惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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女神の慈悲は試練と共に10

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 ユピテルから私へと光の矢が奔る。

 けれどそれは私の体へ触れることはなかった。

 女神の放った矢よりも、もっと眩い輝きが突如部屋を包んだのだ。

 そして部屋が元の色を取り戻した時に光の矢はどこにもなかった。

 
「バッカバカしい……」


 掠れ気味だが美しい声が不機嫌さを伴い耳に届く。

 その声を聞いた者は全員、発言者がいる場所へ視線を移動した。


「外野がえっらそーに人の色恋ホンキを試すんじゃないわよ」


 つい先程まで気を失っていた筈のマリアはベッドから身を起こし、見慣れない剣を片手に私たちを睨み付けていた。 

 恐らく彼女がユピテルの術を妨害したのだろう。

 けれど雷女神は寧ろ愉快そうにマリアへ向かい唇を吊り上げた。


「あらあらあらぁ、記憶だけでなく剣まで取り戻すなんて……本当欲張り屋さぁん♡」

「ユピテルさぁ……中途半端に思い出されるのが気持ち悪かったのはわかるけど、もう少しソフトな方法はなかったわけェ?」


 人間の一生を数十分で追体験させるなとマリアが文句を言う。親友のその発言に私は少し前のことを思い出していた。

 アレス王子を守るために自分の中の魔力を使い切って倒れた私は、数日間眠りの中にいた。

 その夢の中でこれまでの自分の人生を振り返り前向きな気持ちで目覚めることが出来たのだ。

 けれどその時の私の清々しい気分と同じものをマリアが感じたとは、その表情と口ぶりからは思えなかった。


「ったく、頭がまだガンガンする……私が円熟した完璧最強最高淑女じゃなかったら、昔の自分に記憶が乗っ取られてたわよ」

「マリアちゃんがマリアちゃんとして完成していたから、安心して荒療治をしたのよぉ♠」

「だったら、昔の関係なんて持ち出さずに引っ込んでなさいよ……ディアナ」

「はっ、はい?!」


 親密さとも違う密な空気を纏って会話をする二人に介入することも出来ず立ち尽くしていた私を、突然マリアが呼んだ。

 手招きをされて彼女の座る寝台へ慌てて近付く。

 いつのまにかベッドの側の床に無造作に突き刺されていた剣は刀身に雷の魔力を纏わせていたがそれもすぐに消える。

 私にはそれが剣が魔力を吸い取ったように見えた。剣のことも気になるが今は目覚めたマリアだ。


「ここ、座る」


 マリアの隣を指さされて私は言われるままに座った。

 途端間髪入れずに頬を両手でビッタンと押し潰される。

 痛みからくる怒りと変顔をアレス王子に見られているだろう恥ずかしさと。そしてマリアの行動の意味不明さに私は顔を赤くし混乱した。


「あんたさぁ、まだスッピンすら見せてない男に対してシワシワになった数十年後の自分を見てとか順番ぶっ飛ばしすぎでしょ!」

「にゃ、にゃにを……」

「恋愛なんてねぇ、ぶっちゃけ数カ月で別れることもあんのよ!数十年後のことは数十年後に考えなさいよ恋愛下手女!!」


 好き放題言ってくれるじゃない。確かに私はこれまでずっとロバート一筋で、恋愛上手で絶対ないだろうが。

 ただそれだけが理由で回りくどくなっているわけじゃない。私はマリアの掌を渾身の力で引きはがして反論を言った。


「だっ、だって、もしアレス王子が老いた私を捨てたら……炎の精霊神の罰がむぎゅ」

「そんなのは捨てた男とその身内が考えるべきで、あんたが心配することじゃない。あんたは自分以外のことばっか考えてんじゃないの!!」


 炎の精霊神の罰が不当だったら私が親として文句を言ってやるわよ。そうマリアは再度私の頬を拘束すると鼻が触れ合うような距離で言った。


「アレスが万が一ロバートみたいなアホになったならその時は私がぶん殴って性根を叩き直してやるわ、母親ですもの」

「だからこそよ。私はマリアの子供から……魔力を奪いたくないのよ!」


 ルーク王子の時に傷つく貴女を見たから。そう、うっかり口を滑らせてしまう。

 慌てて掌で口元を抑えようとしたが、マリアの真剣な眼差しがそれを許さなかった。



「私だって見栄っ張りでいつもちゃんと綺麗に化粧しているアンタが

 好きになりかけている男にわざと醜く老いた姿を見せようとしているのなんて見たくないのよ……無理、しないでよ」


 親友なら、今度こそわかりなさいよ。

 そうマリアは言うと私を痛いぐらいに強く抱きしめた。

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