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二十六話 今と昔

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 帰宅後。アルが部活時に出してくれた宿題を机に向かい行う。これは過去に実際試験に出た問題らしい。

 但し今の自分たちの学年よりも下のものだ。

 それでも私には難しくアルが用意してくれたヒントノートを片手に苦労しながら解いていた。

 勉強は、学ぶこと自体は嫌ではない。寧ろ気持ちが高揚する。

 聖女エミヤが生きていた頃は「女に学は不要」が当たり前の時代だった。

 女は礼儀作法と簡単な計算だけできればいい。無駄に知恵などつけさせると小賢しく扱い辛くなると。

 身分の差の次に性差があって女性は男性に従属するものという扱いだった。

 男性に逆らわず従順である代わりに女性は戦わずに済むし、危険から守ってもらえる。

 メリットのある主従関係なのだと大勢が口にした。でも聖女である私には当てはまらなかった。

 だって私は国内のどの男性よりも強かったから。最前線で戦わされながら平時は女の癖に生意気なと蔑まれる。

 それでも守ってくれようとした人間はいたけれど。


「そういう意味ではこの国も良い意味で変わっては来ているのよね」


 平民はまだわからないが、貴族の女性も男性と同じ授業を当たり前のように受けているのだから。

 けれどこの国の第二王子の意識は二百年前のままらしい。


「だから私、アリオス殿下が嫌いなのだわ」


 一人部屋であるのをいいことに堂々と呟く。エミアに辛く当たったという恨みだけでなくそもそも人間として嫌悪しているのだ。

 二百年前の騎士団長の記憶を引き継いでいるアルの方が彼よりも余程現代的な考え方をしていると思う。

 私が勉強したい、アリオス殿下より成績優秀になりたいといったらこうやって手助けしてくれるし。

 しかし手下を使って優秀な生徒を虐める、女は男を下すなと婚約者に平気で言い放つ。


「……いや、下されたくなかったら猛勉強して勝ちに来なさいよ」


 本当に情けない男ね。低い声が出た。

 あんな人間がこの国の王になったら時代がまた逆戻り、いや更に悪くなるのではないだろうか。

 現陛下だってお世辞にも人間性はいいと思えないけれど。

 アリオス殿下よりもましな人間が王位を継ぐか、もしくは殿下自身が今よりましな人間になるか。

 現状どちらも難しそうだ。私は溜息を吐いた。

 セリス殿下が生存していて、アリオス殿下より秀でている人間ならそれが一番いいのだが。

 けれどそれならば何故サイモン陛下はさっさと王太子に任命しなかったのだろう。

 その疑問はアルから出された課題を全部終えても私から消えなかった。
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