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第二章
花言葉の疼き【2】
しおりを挟むいつの間に、こんなに恋心が肥大していたんだろう。焦がれるあまり、花を吐くほどに。
片手で、両の瞼を覆う。熱い雫が頬に零れる前に、手のひらでとどめた。
この気持ちも、こんな風に隠せるだろうか。
いや、隠し通さねばならないことは承知しているけれど。手のひらで押さえたはずの涙が指の隙間から漏れ落ちてしまうように、いざ、彼を目にすれば、自分はまた胸の奥から花を溢れさせてしまうんじゃないだろうか。
「ユージン」
初めて、金髪のカメラマンのファーストネームを声に乗せてみた。
即座に鼓動が加速し、膨れ上がった想いが乃亜の胸をきりきりと圧迫する。
好きだ。好きだ。好きだ。
本気の恋だと自覚してしまったから、簡単に『好き』が零れ落ちる。
だが、自分は花吐き病の罹患者。片想いを続けることは、花を吐き続けるということ。本気だからこそ、乃亜は絶望に打ちひしがれる。
ユージンを想う気持ちは、もう消せない。『好き』は増していくばかりだが、決して表に出してはいけないし、花吐き病だと知られてもいけない。
乃亜の胸中で、欲望と自制がせめぎ合う。
ユージン・京・リンゼイは、関西での仕事が終われば、彼の居場所へと戻っていく人だ。
歴史専門誌のカメラマンとして、仕事上、必要な知識を乃亜から吸収したいと言っていた。ユージンにとっては、たまたま紹介で知り合っただけの間柄。
けれど、別れが確実にやってくると知っている相手だから、それまでは凛としていたい。
ユージンが買い被ってくれている通りの、彼にとっての考古学の先生でいたい。会えなくなった後も、そのイメージだけは守りたい。
片想いと病気の両方の絶望に涙してしまう、弱い男。嶋村乃亜の本当の姿は隠し通す。
花吐き病は苦しい病気だ。
堪えがたい嘔吐感はメンタルを弱らせるし、花を吐き出す際の苦痛は相当なもの。その上、治療方法は一つしかない。
意中の相手と、相思相愛になること。これのみ。
「ユージン、好きだ」
だが、相愛の見込みが無い者は、叶わない片恋の悲嘆がいつまでも続く。愛する相手を想っては、花を吐き続ける。
「会えなくなっても、ずっと好きだよ」
消せない想いを愛しく抱きしめ、恋の花を咲かせ続ける。
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