勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

十四話

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 レン兄さんの雑貨屋は無人だった。

 留守中と書かれているプレートが扉にかけられている。

 念の為居住区の方も覗いてみたが家主であるレン兄さんも、そして連れていかれたライルの姿もなかった。


『どういうことなのでしょう、アデリーンさん!!』


 エミリアさんに問われるが正直私も分からない。

 急いできたとは言え、レン兄さんたちは彼女が私の家に訪れるより前に出発している。

 成人男性二人の移動速度なら既に自宅へ戻っている筈だ。

 寄り道をしているのか、それとも戻ってから再度外出したのか。

 どちらにしても現在の彼らの居場所に心当たりはなかった。

 私がそう説明するとエミリアさんの判断は早かった。


『ならばリンナという女性のお宅へ参りましょう!!』  


 そう小声で叫ばれて私も頷く。

 裏口の扉を閉めた所でエミリアさんは私を振り返った。


『アデリーンさん、一つお願いがあります!!』

「はい、なんでしょう」

『私たちは今からリンナさんが魔物か確かめに行きます!!』


 そう既に知っている事を告げられて私はやや不思議に思いながらも肯定の返事をした。

 しかしその疑問もエミリアさんの次の発言で消し飛ぶ。


『もし危険な魔物であったら私は彼女を殺します。この村の住人の女性をです』

「あ……」

『村の人々が私を恨むのは当然だと思います。ただ仲間であるライルを憎むのはやめてほしいのです』 


 そう頭を下げて言われて私は狼狽える。

 そうだ、リンナには家族がいる。遠くで暮らしている姉も、そして同居している両親も。

 何よりこの村では距離感の差はあれ、住民全員が親戚のような空気があった。


『私は部外者ですがライルはこの村で育ったと聞いています。村ぐるみで自分を育ててくれたとも』

「ライルが、そんなことを……」

『アデリーンさんへのライルの傲慢な態度はそりゃもう厳罰が必要です!!……ただ、迫害だけはしないでくださいませ』


 私はエミリアさんにそう言われて、わかりましたと頷いた。

 できたら魔物がリンナ本人ではなく化けただけの姿だったらいい、そう強く思う。

 けれど違っていた場合、もしリンナの両親が彼女を責めた時は全力で庇おうと心に決めた。

 エミリアさんがライルの居場所を守ろうとするなら、私は彼女の優しい決心の盾になりたい。

 私は世界を救ったり強い魔物を倒したりする力はない。

 だけど、それでもこの村の住人だからこそできることがある気がした。

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