンダーピンクの髪が腰の辺りまで伸び、陶器のような白い肌にほんのりピンクがかった艶の良い唇は形が整っている。世の男性が見たら誰もがその唇に触れたくなるに違いない。
 
 「これが、私?」


 家事のし過ぎで荒れ放題だった手は、指先まで綺麗に手入れされているし、何もかもが自分のものとは思えなかった。そんな私の様子を見ていた女性が誇らしげに言う。

 「はい!お嬢様は世界一美しいのです。寝込んでいましたので少しお痩せになられましたが……でも美しさは全く変わりません!」

 
 ……なんて可愛い事を言ってくれるのかしら、抱きしめてあげたい。ところどころで30代だった自分が出てきて、お姉さんのような気持ちになってしまうのだった。



 
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