上 下
79 / 124
第6章

閑話 七転八倒、王国軍

しおりを挟む


※作中に少しだけ登場する論理クイズの文章は、自作ではなくネットで拾ったものです。結構有名な問題のようなので、ご存じの方もいるかも知れません。









 王国軍を率いる国主シュレインが、将軍と共に、従軍魔法使いを除いた軍の半数を率い、何も知らないまま精霊の迷い家へ突入してから、7時間以上が経過した。
 突入当初は高く昇っていた太陽も、今や傾くの超えて沈みかけ、山の中は早々に、薄暗闇の色で塗り潰され始めている。

 にも関わらず、シュレイン達は誰1人、一向に村から戻って来ない。
 精霊の加護を無効化された小さな村をひとつ、物量に任せて押し潰し、蹂躙するだけという、極めて容易い作戦だというのに、だ。
 極めて異常な事である。

 当然、本来後詰め役を担うはずの兵士達はみな、王があまりも長く拠点へ戻らぬ事に不安を覚え、大なり小なり浮足立っていたが、それでもなお彼らは、王を置いて逃げるという選択肢を、軽々に選び取る事ができずにいた。
 レカニス王国軍に属する兵にとって、敵前逃亡は重罪に当たるからだ。

 しかも、国家の頂点に立つ王を見捨てたとあれば、極刑の沙汰を下されるのは必至。更に言うなら、下手をすれば自身の家族や親類にまで責が及ぶ可能性もある。
 となれば、どれほど酷い状況に陥ろうと、誰しも足が動かなくなるものだろう。

 そんな中、王の身を案じた将兵達は、これはもしや、村の内部で不測の事態が起きたのではないか、と考え始めた。
 現時点において、ザルツ村攻略完了の報がなく、王に次ぐ指揮官である将軍もまた不在である以上、できる限り早期に王の健在を確認し、新たな指示を仰がねば、軍が軍として立ち行かなくなる、とも。

 やがて彼らは、山のふもとにて精霊封じの魔法を交代で行使し続けている従軍魔法使い200名と、後方支援兵300名、そして、それらの護衛役に抜擢された、騎士の称号を持つ騎兵1000名に後を任せ、残る全ての兵力を以て、村へ突撃する事を決めたのである。
 その結果――

「ダメだああああっ! 黄色と緑の飴玉は規定数消せるのに、どうしても青い飴玉が消せずに残ってしまううううっ!」

「どぉすんですかあっ! もう兜も具足もなけりゃ、鎧もありませんよ!?」

「ぐぐぐ……っ! か、かくなる上は、魔法使い連中の杖を……」

「そんな! 杖をなくしたら、威力のある魔法が使えなくなります!」

「そうだそうだ! 結界だって張れなくなるんだぞ!」

「そんな無茶苦茶言うくらいなら、お前らの剣でも差し出しゃいいだろ!」

「そっちこそ無茶言うな! 俺達だって剣がなけりゃ戦えねえよ!」

「つーか、精霊封じの魔法はどうした! 早くこの空間をどうにかしろ!」

「さっきからやってます! やってるんですよ! でも効かないんです! 全然効果がないんですよぉっ!」

「はあ!? なんでだよ!? 山の周りの結界には効いただろ!?」

「まさかお前ら、この期に及んで精霊相手の戦いに腰が引けて、手ぇ抜いてるんじゃないだろうな!」

「なんだと!? 貴様、我々を愚弄する気か!」

「内輪で揉めるなこのバカ共が! それより、何でもいいから早く装備を!」

《――クリア失敗から30秒経過しました。プレイヤーにコンティニューの意思がないと見做し、外部へランダム転送します》

「げぇっ! ちょっ……! 待て! 頼むから待ってくれ! コンティニューする! すぐにするからもう少しだけ待っ――」

「あああっ! しょっ、小隊長ーーーっ!!」

「ひいいいいっ! ほ、ホントに消えたああああっ!」

「畜生! お前らが装備品の供出を渋るからだぞ!」

「人のせいにするな!」

「こうなったらお前が行け! 責任持って身ひとつでゲームをクリアしろ!」

「無茶言うなっつってんだろうがッ!」


 哀しいかな。
 後続突入部隊は、第1領域の金満系クソゲーに散々翻弄された挙句、互いに責任をなすり付け合って仲間割れを始めていた。
 挙句、どうにか第1領域を突破する頃には人員全てがめぼしい装備を失った上、多くの兵士がランダム転送の餌食となり、その総数を3分の1以下に減らしていたのである。

 そして、肝心の主力部隊、シュレイン率いる本隊は――

「……自分より下にいる人間の帽子の色を見る事は可能だが、自分を含め自分より上にいる人間の帽子の色は分からない。一番上の人間から順番に自分の被っている帽子の色を予想して全員に聞こえるように叫……。こんなもの分かるかああああッ!!
 国主たる私をどこまで愚弄すれば気が済むのだこの空間はあああああッ!!」

「あああああ……。赤青緑が頭の中でグルグルとぉ……」

「もう嫌だ……。もう帽子の事なんて考えたくない……っ」

「おい貴様ら! 何をぼさっとしているのだ! 私だけに押し付ていないで、貴様らも少しは考えろッ!」

「も、申し訳、ございません……。考えております、おりますが……」

「む、無理ですぅ……。分かりましぇん……」

「や、やばい……。頭が、頭が痛い、頭が割れるぅ……」

「うぷっ、オエッ……。か、考え過ぎて、吐き気が……」

「もぅ帰りたい……お家帰るぅ……」

「おい起きろ! 考えんかっ! クソ、どいつもこいつも役立たずな……っ!」

 シュレインは、問題が刻まれている石碑の前でヒステリックに叫びながら頭を掻き毟り、残る将軍と兵士達は、揃いも揃って虚ろな目でへたり込んだり倒れ込んだりした状態で、力なく呻いていた。

 しかしながら、シュレイン達の前に立ち塞がる問題はまだ4問目。序盤もいい所である。
 正直な所、この先に待ち受けている設問の内容を思うだけで、シュレインは眩暈を覚えずにいられない。だが、この場の誰より気位とプライドの高いシュレインは、口が裂けてもその本音を吐き出すまいと、固く歯を食いしばっていた。
 どちらにせよ、無駄なあがきでしかなかったが。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します

もぐすけ
ファンタジー
 私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。  子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。  私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。  

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

処理中です...