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第四章

第132話 母性サキュバスの淫魔保育園

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 ルシファーが淫魔学校に赴任して、半年が経った。今日は淫魔学校の運動会である。
 現在の競技はローションバトル。校庭の中央に設置されたローションプールで、リリムとルーシャが互いの服を脱がし合っていた。
 既に二人とも上半身裸にパンツ一丁。残りの服は全て脱がされ、あと一枚で全裸という段階である。なお、このゲームは全裸にされたら敗北というわけではない。相手を全裸にした上で、プールサイドから投げ込まれたディルドを相手の性器に挿入すれば勝ちというルールである。
 ちなみにこれはバトルロイヤル制であり、メイアとヒルダは既に脱落済み。ローションまみれに全裸でディルドを挿入されたまま息を切らし、プールの隅に腰を下ろして観戦していた。
 優勝を賭けて争う運動神経抜群の二人。長丁場の戦いで二人ともかなり疲れが出ている中、一瞬の隙を突いてリリムが仕掛けた。ルーシャの穿いた紫レースの下着を前から掴んで引っ張ると、ローションに身体を滑らされたルーシャは抵抗できず一気に脱がされる。
 そこでルシファーがディルドを投げ込み、リリムがキャッチ。勝利へと王手をかけた。
 が、ルーシャもそこで諦めるような女ではない。リリムの意識がディルドに向いた瞬間を決して見逃さず、リリムの穿いた小さなリボンの付いた焦茶色のローライズを両手で掴んで勢いよく脱がした。身体の軽いリリムはそれだけでひっくり返り、まんぐり返しの体勢に。
 そこにルシファーが投げ込んだもう一本のディルド。ルーシャはすかさず、無防備なリリムにそれをぶち込もうとする。

「とどめだ!」
「させないよ!」

 リリムは翼を使って床を押して身体を滑らせ、ディルドを回避すると共にルーシャの背後に回り込む。そうしてルーシャの大きな胸を鷲掴みにしながら、うつ伏せに覆い被さるように押し倒した。

「ふっふーん、これでボクの勝ちだー!」

 ディルドを持った右手を後ろに回し、手探りでルーシャの穴を探す。

「ここかな?」
「ちょっ、そこはアナル!」
「じゃこっち?」
「うっ……」

 リリムが見事ディルドを挿入しルーシャが声を漏らすと、ルシファーがホイッスルを鳴らした。

「優勝はリリム!」
「やったー!!」

 素っ裸のまま拳を天に突き上げ、リリムは喜びを表現した。

 競技が終わって女子達がプールから上がると、男子がローションを拭うタオルを手渡しに来た。
 ロイドからタオルを渡されたメイアは、ふにゃっとした笑顔で受け取る。ロイドはついで、股に挿さったままのディルドを抜いてやった。

「ったくお前毎年毎年真っ先にやられてんじゃねーよ」
「だってぇ……」

 ローションまみれで上目遣いにロイドを見るメイアは、頬をピンクに染めていた。
 ルシファーの視線が二人に向く。この半年、ルシファーはこの二人を念入りに観察してきた。どうにか否定したいとは思っていたが、やはりメイアは恋をしていると認定せざるを得なかった。
 否が応でも想起されるのは、八百年以上前にこの学び舎で同期の一人が無能病を患ったことだ。今度は自分が、自分の受け持った生徒にあの“治療”をせざるを得なくなる。
 楽しい競技で運動会が大盛り上がりの最中、ルシファー一人だけが、場違いな焦りを募らせていた。



 翌日、淫魔学校の休日にルシファーは研修のためとある場所に来ていた。ルシファーにとってあまり良い思い出が無い場所であるため、これまで魔界に帰る機会があっても滅多に訪れることのなかった場所。現在は淫魔保育園と名を変えた、淫魔族の保育施設である。
 淫魔の子供達は親に育てられることはなく、生まれてからすぐこの場所に預けられ保育士によって育てられるのだ。

「園長を務めております“母性のティターニア”と申します。よくぞいらっしゃいました、ルシファー先生」

 ルシファーを出迎えたサキュバスは、ウェーブがかかったクリーム色のセミショートヘア。見た目は二十代後半ほどで、丸眼鏡を掛けおっとりした糸目で穏やかな笑みを湛えている。服装は上半身裸の上からエプロンを纏った所謂裸エプロンで、あまりに大きな胸はエプロンに収まりきらず左右からはみ出している。乳房のみならず乳輪の一部も、エプロンの外側に出ていた。
 とはいえ彼女の服装は完全な裸エプロンではなく、下半身は丈の長いズボンを穿いている。尻尾を出すためにローライズ気味になってはいるがそれ以外は肌の露出が抑えられていた。
 ルシファーの瞳に映る情報によれば、彼女は百二十歳。族長マラコーダと同い年、即ち彼の同期である。しかもマラコーダがすっかり年老いた姿であるのに対し、彼女は若く美しい容姿を保っている。それだけでも彼女がどれほど優れた能力を有したサキュバスか窺い知れるというものだ。 ちなみに胸はIカップである。
 だがルシファーが真に注目していたのは、別の所にあった。一目見ただけで、彼女の異常性に気付いた。
 彼女の経験人数はたかだか三千人程度。マラコーダより遥かに少ない数字だ。普通この程度の淫魔が百歳まで生きることはそうそう無い。だがその数値に反して、魔力量はマラコーダなど目ではない程に膨大であった。
 勿論今のルシファーと比べたら遥かに少ない。だが少なくとも、百二十歳当時のルシファーよりは多かった。
 ルシファーは決して動揺を表に出さず、ポーカーフェイスを貫きながら彼女と挨拶を交わした。

(こいつ一体何者だ? マラコーダはこれを知った上で彼女を登用しているのか?)
「ではルシファー先生、園児達の所にご案内致しますね」

 果たしてあちらは、ルシファーが異変に気付いたことに気付いているのか。何事も無かったように穏やかな笑みを湛えて、ルシファーを連れ歩く。
 教室に入ったら、甲高い声と共に淫魔の園児達がティターニアに駆け寄ってきた。全員四歳児で、人数は六人。この子達が、ルシファーの受け持つ生徒達の一つ下の世代である。
 園児達は小さな羽を必死にパタパタと羽ばたかせて宙に浮き、ティターニアに抱っこを迫った。ティターニアは六人纏めて、細腕に軽々と抱える。

「ほう、この歳でこれだけ飛べるとは。今の子供は成長が早いな」
「質の良い母乳で育てていますから」

 そう言ってティターニアはニコッと微笑む。
 ルシファーは幼い頃、空を飛べるようになるのに苦労した思い出がある。何せ他の子とは翼の形が違うのだから、ただ同じ動きをしても上手くは飛べないのだ。それでいて保育士にも羽毛の翼での飛び方を教える技能は無く、そもそも保育士から嫌われているのでまともに練習に付き合ってももらえなかった。

「ほらみんな、ルシファーさんにご挨拶しなさい」

 ティターニアがそう言って園児達を下ろすと、園児達はルシファーの方を向き一斉にペコリと頭を下げた。
 奥には若いサキュバスの保育士が二人。いずれもティターニアと同じ上半身裸にエプロン姿で、二十一歳という年齢からしてリリム達の二つ上の世代である。

「せんせー、おっぱい」

 一人の園児が、ティターニアのエプロンを引っ張って言った。

「すみませんルシファー先生。丁度今子供達のご飯の時間で……」
「こちらこそ、そちらのスケジュールを把握せずに来て申し訳ない。俺のことは構わず、園児達を優先してスケジュール通りに動いてくれ」
「ええ、ではお言葉に甘えて」

 ティターニアはそう言うと、いきなりエプロンをはだけてそのとても大きな胸を露にした。奥の二人も、同じことをする。保育士一人につき園児二人、丁度ぴったり数を揃えて授乳開始である。
 四歳といえば人間や他の魔族では一般的にもう母乳を摂取することのない年齢だが、淫魔はその種族的特殊性故に幼稚園年長に相応する年齢まで母乳だけで栄養を摂る。その後も小学六年生に相応する年齢まで、栄養補助のため給食として母乳を摂取するのである。

 子供達は皆、幸せそうにおっぱいを吸っている。特定の園児にだけ母乳を与えないだなんてことはない。何故ならここには、変な形の翼をした子はいないのだから。
 ティターニアは勿論のこと、他の二人の保育士も園児達をとても大切にし、園児達からも信頼されていることが見て取れた。

「あちらの二人は、貴方の眷属か?」
「ええ。わたくしの魔法で母乳が出るようにして、ここで働かせています」

 インキュヴェリアにおいて他の淫魔の眷属となった淫魔は、奴隷に近い地位の労働者階級である。
 主に淫魔学校を卒業することのできなかった淫魔がなるものであり、魔力が極端に低く栄養状態も生活環境も劣悪だ。

「眷属に保育士をさせるほど今は人材不足なのか」
「今は働きたがらない人間界帰りが多いですから」

 ルシファーの知る淫魔族の常識では、保育士のような専門的知識と教養を必要とする職は人間界帰りの淫魔が務めるものである。

「でも、彼女達がわたくしの眷属であることで意思疎通もし易いですし、仕事の上でのメリットも大きいのですよ」
「そういう面もあるのか」

 だが問題は、あの眷属淫魔達の魔力が高すぎることである。彼女達の経験人数に異常はなく、ごくありふれた淫魔学校中退者相応の数値。だが本来は著しく低い魔力を持つはずの彼女達が、人間界帰り並の魔力を有しているのだ。
 一般的に淫魔は他者の魔力の存在を感知することはできても、その量まではわからない。だからこそ経験人数を視る目で、相手の力量を計るのだ。恐らくそれはマラコーダらインキュヴェリア上層部の面々も同じだろう。ルシファーのように、他者の魔力量を直接的に計ることができる方が特殊なのである。
 他の淫魔から見れば、彼女達は何でもないただの優秀な人間界帰りとその眷属淫魔だ。それ故に異常性を感知されることなく、新生児を預かる大役を任されているのだろう。
 なお園児達にこのような異常は無く、ごく普通の四歳児相応の魔力である。

(一体どうなってるんだこの保育園は。ここで一体何が起こっている? それに……)

 ルシファーが得た情報に、異常はもう一つあった。三人とも共通して、ルシファーにしか視ることのできないとある情報が表示されていたのである。
 ルシファーはふと、この場に何か別の魔力を感知した。

(これは……淫魔領域か? 俺が来る前からずっと、この園内のどこかで淫魔領域が展開されている。一体何のために?)
「どうかされましたか、ルシファー先生」
「いや何、子供というのは可愛らしいものだなと思ってな」
「ええ、わたくしもとてもそう思います」

 乳を吸う園児の頭をそっと撫でながら、ティターニアは言う。
 彼女の二つ名は、母性。それはあくまでもそういうプレイを得意とすることから付けられたものである。だがこうして慈しみの表情で園児達に母乳を捧げる姿は、まさしく母性に溢れるもの。魔族に対してこの言葉を使うのは不適切であろうが、あえて言うならばさながら聖母のようとさえ言えた。

「こんな純粋な子供達も、いずれはセックスを学んで人間界に赴き、人と交わり続けながらエクソシストに追われることとなるのか。やるせないものだ」
「……仕方がありません。それが淫魔という種の定めですから。わたくしとて、これまで育てて送り出した子達が死地に赴く度に胸が苦しい思いをしてきました。できることならこの子達にも一生平和な世の中で生きて欲しいと願っていますが、そうもいきませんよね」

 ルシファーは二人の保育士を見る。他の淫魔の眷属になれば人間界へは行かずに済むが、奴隷同然の身分となる。どちらに転んでも地獄の二択だ。

「ああ、まったくだ。俺もつくづくそう思う」



 その後もルシファーは暫く保育園を見学し、子供達を寝かしつけるところまで見て園を出た。

「今日は良い勉強になった。ありがとう」
「こちらこそ、貴方と教育についてお話ができて良かったです。またいつでも見学にいらして下さい」
「ああ、ではまた」

 ティターニアに手を振り、翼を広げて飛び去るルシファー。だが程なくして、ルシファーはティターニアの魔力反応が領域内に移動したことを確認すると旋回して保育園へ飛んで戻った。
 魔力反応を頼りに、淫魔領域の座標を特定。保育園の裏口へと、ルシファーはやってきていた。
 理由は勿論、保育士達の異常な魔力インフレの原因を調査するためである。ずっと展開されたままになった淫魔領域。そこに謎の真相があると、ルシファーは睨んだ。
 彼女達の園児への接し方を見るに無いとは思うが、万が一それが園児達の犠牲の上で成り立つようなものであれば戦ってでも止めねばならない。

 ルシファーは翼から羽根を一枚抜き取ると、手術でメスを入れるようにそれで空間に切れ込みを入れた。そこに両手を突っ込んで左右に開いて広げると、その向こうには異空間が広がっている。ルシファーだけが使える、他の淫魔の領域へ侵入する能力だ。
 中へ足を踏み入れたルシファーは、愕然とした。

(これは……馬鹿な。こんなことが……)

 目を疑うほどの信じ難い光景。ルシファーはただ、放心したように立ち尽くすのみであった。
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