惨めに捨てられた伯爵夫人は年下の第二王子と精霊神たちに想われ思い出す

砂礫レキ

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王妃の裁き25

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 大柄なアレス王子の体はまるで大木のように私には感じられた。

 けれどそれは恐ろしい物ではなく、寧ろ不思議な安堵を覚えた。

 どれだけの時間子供のように泣き続けていたのだろう。

 何事にも終わりは来る。私の目から涙が尽きる時が訪れた。

 そうすると途端に彼に抱きしめられていることが恥ずかしくなってくる。

 自分でも身勝手だと思うが、私はアレス王子に離して欲しいと懇願した。

 しかしその頼みはすげなく断られる。


「駄目です」


 王妃の命令ですから。そう説明されて私は考えを巡らせた。

 マリアは私とアレス王子が恋愛関係になることを望んでいる節がある。

 ただ、だからといって流石にこの状況で触れ合わせようと画策する程恋愛脳ではない筈だ。この国の王妃だ。そう信じたい。

 そうするとやはり私という危険人物の拘束を命じたというのが妥当だろう。

 アレス王子は炎の魔法が使える。それに男性だ。今この場にいる者の内、誰が取り押さえ役に回るかと言ったら彼だろう。

 幼い頃から知る彼が相手なら、私が暴れたり傷つけたりはしないと考えたのかもしれない。

 いや別にアレス王子以外に止められてもそんなことはするつもりはないけれど。

 ただ先程までの荒れ狂う気持ちのままでいたなら万が一があるかもしれない。

 マリアの真意は判らないが結果としてアレス王子の行動は殺されそうになっていた女性の命を救った。 

 そして恐らくは私のことも。ただ当然未遂で終わったとしても殺人は殺人だ。

 私が貴族で、そしてシシリーが平民だったとしても事実は変わらない。

 刑罰的なものだけではない、私はこれからずっと夫を奪った女性を殺そうとした元妻というレッテルで見られるのだ。

 私はシシリーがいる方角を見た。気を失っているのか無言のまま看護を受けている。

 先程まで殺したくて堪らなくて実際に殺そうとしていたのに今は死なないで欲しいと思った。

 それは善良な感情から来るものではない。恐らくはただの保身だ。私は私が原因で彼女が死ぬのが怖いのだ。

 今更自分の仕出かしたことに震える。なんて間抜けなのだろう。アレス王子が止めてくれて本当に良かった。

 そしてその指示を出したマリアにも感謝をしなければいけない。そういえば彼女の姿が見えない。

 侍女を慰めていたところまでは覚えているが、今その場所には誰の姿もなかった。

 王妃は今どこにいらっしゃるの。私はアレス王子に聞く。わからないという答えが返ってきた。


「ただ貴女の為に何かをしているんだと思います」


 凄く必死な顔をしていましたから。

 そう告げるアレス王子は微笑んでいた。お母様を信頼しているのね、私はそう返す。

 貴女たちの絆を思い知っているだけですよ。

 そう告げられて赤面した頃、親友がマルコー医師を連れて登場した。 

 アレス王子の腕の中の私と目が合う。こちらから逸らすのも悪い気がしてまじまじと見つめ合ってしまった。

 数分間程そうしていた気がする。


「よかったぁ~~~!!」


 いつものディアナに戻ってる。そう叫びながらマリアはへなへなとその場に崩れ落ちる。

 私は彼女に心配をかけたわねと声をかけた。


「今日一日で十年は老けたわよ馬鹿ディアナ!!」

「あらそんなこと、今でも二十代に見えますわよ王妃様」

「は?今の私が一番絶頂期の美なんだけど?」  

「十年後も同じこと言ってそうね貴女」


 当然じゃないと言いながらマリアは立ち上がる。

 そしてすぐさま城の女主人の顔に戻ってこの場を仕切り始めた。


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