8 / 17
第三章
衝撃の告白【1】
しおりを挟む立ちのぼる陽炎の向こう、恋しい姿が滲んで揺れている。涙を浮かべているわけでもないのに、儚く揺れている。
「あっ、嶋村さーん!」
大きく手を振り、こちらへ駆けてくる長身。今日も会えた。それだけで嬉しい。知らず、心臓が躍る。
鼓動が高鳴る切なさを、乃亜は初めて知った。
「あの、すみません。不躾な質問なんですけど、もしかして嶋村さん、体調悪いんじゃないですか? どうも痩せてきたように感じるんですけど」
「え……」
開口一番、ズバリと切り込まれた。乃亜の心臓が、恋の疼きとは別物の躍動を刻む。
言い当てられてしまった。ユージンに片想いしていると自覚してから、一週間。日に日に食欲が減退している。昨夜はレトルトのお粥を残してしまったし、今朝は何も食べていない。昼休憩の今は、敷地内の庭園でスポーツドリンクをちびちび飲んでいたところだ。
ろくに食べていないのに、連日、花を吐いている。
こじらせた想いの結晶を花の形で吐き出しているのだから、本人の栄養状態はそこに関与していないのは明白なのだが、花吐き病という奇病のメカニズムは本当に不思議だ。
不思議なことは、もっとある。リナリア、バラ、ガーベラに水仙。日々、自らが生み出す花がどれも本当に美しいことに、乃亜は気づいてしまった。誇らしいやら悲しいやら、だ。
が、どれほど美しくても、他者にとっては病の感染源となる花。恋情の証の花を自分の手で焼却する毎日が、彼を精神的に追い詰めている。
「そう、でしょうか。大丈夫ですよ。確かに合同発掘調査の準備で忙しいですが、体調は万全です」
けれど、真実は誰にも伝えることはできない。真剣な表情で心配の言葉をくれた金髪のカメラマンにこそ、嘘をつかなければ。
「本当ですか?」
「もちろんです。嘘をつく理由がありません。なんなら、来週、健康診断があるので、結果をお知らせしましょうか? 実は私、文化財研究所で一番の健康優良児なんですよ」
「えー、マジですか? 俺、事務員さんに裏取っちゃいますよー?」
「構いませんよ。事務職の皆さんもご存知のことですから」
これは本当。来週、健康診断があることも、乃亜の健診結果が常に良好なことも。だから、最も隠したい現在の体調についての嘘に信憑性が持たせられた。
「そうなんですね。あー、でも、嶋村さんなら頷けちゃいます。健康管理、完璧そうですもん。俺はだめだなぁ。毎日のように夜更かししてるから」
無理をして笑う乃亜の『大丈夫』は、ユージンに信じてもらえたようだ。
よし、これで良い。それに、ちょうど会話も途切れた。昼休憩が終わるまでにまだ間があるが、何か理由をつけて立ち去ろう。
「リン……」
「嶋村さんの健康が確認できたので、安心して俺の話が出来ます。今日は大事な話があって来たんですよ。俺、応募してた海外の企画に起用されたんですよ。次の仕事から北京を拠点にアジア各国を巡るんです」
え……。
1
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。
幸せのカタチ
杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。
拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
アルファとアルファの結婚準備
金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。 😏ユルユル設定のオメガバースです。
完結•枯れおじ隊長は冷徹な副隊長に最後の恋をする
禅
BL
赤の騎士隊長でありαのランドルは恋愛感情が枯れていた。過去の経験から、恋愛も政略結婚も面倒くさくなり、35歳になっても独身。
だが、優秀な副隊長であるフリオには自分のようになってはいけないと見合いを勧めるが全滅。頭を悩ませているところに、とある事件が発生。
そこでαだと思っていたフリオからΩのフェロモンの香りがして……
※オメガバースがある世界
ムーンライトノベルズにも投稿中
侯爵令息、はじめての婚約破棄
muku
BL
侯爵家三男のエヴァンは、家庭教師で魔術師のフィアリスと恋仲であった。
身分違いでありながらも両想いで楽しい日々を送っていた中、男爵令嬢ティリシアが、エヴァンと自分は婚約する予定だと言い始める。
ごたごたの末にティリシアは相思相愛のエヴァンとフィアリスを応援し始めるが、今度は尻込みしたフィアリスがエヴァンとティリシアが結婚するべきではと迷い始めてしまう。
両想い師弟の、両想いを確かめるための面倒くさい戦いが、ここに幕を開ける。
※全年齢向け作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる