可愛くなりたい訳じゃない!

mana.

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『推し』

分かる。ファンだったってことだよね?

「私…悪役令嬢の後ろに隠れる…その…貴方が凄く儚げで…っ…あぁあっ…好きぃっ…!」

「ブッ…儚…っ!」

「黙れジルコン。」

「初めて会った時…儚い雰囲気は無かったけど…でも、それが更に可愛さを引き立てて…好きすぎて…目も合わせられなくて……どうしよう…ガーネット…!」

「ハイハイ…ベリーは、兄様に憧れすぎて近寄れなかったのよね。」

「他のみんなには寄れたのに?」

「転生後の混乱でゲームの世界で夢なら…って思っちゃって…少しでも貴方の近くにいたくて…はぁぁぁ…っ…穴があったら入りたい…」

「兄様をすれば良かったのにね。」

「もう!だから言ってるじゃない。ヘリオドール様は隠れキャラだったのよ!攻略が難しくて…私は恋愛というより尊すぎてそれ以上だから近くで拝むので十分だったの。それに…ヘリオドール様は…」

「フフッ…『ヤンデレキャラ』だっけ?」

「ガーネット!」

『尊過ぎ』『拝む』…言ってることが元日本人の俺でも理解に苦しむが…ヤンデレ……確か…

「束縛が強くて、結婚後はヒロインを監禁するんですって。」

おおぅ…何してはりますのん、ヘリオドール。あ、俺か。

「ふ~ん…ヤンデレ…ねぇ…」

「ベリル。」

何でそこに反応するんだよ。

「…フフッ…お前になら…束縛されても良いな、チュッ。」

「「ひゃぁ♡」」

ん?今、ベリルに頭をキスされたけど…
パール以外にもう1人声がした?

「…ストロベリー様……」

「…ベリーで結構よ…パールさん…」

「…私もパールで結構…ところで…よろしければ近々私ともお話をしませんか?」

___ガシッ!___

「…喜んでっ。」

聖女とパールが熱く握手する。
何だろう…不安が増えた気がする。
食事の後にガーネットと聖女は部屋へと戻り、ベリルは王宮から迎えが来たので俺は見送ることにたんだけど…只今…

「…帰りたくない…」

「パールに見つかる…それに…聖女もっ…」

移動中に空いてる部屋に引き込まれ、ベリルにキスされそうになったが俺は顔を反らした。

「見せれば良い。」

「俺にそういう趣味は…ない。」

「チュッ…残念。」

「あ…んっ…だから…」

首筋にキスをされて昨日のことを思い出す。
…ヤバい…っ…ガーネット達のところに戻れなくなるじゃん!

「…俺は…チュ…束縛しても…良いからな…チュ。」

「ん……それは…俺じゃ…んぅ…」

首筋から耳裏へと唇が移り、俺の唇に合わさった。

「チュ…リオ…ん…」

「ふっ…ベリ…ん…っ…」

「…チュク…リオ……もう…その顔…俺がお前を閉じ込めたくなる…誰にも見せるなよ。」

「ふぁ……ん…どんな…顔…だよ…」

「その顔……レロッ。」

「んぅっ…」

キスの後に耳の中を舐められると、もっとして欲しくなる。

「…本当に帰りたくないけど、そろそろジルコンが来そうだから名残惜しいけど帰るよ。今度…休みに旅行に行こう、チュ。2人だけで。」

「旅行…」

そういえば、入学してから行ってなかったな。

「うん、分かった。」

繋がった手が離れて、指先が離れると喪失感がドッと押し寄せる。
王宮まで…一緒に着いて行きたい。

俺は馬車の姿が見えなくなるまで見送った後は、俺とガーネット・聖女と話をすることになった。



*****************



「…で、聖女は…」

「あ、私のことはベリーと呼んで下さい。実は孤児院ではベリーと呼ばれてたんです。」

「分かった。じゃぁ、俺のことはリオって呼んでね。」

「リリリリ…リオ…様…っ!」

「フフフッ、そんなに固くならなくても。ただのリオで良いよ。友達はみんなそう呼んでる。」

「でも…」

「推し…だっけ?でも、俺って儚くないんでしょ?」

「ここはゲームの世界と同じなのにキャラクターはみんな微妙に違ってて…」

「じゃぁ、緊張する必要ないじゃん。ここにいるリオは…その…ベリー…の…違う世界なんだから。」

「…はい…」

可愛い子に呼び捨てって…初めて言ったよ。
顔を真っ赤にして嬉しそうに返事をするベリー。

「ねぇ…ベリー…俺は…俺だよ?君のそのゲームのリオはどうか分からないけど…ゲームや物語のリオなら、きっと儚くて…脆くて…そして…病んでるんだよね?」

「フフ…全く違いますね。」

「うん、俺は束縛嫌いだしね。」

…付き合った彼女達が束縛系が多かったからなぁ…嫌なんだよねぇ。

「俺と君は初めましてだよ。だから…そんなに畏まらないで。俺は貴族だけど…君は聖女だ。下手したら君の方が身分は上だよ。」

「でも…私は…」

「チャームの魔法は…俺達もビックリだったけどさ。でも、ちゃんと罪は償ってる。そうだ!ベリーの転生前の話を聞かせて。」

「兄様、ベリーの話はとても面白いのよ。聞いたら驚くんだから。」

日本の話を…俺の生まれた故郷の話も聞けるだろうか。

「…信じていただけるのであれば。」

「フフッ、ガーネットにもだけど俺に敬語はいらないよ。」

ベリーは深い溜息をつくとゆっくりと話し出した。
ベリーは転生前の名前を忘れたらしいが、東京で育った。
小学時代は満点で過ごした優等生が、中学で躓きコミュニケーション能力も低かったとかであっという間に孤立したそうだ。
イジメは無かったようだが、相談できる友達もいなかったので学力も次第に落ちていき自信も気力も無くなって、ある日ベッドから起き上がれなくなった。
色々な病院で診てもらいながら原因不明が続いたある日、ある病院で1つの病気が見つかり…そして入院して目覚めたらここだった…らしい。

「私…親に認めてもらいたかった。親は完璧だったから。」


___私…どうしたら良いのか…___


そういや…おばさんも言ってたな。


「どうせ何言っても信じてくれない。」
___何を言っても「ママは今まで充実した人生だから絶対理解してくれない。」と、拒否される___


「私は…あの世界で1人だった…」
___私達は大事なあの子を助けたいのに___


母と叔母が話してた、叔母の不登校のイトコの話。


「話たいのに…」
___話たいのに___


そっか、ベリーの話を聞いて何となく分かった。
同じ方向を向いているのに…お互いを向いていなかったかもしれない。


「ねぇ…俺も…聞いた話をしても良い?」


転生したからもう遅いけど…この子の心の澱を無くしたい。
人を抱き締める代わりにクッションを抱きしめて小さくなっているこの子に、もしかしたらベリーのお母さんもそう思ってたかもしれない。
この世界でも同じ勘違いをして欲しくない。
そんな気持ちで、ベリーの手にそっと触れて俺は話し始めた。
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