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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】

Summer Breeze【2−6】

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「わぁ! 北斎に広重に、歌麿? あ、写楽に春信、師宣ーっ! わあぁ、どれも綺麗ねぇ。こんなにたくさんのポストカード、ありがとう。素敵なお土産、嬉しいっ」
「良かった。喜んでくれて。浮世絵好きだって言ってたから、これにしたよ」
「奏人は実際に見られたんでしょ? ボストン美術館、浮世絵の展示、たくさんあるもんねー。羨ましい! あー、いいなぁ。私も見たーい! 日本で展示されないかしら。絶対、見に行くのになぁ」
「ふふっ。本当に好きだよね。じゃあ今度、都内の美術館の予定、見といてあげるよ。浮世絵なら定期的に美術展が開催されるだろうしね。もし展示があれば、いつか一緒に行こう」
「うん! うん、行きたいっ」
 嬉しいな。
 奏人は約束を破らない。
 だから、奏人が『今度』とか『いつか』って口にしたことは、『絶対』なんだもん。
 嬉しいなっ。
 奏人との次の約束が、できた。

「ふふっ」
 心の中が、胸が、じんわりと温まる。
 それを噛みしめ、手にしたポストカードを胸に当てながら目を伏せ、ひっそりと微笑んだ。
 私のために浮世絵のポストカードをお土産に選んでくれたり、こんな風に美術展の約束をしてくれる。
 奏人は、いつも本当に、私に優しい。
「……うーん、どうしようか。涼香が喜んでくれるのは俺も嬉しいんだけどね。そんな風にしてるのを見ると、ちょっと複雑だな」
「え?」
 何? 『複雑』って……。
 リビングのソファーで隣り合って座る奏人が、それまでの笑みから少し困ったような苦笑に変えた。
「奏人?」
 その理由を尋ねるように首を傾げれば、右肩に乗った奏人の手によって左側に身体が傾き、奏人の右腕と私の左腕がくっついた。
 近くなった目線が、雄弁に私を覗き込んでくる。
「実は、この浮世絵のポストカードを物色してた時、一色が傍に来てさ。俺がこれを手にしてるのを見たアイツが便乗して、自分の土産に同じものを選んでいったんだ」
「一色くんが?」
 わ、もしかして一色くんも浮世絵好きなのかしら?
「だから、今、涼香が持ってるそれは、高階とお揃いなんだよね」
「あっ、そういうこと? そっか。じゃあ、高階くんが浮世絵好きなのかな。新学期に会ったら聞いてみようかしら? もしかしたら話が合……」
「ということで、高階と揃いのものをそんな風に大事そうに胸に抱え込んだりしたら、駄目だよ」
 え……。
「もちろん、撫でたり頬ずりも厳禁だからね。ムカつくから。すごく」
 引き寄せられた腕の中で、浮世絵好きの仲間が増えたかもと喜んで浮き立った身体が、ぴきんっと固まった。
「ほ、頬ずり……は、しないと思われ……」
 固まった身体をそのままに首だけをぐぎっと戻し、『これだけは言っておかなくちゃ』と思ったことをかろうじて伝えた。

 いくら浮世絵が好きでも、私、ポストカードに頬ずりはしないもん。
 角度や向きを変えたりして、じっくりたっぷり眺めるだけだもん。
「そう? しない? こんなことだよ?」
「ぁっ」
 ひゃあっ!
「こんな風に、したりしない?」
 まっ、真顔!
 奏人こそ、真顔でそんなことしたり聞いたりしないでくださいっ。
 いきなり顔の距離がゼロになって、ほっぺが密着。そして、ふにふにと頬ずりが繰り返されてるけど、すぐ上から見下ろしてくるお顔が思いっきり真顔なのを何とかしてほしい。
「しっ、しな……」
「こんな風に角度や向きを変えたりして、じっくりたっぷり堪能したり、しない?」
「ふぁ、っ」
 しない。
 絶対、しない。だって、これ。
「あ……かな、とっ」
 頬ずりじゃなくて、キス……。


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