惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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女神の慈悲は試練と共に11

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「こっちが寝ていた間に随分好き勝手にやってくれたみたいねぇ、ユピテル」

「あら、そんなに大したことはしてないわぁ♡」

「神クラスの精霊が大したことをやらかしたら、それこそ国が揺れるレベルの大問題だわ!」


 どっかりとベッドに陣取ったままマリアがユピテルを睨み付ける。

 その様子がドレスを着ているのに歴戦の戦士のように見えるのは床に突き刺さった剣の効果だと思いたい。

 独特の話し方であるが優雅な雰囲気のユピテルと比べると纏う空気が荒々しすぎる。

 昔からマリアは破天荒な人間ではあったけれど、まるで今の彼女は男性のようだと感じてしまった。

 外見は美しい王妃のままなのだけれど。


「わたくしたちはこの国を揺らしたりなんてしないわぁ、いつだってそういった企みをするのは人間たちでしょう?」


 全部思い出したのではなかったの? そう雷女神はマリアに問いかける。

 その言葉の冷ややかさの中にぴりりとした物を感じ私は両者を見比べた。

 先程までユピテルに眠らされていたマリアはその行為で昔の記憶を取り戻したようだった。

 けれど『昔の記憶』とはなんなのだろう。子供の頃とかそういった物だろうか。

 だとすると、昔の自分に記憶が乗っ取られるという意味がわからない。

 赤子になったロバートのように精神だけ退行するということだろうか。王妃がそうなったら大問題である。

 けれどユピテルがマリアに対しそんなことをする理由が思いつかない。

 中途半端に思い出されるのが気持ち悪かったからだとマリアは言っていたが。

 何よりも、人間の一生を追体験してきたと彼女は言っていた。

 もしかしてユピテルがマリアに思い出させたのは、前世の記憶というものではないだろうか?

 そして気になるのは、先程ユピテルの矢を邪魔したらしきこの剣だ。

 女神の力をどうにかできる時点でただの剣ではないことはわかりきっている。

 そして過去の記憶を取り戻すことに伴ってこの剣がマリアの手元に来たというのなら。

 マリアの前世は、いったい何者なのだろう。

 そしてマリアの前世とユピテルの関係はいったいどういったものなのか。

 今の二人のやり取りからして素直に仲が良いわけではないと思うが、気軽に入り込めない密度を感じる。

 いや入り込みたい訳では全くないけれど。
 

「精霊はねぇ、国なんてどうでもいいのよぉ。いつだって気に入った人間を愛したいだけぇ♡」

「振られたのに未練がましく転生後もじっと見張り続けるのが愛?こわっ」

「マリアちゃん、いますぐ転生するぅ? こんなに野蛮な性格なら次はまた男かしらぁ♠」


 次はまた男ということは……マリアは前世で男性だったのだろうか。確かに今の雰囲気を見ると納得できる。

 私をそっちのけで言葉を交わしているこの国の王妃と精霊の女神。

 でももしかして、昔は両方とも男性?

 あ、今なにかがピンときた。私の女性としての勘が何かを告げてくる。

 ユピテルは少し前に愛した人間の為に女性になったと言っていた。

 そしてユピテルと知り合いだったらしいマリアの前世は恐らく男性だった。

 マリアはユピテルが転生後も愛した人間を見張り続けていると言った。

 そしてそんなユピテルが私達の前に姿を現したタイミングだ。

 当時マリアは泣き喚いているロバートに足に追い縋られている真っ最中だった。

 男性が嫌がる女性の脚に無理やり抱き着くというのはかなり問題のある光景だ。

 そして、その女性が自分の想い人の転生後の姿だったとしたら。

 姿を見せずに見守るつもりでも、我慢できず顕現して介入してしまうかもしれない。

 そして姿を現した後、会話をしたなら相手に自分のことを思い出して欲しくなった。


「……なるほど、見えてきたわね」  


 私はひっそりと呟いた。

 ユピテルが私を加護すると言った理由。

 マリアは既に風の精霊神から加護を授けて貰っている。

 なのでマリアの親友であり雷属性の私を加護の相手に選んだという事か。

 少しでも想い人に近い人間に関わる為に。

 女神の恋とはなんて悲しくて業の深い物だろう。

 そんな二人の会話を邪魔したくなくて私は貝のように黙っていた。
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