勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

十三話 ある村娘の回顧

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 手癖の悪い娘だと、叱られたことが三度ある。

 一度目は幼い頃、姉の女友達の家に連れていってもらった時だ。

 大切に飾られているぬいぐるみや、丁寧に畳まれているハンカチ。

 そう言ったものが宝物のように見えて自分のポケットにしまいこんだ。

 そのことが姉にばれてそう叱られた時、彼女は困ったように笑って言った。

 欲しいと言えばあげるから、黙って持っていかないでねと。

 わかっていないな、とその時思った。

 どうしてそう感じたのかはわからないままだった。


 二度目は村の雑貨屋だった。

 親のお使いで偶に訪れては店主の目の離れた隙に商品を盗んだ。

 そして親から預かった金は自分の懐に入れた。

 その金を貯めて町で化粧品を買ったりした。

 ある日親に泣きながら殴られた。

 店主の青年は商品が盗まれていることを知っていた。

 そして自分の盗み癖も知っていて黙って親に伝えたのだ。

 会いに行ったら、君は病気だ、そう静かな目で言われた。

 その通りだと思ったが治してはくれなかった。 


 三度目は麓の町だった。

 自分の盗癖が遊ぶ金欲しさのせいだと思った親から小遣いは多めに与えられていた。

 けれどそれだけでは町での買い物には全然足りなかった。

 いや、足りていても自分は盗んだのだと思うけれど。

 勇者目当てで訪れる観光客は隙だらけだった。

 けれど何人目かで財布を抜くのに失敗した。

 相手は男だったので許してくれるだろうと思っていた。許される為に何をすればいいかもわかっていた。

 だからいつだって男を選んで盗んでいたのだ。

「手癖の悪い娘だ」   

 顔色の悪い男はそう言って自分を乱暴に抱いた。

 罪知らぬ罪人程いい苗床になる。そう笑いながら接吻されて舌を絡めた。

 それは確か、十月ほど、前だったか。    


 もう、それさえも、定かでは、ない。
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