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二十七話 廊下での脅迫

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 授業は真面目に受け、昼休みは教室内で女生徒の会話をこっそり聞いて流行やニュースを情報収集。

 放課後は部室で部活動の傍らアルに勉強を見てもらう。そんな学生として充実した毎日を私は過ごしていた。

 アルと再会した日以降、アリオス殿下のところには全く顔を出すことはない。

 廊下で擦れ違うことはあって、一回は相手の身分を考えてお辞儀をしたが無視されたので次からはしなくなった。

 手紙で寄こされる休日の誘いは「もう婚約関係ではありませんので」で断っている。

 婚約解消するまでは誘いの手紙など一回も寄こしたことがないのにと父は呆れていた。

 それはそうだろう。今まではずっとエミアがひたすらにアリオス殿下を慕い、彼はそれを迷惑がるスタンスだった。

 本当に馬鹿だなと思う。エミアがいなくなってから愛を取り戻そうなんて。

 大体休日は休日で忙しいのだ。現代の礼儀作法を学んだり、ダンスの特訓などに。

 私も聖女時代に王族や貴族と対面することは少なくなかった。

 だがその時の話し方のままだと「公爵令嬢」という立場ではへりくだりすぎるのだ。あと単純に話し方が古いとアルに言われた。 

 ダンスについては下手でいいから踊れるようになった方が良いらしい。貴族と言えば舞踏会、そしてダンスらしいからだ。

 それに学院の卒業式後にダンスパーティーが開かれて男女ペアで参加しなければいけないとのことだ。

 アリオス殿下が誘ってきたら当然断るつもりだ。私は十七歳だから卒業は来年になる。一年あればなんとかなるだろう。

 寧ろセリス殿下の件についての方が心配だ。出来れば学校を卒業するまでに結果を出したい。

 しかし不幸なことに彼が亡くなっていれば次期国王はアリオス殿下になってしまう。

 セリス殿下の生存を信じて必死に探すか、それともアリオス殿下の人格面を今よりもマシなものにするか。

 どちらも難易度が非常に高い。

 今日も私はそのことに頭を悩ませながら放課後、学院の廊下を歩いていた。

 文化部の部活棟へ行く道だが今日は人気が少ない気がした。何かあったのだろうか。

 不思議に思っていると少し先から何か争うような声が聞こえる。聖女の時の習性で介入しそうになるのを堪え、耳をそばだてた。


「おい、優等生君よォ、テメェいいかげんにしろよ。相手が押しに弱そうな女だからって」

「辺境伯の息子だからって生意気なんだよ。常識知らずの田舎者が!」


 優等生で辺境伯の息子、そんなのアルしかいない。私は絡まれている友人を助けようと飛び出そうとした。

 しかし新たな怒鳴り声でその足が止まる。


「アリオス殿下の婚約者に手出そうだなんて、テメェも一族も処刑されても文句言えねぇぞ!!」

「そうだ、何考えてんだ!」


 私のせいで、アルやその家族が処刑される?

 聖女だった頃の記憶を思い出し、指先が氷のように冷えていくのを感じた。


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