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終章
リナリアの夢【2】
しおりを挟む「『ジーン』って愛称、すごく良いですね。響きが好きだなぁ。あ、そうだ。それなら、僕のことも『乃亜』と呼んでください。ね、ジーン?」
「うああ、っ」
「どうしました? ジーン。ほら、『乃亜』って呼んでみてください。ジーン、あなたの声で聞いてみたい。僕、ジーンの声が大好きなんです」
「ちょっ。畳みかけるの、やめて。『好き』と『ジーン』の連発で胸が破裂しそう。突然の直球ラブラブ供給に気持ちが追いつかないよ。でも、俺も言いたい。——乃亜、愛してる」
僕も、と乃亜の口が動く前に、ユージンがそれを塞いだ。きつく抱きすくめられ、何度も唇が重なる。
胸の奥から湧き上がってくるのは、ひと月近くも乃亜を苦しめた悪心ではなく、甘い甘い愛しさのみ。
ユージンの腕にすっぽりと囲われた幸福の中で、乃亜はふと思う。
うーん、すごく幸せだけど……。
「ねぇ、乃亜。俺、すげぇ幸せなんだけどさ。『なんで、トイレ?』って、ふと気づいちゃったんだよ。想いが通じて嬉しいからスルーするけど。『一生に一度の大告白の場がトイレって、どうよ!』って遠い目になった。場所柄も考えずにこんなとこで暴走して、ごめんなさい」
ふふっ。気が合うな。
チラリと横に目線を流しながら、乃亜は笑みを零す。
視線の先は、壁に備え付けの鏡。
自分と同じことを考えたと言った相手を鏡越しに見て、鏡下の洗面ボウルに置いたリナリアと百合にまた笑みを浮かべた。
——なんで、トイレ? 一生に一度の大告白の場がトイレって、どうよ!
乃亜の感想も全く同じだけれど、恋の成就の喜びを思えば、差し引きゼロどころか、お釣りがくる。ユージンが告白してくれたから、花吐き病も治癒したのだ。
「ジーン? 謝るところは、そこじゃないと思う。場所柄を考えず、ではなく、ここで大告白した時のあなたの絶叫が館内中に響いたかもしれない可能性について、ではないですか?」
「うっ。それは……たぶん、おっしゃる通り……です」
「ま、何とかなるでしょう。それより、もう一度、キスしませんか?」
細かいことは、ここから出てから考えればいい。
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