ただの魔法使いです

端木 子恭

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雪に閉ざされて

与えるべきものは

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 レイは指を切り落としてしまえと言った。
 二度と武力を泥棒に使えないように。
 グラントは反対だ。
 私刑は加えるべきではない。
 
 一番年上のケイレブに聞いた。
 彼らの所属する騎士団クイルではどうなっているのか。

 私刑は禁止だが、泥棒だけは隊長の裁量に任せられる。

 意味なかった。

 泥棒たちは捕虜と身代金の交換をしていた。
 これから春になるので、一気におこなってよそに移る気でいた。

 泥棒というか、もう組織犯罪。

 平民出身の兵士は従っていただけだ。
 祖国に戻れないし、かといってさらなる逃亡もできない。

 訓練を受けた兵士は、さまざまな手段を知っていたにも関わらず人の屋敷を占拠して居座った。

「レイ、私に半分くれないかな。軍人たちはレイに。平民たちは私に」

 グラントが提案する。
 いいんじゃないか、といったのはケイレブだ。

「悪質さではかればそれが妥当」




 敵の隊長にはきちんとシェリーに謝罪させた。
 
 シェリーはその時初めて衆目に晒された。
 顔立ちは父君に似ている。
 
 表情は全く違った。
 投げやりで無気力な第二王子とは。

 雪の上に立って、民兵に向かって謝意を表した。
 シュトラールの人間に対しても分け隔てなくだ。
 
 シェリーを支えていたのがグラントだったから、商人を通して噂が広がった。
 シュトラールの新興勢力が不遇な王族を救った。
 小さいながら彼女には武力がある。


 グラントはシュトラールに兵士を10人ばかり引き取った。
 しばらく家に帰れなくなった捕虜も何人か連れてきた。
 元軍人たちは牢獄へ収容された。




「おかえり。無事で何より」

 店番を頼んでいたジェロディの、そう言った時の顔を忘れられない。
 やっと目論見通り。というような笑顔だった。

「もうしばらく師匠の顔は見たくありません。
 じじいのところにも行かない。年寄りなんて消え去ればいいのに」
「あはは。褒められたね。年寄りは嫌われてこそだ」

 ジェロディは動じない。
 どっぷり疲れたグラントは店のカウンターに寄りかかってしゃがんだ。

「これからどうするの? 王宮の問題に首突っ込んで」

 師匠の声は楽しそう。

「乗りかかっちゃったので、まずはシュトラールの兵団を磐石に……。
 って、こんなことしてたら店なんて買えないですよ」

 大きなため息が立ち上った。

「本屋なんていつでもできるよ。それこそじじいになってからでも。
 今はもっと別のことやんなさいよ、グラント」
「……余計なお世話」
「あー楽しい」

 殺気立つ弟子を、ジェロディは愉快そうに見ていた。





 その後何日か、夜にレイの館へ通って講習を受けた。
 改まった席での立ち居振る舞いや服装についての講習をである。

 シェリーと並んで講師にものすごく注意を受けた。
 二人とも知識は古い本からのものなのでちょっとずれていた。

 シェリーの装具を担当していたウーシーは他人事だから笑っていた。

 店が休みの日には従僕と服を仕立てに行って、歩き方だけは及第点をもらった。
 春に近づく街路でシェリーと歩く練習をした。
 彼女がまだうまく歩けないと、悟られないようにしなければならない。
 グラントの体力にかかっているそうだ。もう体力って言葉聞きたくない。




 日取りの良い日、王の城に呼ばれた。

 貴族や民間の有力者も見物に来ている。シェリーの祖母もいるんだろうか。
 よそ見したら講師に怒られるからまっすぐ城を見る。
 ばかに広い庭園を通過して、ホールに入った。

 戦時でもないのに騎士団が全部集結している。
 玉座のわきには王族たちが座していた。

 王位継承権の第一位から三位までの人物だ。

 一歩先を歩くレイが立ち止まる。
 シェリーを支えながらグラントも止まった。

 膝をついて王の言葉を待つ。


 
 王は認めた。
 レイの働きを。シェリーが正式な孫であることを。そして、グラントのことを。
 
 レイは王族の窮地を救った働きで爵位を授かった。
 シェリーは今後、王族としての身分と必要な庇護を保障された。
 グラントは、シュトラール地区の兵団長として認可され、バレットという名前を賜った。

「……わたしも?」

 自分を、シェリーを支える装具の一部と心得ていたグラントは、口の中で呟く。

「あなたの働きが一番大きい。グラント」

 シェリーがそっと言った。

 王の美しい謝辞なんか耳に入らなくなる。

 まるで女王に言われたようだ。
 グラントは思わずシェリーを見つめてしまって。



 御前を辞してから講師にどえらく叱られた。
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