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第四章

第131話 淫魔学校の日常

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 ルシファーが淫魔学校に赴任してから、一ヶ月。

「おはよーせんせ!」
「はよざーす、先生」
「ああ、おはよう」

 登校したルシファーと廊下ですれ違うのは、リリムとルーシャの改造制服コンビ。
 リリムはまだしもルーシャはこれまでまともに制服を着ている姿を見たことがなく、今日に至ってはスカートすら穿いていない。ハイレグ状でTバックの紐パンを完全に丸出しにして校内を闊歩している。しかも短く改造したブレザーの前を開けてブラジャー丸出しの格好である。尤もこれは本人曰く胸が大きくてボタンが閉まらないからだそうだが、それでもブラウスを着用しない理由にはならない。

 ルシファーと挨拶を交わして校庭に出た二人は、授業が始まるまでの間二人でボール遊びをするようである。二人とも運動神経抜群なので、よくこうして外で一緒に遊んでいる姿を見る。
 いかに淫魔といえど、年から年中いやらしい遊びばかりしているわけではない。ごく当たり前に、健全なスポーツ等も楽しんでいるのだ。
 尤もリリムは短すぎるスカートで激しく動き回るものだからピンクの下着がチラチラしまくり、見えている状況が見えていない状況より多いほど。ルーシャに至っては半裸で胸や尻を揺らしまくっていて、とても健全とは言い難い光景が繰り広げられているわけであるが。


 ルシファーが教室に入ると、こちらでは朝っぱらから生徒達が3Pの真っ最中。
 全裸で床に腰を下ろしたメイアの両側に、スラックスのファスナーから性器を出したロイドとジークが立つ。メイアは両手に一つずつ性器を握りながら、ロイドの方をしきりにしゃぶっていた。
 ジークとメイアはやや珍しい組み合わせだが、生徒達はいつも相性の良い組み合わせでばかりセックスしているわけではない。授業以外の場であっても、こういう組み合わせはたまに見たりするのだ。

「メイアさん、僕の方ももう少し舐めて貰えると嬉しいんだけど……」

 ジークがそう言うと、メイアはばつが悪そうにしながらロイドの竿から口を離しジークの方も軽く舐め始める。ロイドが不機嫌そうな顔をするので、彼と向き合うジークは宥めるように苦笑いしていた。
 ルシファーが教室に入ってきても彼らは構わずプレイを続けているが、丁度そこで教室に入ってきた者がまた一人。ヒルダである。

「あ、お楽しみ中? ジーク君、頼んでくれたら私がしゃぶってあげたのに」
「今日はメイアさんからのお誘いでね。三人でする時の練習がしたかったんだそうで」

 自分から誘っておきながら、結局ジークの方にはあまり構ってあげないメイアである。

「メイアさん、僕ヒルダからもお誘いを受けたんだけど……」
「あっ、では、どうぞ……」

 あっさりとジークをヒルダに譲ったメイアは、再びロイドのものをしゃぶり始める。
 ジークが「じゃあお願いするよ」と言ってヒルダの方に体を向けると、ヒルダは早速ジークのスラックスを下着ごと下ろす。ファスナーから竿だけを出した状態から、性器全体を露出させた格好になった。
 ヒルダは床に腰を下ろしてジークの玉を指先で撫でつつ、竿に頬擦りしながら舌先で触れる。フェラの仕方にも個性が出るようで、彼女の場合このように舌先でくすぐるように舐め相手の性器を愛でるようなご奉仕を好んでいる。それと睾丸への愛撫を積極的にしたがる性質も持っているようだ。対してメイアは深く咥えて大きな音を立てながらしゃぶるのを好んでいる様子だ。

 ルシファーが暫く観察していると、もうすぐ授業が始まるくらいの頃にリリムとルーシャが戻ってきた。そして今日は姿を見ていなかったギルバートも。丁度そこで、チャイムが鳴った。

「では授業を始める。全員席に着け」

 行為中の生徒達はすぐに中断し、服を着始めた。

「ロイド君、私のぱんつどこー?」
「ほらよメイア、お前のパンツ」

 ロイドはメイアのパンツを裏返して、おしっこの染みを本人に見せつける。メイアは「ひゃああ」と悲鳴を上げてそれを奪い取り慌てて穿いた。この二人は相変わらずである。


 本日の一時間目は、人間界に関する授業。卒業後人間界に赴く生徒達は、人間界のことを知るのも生き残る上で大切なことだ。

「えー、ではメイア、この問題に答えてみろ」
「えっ? あ、えと……」
「ほら、ここだ」

 授業中ぼーっとしていたメイアをルシファーが容赦なく当てると、案の定焦る。そこで教科書の出題部分を教えてくれたのは隣の席のロイドである。メイアは慌てて立ち上がりたどたどしくも問題に答えた。

「宜しい。正解だ」

 メイアはほっと胸を撫で下ろす。

「ありがとうロイド君」
「……フン」

 メイアが和やかな笑顔で礼を言うと、ロイドは鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。



 授業後、本日の日直であるメイアは一人で校内の教材倉庫に来ていた。ルシファーに頼まれて、次の魔法の授業で使う教材を取りに来ていたのである。
 決して軽くはなさそうな、中身の詰まった段ボール箱を前にして途方に暮れるメイア。必死に翼を羽ばたかせながら持ち上げて運ぼうとするが、その時突然倉庫に声が響いた。

「おいメイア!」
「あっ、ロ、ロイド君」

 ロイドはずかずかと倉庫に足を踏み入れると、メイアから箱をぶんどって肩に担ぎ上げた。クラス一の腕っぷしを誇るロイドにとっては、こんな箱くらい朝飯前だ。

「お前には無理だ。俺に任せとけよ」
「ありがとう……」

 メイアが心底嬉しそうに上目遣いで礼を言うと、ロイドは鼻を鳴らして目線を逸らす。
 実はルシファーは、密かにその様子を窺っていた。初日にルシファーはロイドのことをいじめっ子だと認識していた。しかしその実彼は気配りのできる男で、いじめのターゲットにされていると思われていたメイアからも信頼されていることが窺える。

 と、そうして見ていたところで、二人に動きがあった。
 何を思ったか、ロイドはメイアの腰を腕で抱えて持ち上げると、箱とは逆の肩に担ぎ上げた。

「えっ? ひゃえっ!?」

 メイアが戸惑っていると、ロイドは丁度顔の横に来たお尻を掌で軽くぺちぺちと叩く。そしてスカートを捲り上げて下着を丸出しにさせた上、お尻を覆ったショーツの両端を親指と人差し指で引き寄せてお尻に食い込ませた。ショーツをTバック状にされて殆ど丸出しになった白いお尻を再びぺちぺちと叩き、ロイドは箱とメイアを担いでしたり顔で倉庫を出ていった。
 メイアは顔を真っ赤にして「やあぁん」とか細い声を上げるも、特に抵抗することはなくロイドにされるがままにしていた。彼女はマゾヒストであり羞恥が性的興奮に直結するタイプだ。一見いじめに見えるが、あくまでもロイドがメイアの性質を理解した上でやっているプレイである。

「……なあ、ところでメイア」

 急に真剣な声色になるロイドだが、互いの顔の位置の関係上ロイドが話しかけるのはメイアの尻に向かってである。

「お前今朝何であんなこと言ったんだよ」
「ロイド君以外とも、ちゃんとできるようにしたかったから……」
「……その割には俺のばっかしゃぶってたじゃねーか」
「だって、ロイド君のおちんちんが一番おいしいんだもん」

 メイアがそう言うと、ロイドはそれ以上追求しなかった。



 メイア達のことはとりあえず置いておき、ルシファーが向かったのは図書室である。ジークとヒルダは、休み時間にこうして二人で図書室に行くことが多い。

「やあお二人さん、休み時間も勉強とは感心だな」
「ルシファー先生。知見を広めるのは楽しいので」

 ルシファーが声をかけると、ジークが読んでいた歴史書を置き一度頭を下げた後答えた。

「元々本を読むのは好きでしたが、ルシファー先生から色々なお話を聞かせて頂いてますますそう思うようになりました。先生のしてくれる話は本当に知的好奇心をくすぐられると言いますか。戦争時代や大魔王様の代替わり、歴史上の出来事を実際に見てきたこととして話してくれるのが本当に興味深いです。先生って本当に、魔界と淫魔族の歴史の生き証人なんだなって思いました」
「そんな大層なものじゃない。俺は俺のやりたいように好き勝手生きてきただけだ」
「いえ、歴史上の人物だと思っていた人が目の前にいて、僕達では経験し得ないことを話してくれるだけで僕はとても嬉しいんです。僕は本当に、先生を尊敬していますから」
「……ヒルダも、本が好きなのか?」

 淫魔らしからぬ純粋な眼差しを向けてくるジークから逃げるように、ルシファーは話題を変えた。過去の自分を悔いて自分を憎らしく思う今のルシファーにとって、彼から向けられる尊敬の感情は酷く胸を痛まされるものであったのだ。

「私は小説とかの物語を読みたくて来ています」

 そう言ってヒルダがルシファーに見せた本の表紙には、獣人の若い男女が手を繋ぐ姿が描かれていた。二十年ほど前に書かれた、コボルト族の恋愛小説である。

「恋愛物が好きか?」
「恋の駆け引きの描写は、誘惑やプレイの技能の参考になります。それに……私達淫魔には存在しないその感情がどんなものなのか、興味もあるんです」
「ほう」
「それは僕も興味がありますね。その小説を書いたコボルトは勿論、スライムだってドラゴンだって魔王だって、どんな種族も当たり前に持つその感情を僕ら淫魔だけは持たない。それだけじゃありません。他にも僕達淫魔には他種族にはない特殊性が多すぎます。そのために現行法では原則禁止となっている人間界への渡航が例外的に許され、今もこの一種族だけが戦争時代と同じ生き方をしているんです。どうして大魔王様は僕達をそういう特殊な生物として創造したのか、ずっと不思議に思っていて。何かの本に載っていたりしないかと調べてるんですけどね、どの本にも載ってないんですよ。僕達自身に関することなのに、この図書室にはそれについて書かれた本が見つからないんです」

 急に饒舌になるジークを見てルシファーがぽかんとしていると、ヒルダがくすっと笑みをこぼした。

「可愛いですよね、知識欲が出た時のジーク君って。ちょっと子供みたいで」
「子供みたいは余計だよ」

 王子達系美少年の素顔は、意外にも学者肌。彼もロイドと同じく、第一印象とは違う一面を持った少年であった。

「まあ、何にせよそれだけ熱中できることを持つのは良いことだ。お前達がそうやって得た知識は、きっと役に立つ。俺も学生の頃は、こんな風に図書室に通っていたものだ。一緒に通ってくれる友達はいなかったがな」
「はい、ありがとうございます先生!」



 図書室を後にしたルシファーが次に向かったのは自習室。人間界の感覚で言えば座学の自習に使われる場所のように思えるが、実技の練習に使う練習人形が設置されている部屋である。
 ジーク達が頻繁に図書室に通っているように、こちらに通う生徒もいるのだ。

「やあギルバート、休み時間にも練習とは感心だな」
「先生ですか。当然です」

 一人自習室に籠り女体を模した練習人形相手に手マンの練習を繰り返しているのは、クールな眼鏡男子のギルバートだ。

「俺は淫魔族の代表として人間界に赴くのですから、それまでの間に徹底的に腕を磨いておかなければなりません。先生のようにこの手でどんな人間も屈服させられる“最強”こそが、俺の目指す場所ですから」
「相変わらず屈服させることに拘るんだな」
「僕達は魔界でただ一つ、人間と戦うことを許された種族です。その誇りと威信にかけて、我々の敵対者である人間を屈服させることは義務なのです」

 自信満々に言うギルバートに、ルシファーは「ふむ……」と言って顎を撫でながら首を傾げた。
 淫魔の種族的特性故に認められた例外措置。それを不思議なことだとして疑問に思い調査しようとする者もいれば、選ばれし者の特権としてありのままに受け入れる者もいる。生徒達の間でも、考え方はそれぞれで異なる。

「お前の考え方はわかった。そういう考えの下に戦うのもまたお前の自由だ。だがお前のやり方で俺の域に達することは無理だ」

 ルシファーがきっぱりと言い切ると、ギルバートの眼鏡の奥の瞳が揺れた。

「俺は圧倒的なテクニックこそが最大の武器であるように思われているし実際それも間違ってはいないのだが、俺がこれだけの魔力を得たことの本質はそこじゃない」
「では何だって言うんです!? 先生前に仰ったじゃないですか。慢心せず腕を磨き続ければ、いずれは本当に誇りを背負えるほどになると!」
「自分の技で誰でもイかせられるというのが慢心だと言うんだ。技を見せつけることに固執していてはせっかくのお前のポテンシャルを殺すことになる。ましてやお前は自分の技が通じないとすぐに動揺したり不貞腐れたりするメンタルの弱さがある。お前はもっと柔軟に考えるといい」
「……具体的にはどうすれば」
「そうだな。これは俺の場合だが、俺が何よりも鍛えたのは相手の趣向を視る目だ。俺は常に相手に合わせてきた。それが最も相手を気持ち良くさせられて、最も魔力を得られるからだ。俺は相手のどんな要求にも答えられるようにするために、テクニックを磨いてきたんだ。相手がそれを望んでいるのなら、俺が屈服させられる側を演じることも厭わなかった。無様で屈辱的な姿を演じるのにも慣れたものだよ」

 ルシファーが正直に答えると、ギルバートは信じられないと言わんばかりに目を見開いていた。
 だがふとルシファーが赴任してきた日にリリムの仕掛けたバイブトラップの一件を思い出し、その言葉に説得力を覚えた。

「とはいえ、俺ほど柔軟すぎるのもお勧めはしない。あまりに相手の言いなりになりすぎて、本来俺の趣味でないことも平気でやっていたからな。世の中にはここで言うのも憚られるようなイカレた性癖を持った奴も結構な数いるものだ。お前だったらすぐにメンタルを壊すだろう。尤も俺の眼がより強化されてからは、一目見ただけでそういうのは避けるようになったが……」
「……伝説の“寝取りのルシファー”のイメージとは、随分違うんですね。もっと圧倒的優位な立場で人間を屈服させ女を寝取りまくっているのだとばかり……」
「俺は個人主義で他の淫魔とあまりつるまなかったからな。結果こうして俺に対する誤解が広まったのは致し方ないことだ。だがそのイメージもあながち間違いでもない。俺は標的にした人間の女に対して、そいつの恋人以上にそいつの希望を叶えるセックスをすることを楽しんでいたんだ。俺が屈服させていたのは、標的ではなく標的の恋人だったとも言えるな」

 ギルバートの手前そう言うルシファーであったが、彼の中でそれは自身の犯した悪行そのもの。本来は決して自慢げに言うべきものではないと、心にもやがかかった。

「お前がどういうインキュバスを目指すかは、あくまでもお前が決めることだ。俺はお前の師として、できる限りその手助けをしよう」
「先生……」

 ギルバートがルシファーの目を見てぎゅっと拳を握った瞬間だった。自習室の扉が勢いよく開き、挑発的な改造制服を纏った深緑色のショートヘアの女子が進入。

「あっギル、やっぱここにいた。まーた人形相手に一人でシコシコやってー。そんなことするくらいならあたしが相手してやるのにー」

 元より丸出しのブラを捲り上げて、とても大きな胸をばるんと露出。それを掌でたぷたぷと持ち上げながら、ルーシャはギルバートに迫った。

「では俺はこれにて失礼する。ルーシャもギルバートも、授業が始まる前には戻るんだぞ」
「はーい」

 ルーシャが右手を上げてにっこり笑顔で返事した。そこから流れるような動きでギルバートの下半身を露出させて、ペロリと舌なめずり。
 ギルバートは無言のまま人差し指で眼鏡を上げ、額に汗を浮かべながらもルーシャのプレイに応じる姿勢を見せた。
 二人に背中を向けながら、ルシファーは思う。

(ギルバート、あいつはああ見えて巨乳好きだ。いつも練習人形の中で一番胸の大きいやつを選んでいる。ルーシャとの相性の良さはその点もあるのだろうが……あいつは本人も気付いていない、屈服させられる側としての才能がある)

 好みのプロポーションを持った相手からグイグイ来られてたじろぐ姿は、彼自身の目指す圧倒的優位とは程遠いものだ。だがプライドの高い男が快楽に落とされる姿は、倒錯した女心をくすぐるものである。ルーシャとの行為の中で彼がそれに気付くことができれば、きっと彼は一皮剥けるだろうとルシファーは思う。
 とはいえそれはギルバート自身のやりたいこととは相反するものである。だからルシファーはあえて、彼の隠れた才能をこちらから指摘することはしなかった。



 授業が始まるまでは、まだ少し時間がある。ルシファーは一旦職員室に戻っていた。
 生徒一人一人の成績表を並べ、唸りながら考え込む。
 するとひょっこり机の下から顔を出したリリムが、椅子に顎を乗せルシファーの股間に顔を近づけた。

「せーんせ、ボクがしゃぶってあげようか」
「断る」

 勿論、ルシファーはリリムがそこにいることを知った上であえて気付かないふりをしていた。

「まったくお前という奴は……こんなにも成績優秀なのにこの悪戯癖が玉に瑕だな」

 生徒の中でただ一人、どの異性が相手でも平均点以上の成績を叩き出すのがリリムである。
 誰もがリリムのようにできるよう指導してやりたいとは思っているが、なかなかそうもいかないのが現実だ。
 それが特に極端な生徒の成績表に、ルシファーの視線が向く。

(メイアか……ロイドが相手ならそのポテンシャルを抜群に発揮できるんだが、他の男子が相手だとボロボロ。まったくリリムとは対照的な……)

 そこまで考えて、ルシファーはふとその原因に心当たりを覚えた。

「どしたの先生?」

 リリムが尋ねるも、ルシファーは口に出しては答えない。

(無能病……か)

 それは淫魔を蝕む“恋の病”。ルシファーの学生時代から八百年以上経った今なお淫魔から恐れられており、患った者は“治療”をせねばならない代物である。

(いや――まだそうと決まったわけではない。まだ暫く様子を見よう)

 ルシファーはその可能性を必死に否定した。リリムはルシファーの動揺の意図が読めず、ただきょとんとするばかりであった。
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