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第6章

6話 精霊の迷い家~第2領域・風雲ザルツ城改悪版~

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    クソ王率いる王国軍が、精霊の迷い家に突入してから4時間が経過した。
 私達は、途中で休憩やご飯タイムなどを挟みつつ、相変わらず高みの見物を決め込んでいます。
 一方、最初に足を踏み入れた第1領域にて金満系クソゲーの餌食となり、揃いも揃って装備を失い、ほとんど丸腰に近い状態になった連中は、それでもめげずに第2領域の攻略に乗り出している。

 第2領域に設置してあるのは、知力・体力・時の運、その3つを兼ね備えし者だけが踏破できる(と思う)、いやらしさ満載のアスレチックステージ、その名も『風雲ザルツ城改悪版』だ。
 ネーミングを聞いて察しが付いた方もいるかと思うが、これは、昔人気だった某バラエティ番組の内容をパクッ…もとい、一部参考にして構築した舞台となっている。

 この領域での一番の見所は、のっけから挑戦者の前に立ち塞がる難所にして難関、その名も『ロックオン丸太橋』。
 全長100mに及ぶ丸太の一本橋を渡っている最中、凄まじい勢いで弾丸代わりのバレーボール(パステルピンク)が大砲の弾丸の如き勢いで飛んでくる、というものだ。

 うん。一部参考にするどころか、もはや完全に某番組の内容を丸パクリしてるよね。ごめん。
 まあなんにしても、この丸太橋から落ちたが最後、橋の手前のスタート地点からやり直しとなるので、連中には精々頑張ってもらいたい。

 ちなみにこのバレーボール大砲、球速が140~180kmの間になるよう設定してある為、当たり所の良し悪しに関わらず、直撃すれば大抵の人間が一発で丸太橋から落下すると思われる。
 連中の大半は鎧兜を失ってるし、ボールが当たったら相当痛いだろうな。
 でも、一応大砲の発射時に、わざと多少のタイムラグが出るようにしてあるから、よく考えて上手くタイミングを図れば、最後まで渡り切れるはず。多分。

 ……なんて説明してる傍から、モニターの中ではクソ王達が、丸太橋を渡ろうとしては、可愛いピンクのバレーボールを身体のどっかしらにぶち込まれ、橋からポロポロ落っこち続ける様子が映し出されている。

 ホラどうした、頑張れ。こんな序盤で折れてもらっちゃ困るぞ。
 この丸太橋を抜けた後も、私とレフさんとモーリンが知恵とアイディアを出し合って作った、頭と身体を酷使させ、神経をすり減らさせるステージがまだまだ続くんだから。

 床にグリッド線が引かれているだけの、無特徴かつ広大な室内にて、挑戦者の記憶力と反射神経が試される『ドキッ! 落とし穴だらけの殺風景な大広間』とか、典型的な迷路の中、クソ長いギミックを通り抜けた末、時間差で起動して挑戦者に襲い掛かるトラップが満載の『ピタゴラスイッチの嫌がらせ大迷路』とか。

 その他にも、最初に表示された分かりづらい間違い探しの答えが、正しい通路に続くドアを開けるヒントになってる『正しいドアはどっちでSHOW』っていうのもあるし、問題文を読んでるだけで頭の血管が切れそうになる、イライラ系長文論理クイズを10問解かないとドアの鍵が手に入らない『全問正解するまで通れま10』とかいうのもあります。

 ……うん。どの名称も大体みんなパクリですね。ホントすいません。

 しかし、私がちょっぴり内省しているその傍らでは、すっかりモニター視聴に慣れた村のみんなが、飲み物片手にやんややんやと楽しげな声を上げていた。
 ついでに私も横からシエラにつつかれて、モニターに視線を戻す。
 モニターの中では、今まさにあのクソ王が、ヨタフラしながら丸太橋を渡り切らんとしていた。

「ほらプリム、見て! あいつ渡り切るわよ!」

「えっ? ……おおお、イケるか!? 今度こそ最後まで行くか!?」

 私が画面を注視したその瞬間、ついにクソ王が丸太橋を渡り切り、その場にガクリと膝をついて倒れ込んだ。
 その途端、モニターの前がワッと盛り上がる。
 もはやこの場において、『村に攻め入られているか弱い平民達と、圧倒的武力を振りかざして突入してきた王国軍』という図式は、完全に崩壊していた。

 ていうかさ、これもうただ単に、『お茶の間でバラエティ番組を見て楽しんでいる視聴者と、身体を張って番組に出演してる芸人軍団』に成り下がってるよね。今の私達と王国軍の関係。

 つか、ここも結界で覆われてて声が外に漏れないからって、みんなちょっとはしゃぎ過ぎなんじゃありません?
 なんかもう、悲愴感どころか緊張感の欠片さえないですやん……。
 何だかんだ私もノッちゃってるし、「お前が言うな」って突っ込まれそうだけど。

「行った! 抜けたぁ! ついに丸太橋抜けたわね、王様! なんか顔面腫れてるけど!」

「ああ、さっき横っ面に一発喰らってたもんねえ」

「まあ、歯が折れなくてよかったんじゃない?」

「え、そう? あれ、前歯折れてるように見えるんだけど」

「えぇ~~。折れてるの? ホントにぃ?」

「ホントよ。ほら、口押さえてるじゃない。血も出てるし」

「あらら、本当だわ。お気の毒様ねえ」

「あーあ、あんなピンクのボールを顔面にブチ当てられて歯が折れちゃうとか、ないわぁ」

「ホントにね~~。かわいそ~~」

「なにが「かわいそ~~」よ。全然憐れんでないでしょ、あんた」

「はははっ! そりゃしょうがねえだろ、なんだかんだ言っても敵なんだし」

「だよな。……おーおー、スカしたイケメン面がだいぶ残念な事になってんなぁ」

「つか、いつまで経ってもへたり込んだままだな、あの王様。次に進む為のドアには、まだ手をかけねえのか」

「そりゃ、まだ丸太橋渡り切ってるのは、王様含めて5、6人しかいねえし、慎重になってんだろ」

「それもそうだよな。今は王様も剣一本しか持ってねえし、もっと頭数揃えてからじゃないと、先に進むにゃおっかねえよなあ」

 村のみんなは、口々に今のクソ王の様子などを楽しげに語り合う。
 うん、これもうマジでただの視聴者だね。

「ていうか、エグかったもんなあ、ここに来る前の飴玉パズル。お陰で非武装の兵士も相当増えたが……」

「十二分過ぎるほどの助けだろう。この分では王国軍の大半は、精霊の迷い家を無事に抜け切ってもろくに戦えんだろうな」

「ああ。猟師会の人員からすれば、ほとんど非戦闘員と変わらんよ」

 しかし、はしゃぐ声の中に混じって、ちょっと後ろの方から割と真面目な会話も聞こえてくる。アステールさん達だろうな、多分。
 アステールさんごめん。色々と真剣に考えてくれてる所申し訳ないが、あのアトラクションの数々を全クリする奴なんて出ないよ。

 現状、それなりの救済措置を設けて先へ進ませてやっているのは、あくまで連中を心身共に疲弊させる為。私もレフさんもモーリンも、精霊の迷い家を最後まで踏破させるつもりなんて、ハナっからないんだから。

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