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第6章
閑話 七転八倒、王国軍
しおりを挟む※作中に少しだけ登場する論理クイズの文章は、自作ではなくネットで拾ったものです。結構有名な問題のようなので、ご存じの方もいるかも知れません。
王国軍を率いる国主シュレインが、将軍と共に、従軍魔法使いを除いた軍の半数を率い、何も知らないまま精霊の迷い家へ突入してから、7時間以上が経過した。
突入当初は高く昇っていた太陽も、今や傾くの超えて沈みかけ、山の中は早々に、薄暗闇の色で塗り潰され始めている。
にも関わらず、シュレイン達は誰1人、一向に村から戻って来ない。
精霊の加護を無効化された小さな村をひとつ、物量に任せて押し潰し、蹂躙するだけという、極めて容易い作戦だというのに、だ。
極めて異常な事である。
当然、本来後詰め役を担うはずの兵士達はみな、王があまりも長く拠点へ戻らぬ事に不安を覚え、大なり小なり浮足立っていたが、それでもなお彼らは、王を置いて逃げるという選択肢を、軽々に選び取る事ができずにいた。
レカニス王国軍に属する兵にとって、敵前逃亡は重罪に当たるからだ。
しかも、国家の頂点に立つ王を見捨てたとあれば、極刑の沙汰を下されるのは必至。更に言うなら、下手をすれば自身の家族や親類にまで責が及ぶ可能性もある。
となれば、どれほど酷い状況に陥ろうと、誰しも足が動かなくなるものだろう。
そんな中、王の身を案じた将兵達は、これはもしや、村の内部で不測の事態が起きたのではないか、と考え始めた。
現時点において、ザルツ村攻略完了の報がなく、王に次ぐ指揮官である将軍もまた不在である以上、できる限り早期に王の健在を確認し、新たな指示を仰がねば、軍が軍として立ち行かなくなる、とも。
やがて彼らは、山のふもとにて精霊封じの魔法を交代で行使し続けている従軍魔法使い200名と、後方支援兵300名、そして、それらの護衛役に抜擢された、騎士の称号を持つ騎兵1000名に後を任せ、残る全ての兵力を以て、村へ突撃する事を決めたのである。
その結果――
「ダメだああああっ! 黄色と緑の飴玉は規定数消せるのに、どうしても青い飴玉が消せずに残ってしまううううっ!」
「どぉすんですかあっ! もう兜も具足もなけりゃ、鎧もありませんよ!?」
「ぐぐぐ……っ! か、かくなる上は、魔法使い連中の杖を……」
「そんな! 杖をなくしたら、威力のある魔法が使えなくなります!」
「そうだそうだ! 結界だって張れなくなるんだぞ!」
「そんな無茶苦茶言うくらいなら、お前らの剣でも差し出しゃいいだろ!」
「そっちこそ無茶言うな! 俺達だって剣がなけりゃ戦えねえよ!」
「つーか、精霊封じの魔法はどうした! 早くこの空間をどうにかしろ!」
「さっきからやってます! やってるんですよ! でも効かないんです! 全然効果がないんですよぉっ!」
「はあ!? なんでだよ!? 山の周りの結界には効いただろ!?」
「まさかお前ら、この期に及んで精霊相手の戦いに腰が引けて、手ぇ抜いてるんじゃないだろうな!」
「なんだと!? 貴様、我々を愚弄する気か!」
「内輪で揉めるなこのバカ共が! それより、何でもいいから早く装備を!」
《――クリア失敗から30秒経過しました。プレイヤーにコンティニューの意思がないと見做し、外部へランダム転送します》
「げぇっ! ちょっ……! 待て! 頼むから待ってくれ! コンティニューする! すぐにするからもう少しだけ待っ――」
「あああっ! しょっ、小隊長ーーーっ!!」
「ひいいいいっ! ほ、ホントに消えたああああっ!」
「畜生! お前らが装備品の供出を渋るからだぞ!」
「人のせいにするな!」
「こうなったらお前が行け! 責任持って身ひとつでゲームをクリアしろ!」
「無茶言うなっつってんだろうがッ!」
哀しいかな。
後続突入部隊は、第1領域の金満系クソゲーに散々翻弄された挙句、互いに責任をなすり付け合って仲間割れを始めていた。
挙句、どうにか第1領域を突破する頃には人員全てがめぼしい装備を失った上、多くの兵士がランダム転送の餌食となり、その総数を3分の1以下に減らしていたのである。
そして、肝心の主力部隊、シュレイン率いる本隊は――
「……自分より下にいる人間の帽子の色を見る事は可能だが、自分を含め自分より上にいる人間の帽子の色は分からない。一番上の人間から順番に自分の被っている帽子の色を予想して全員に聞こえるように叫……。こんなもの分かるかああああッ!!
国主たる私をどこまで愚弄すれば気が済むのだこの空間はあああああッ!!」
「あああああ……。赤青緑が頭の中でグルグルとぉ……」
「もう嫌だ……。もう帽子の事なんて考えたくない……っ」
「おい貴様ら! 何をぼさっとしているのだ! 私だけに押し付ていないで、貴様らも少しは考えろッ!」
「も、申し訳、ございません……。考えております、おりますが……」
「む、無理ですぅ……。分かりましぇん……」
「や、やばい……。頭が、頭が痛い、頭が割れるぅ……」
「うぷっ、オエッ……。か、考え過ぎて、吐き気が……」
「もぅ帰りたい……お家帰るぅ……」
「おい起きろ! 考えんかっ! クソ、どいつもこいつも役立たずな……っ!」
シュレインは、問題が刻まれている石碑の前でヒステリックに叫びながら頭を掻き毟り、残る将軍と兵士達は、揃いも揃って虚ろな目でへたり込んだり倒れ込んだりした状態で、力なく呻いていた。
しかしながら、シュレイン達の前に立ち塞がる問題はまだ4問目。序盤もいい所である。
正直な所、この先に待ち受けている設問の内容を思うだけで、シュレインは眩暈を覚えずにいられない。だが、この場の誰より気位とプライドの高いシュレインは、口が裂けてもその本音を吐き出すまいと、固く歯を食いしばっていた。
どちらにせよ、無駄なあがきでしかなかったが。
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