4 / 46
一日目
ばっちゃの家(北の畑)
しおりを挟む
「懐かし~。昔と全然変わってない! それにしてもホント久しぶりよね~。ばっちゃ元気にしてるかしら」
「大きな怪我や病気したとか聞かないし、元気でしょ。というか殺そうとしても死なないと思うよばっちゃは。たぶん百まで余裕で生きるって。最後は畑で農作業してて仁王立ちしながら死にそうだよ。武蔵坊弁慶みたいにさ」
「何よ、そのよくわからない例え」
ばっちゃの家の近くまで来た陽向と月琉。二人は道路からばっちゃの家を見上げる。
四年前よりも外壁が傷んでいるものの、昔と変わらないばっちゃの家がそこにあった。モダンな目新しさはないものの、どこか温かみのある昔ながらの二階建ての家だ。
二階建てといってもきっちりと重なりあった二階建てではない。二階は一階に比べると狭く小さい。遠目から家全体を見ると、凸の文字のような形をしている。
ばっちゃの家は、山肌を切り開いたような場所にあり、家の目の前を走る道路よりも二メートルほど小高い位置にある。南北側には畑があり、西側には切り崩した山肌、東側には二人が今いる道路、といった感じになっている。
小高い場所に家があるので、道路からばっちゃの家に向かうには、少し遠回りしなければいけない。北側畑に繋がる階段か、南側畑に繋がる緩やかな坂道を通るしかない。直接玄関の所には行けないつくりとなっている。
越村一家が揃って帰省する際はいつも、南側畑に繋がる坂道ルートを採っていた。マイカーに乗ったまま南側畑に繋がる私有地に入り、畑脇の小道に適当に駐車して、そこからばっちゃの家に向かっていた。
道路から直通で家に入れないというのは極めて不便だ。どうしてこんな不便なつくりの家になっているかは定かではないが、ばっちゃ曰く、昔この地に移り住んだ越村家の先祖が代々開拓して土地を広げた影響らしい。継ぎ接ぎするように道を整備し、その上で自治体が道路を設置したりしたので、それでこんなへんてこなつくりになっているらしい。
洗練された新興住宅地とかでは決して見られないような面白い家である。田舎ならではの家だ。
「ばっちゃ、畑に出てるかもしんないから、それぞれ南北別のルートで行きましょ。月琉は南ね」
「南の方が若干遠回りで面倒なんだけど。まあいいよ。へいへい了解」
陽向は北側の階段ルート、月琉は南側の坂道ルートを辿ることにしたらしい。
「よっと、ほっと」
陽向は軽やかなステップで急階段を上り、ばっちゃの家の北側私有地に入る。小高い私有地に入ると、道路からは見えにくい位置にあった畑の全貌が見えてくる。
ぎっしりと植えられた夏野菜。一部は実りの時季を迎えている。田舎の夏を感じられる長閑な風景である。
「相変わらずねぇ。なんか落ち着くわ」
陽向は思いっきり背伸びしながら息を吸った。
青々とした臭いと土の臭いが感じられる。決して若者が好き好むものではないが、陽向はわりと好きであった。昔の思い出が一気に流れ込んでくる気がした。幼い頃、この畑で虫取りなどをして何度も遊んだものだ。
「ばっちゃ、こっちの畑では毎回カボチャ植えてんのね」
陽向は畑を見て回る。一番最初に目についたのはカボチャだ。
大きなカボチャではなく、小さな品種のカボチャである。ぷっくり膨らんだ小カボチャは、なんとも可愛らしい。
「あー、あったあった。昔このドラム缶の中でゴミを燃やして悪さしたっけ」
畑の端っこには、穴の空いたドラム缶が設置されていた。本当は条例的に不味いのかもしれないが、ちょっとした紙くずや刈り取った雑草などをこっそり燃やして処分しているようだ。
灰は再び地面へと撒かれ、リサイクルされるのだろう。昔ながらの人間の営みがそこにあった。
「げっ、トマトも植えてあるんだ。でも月琉が喜びそうね」
トマトがたわわと実っているのを見て、陽向は嫌そうに言った。
月琉がトマト好きな一方、陽向はトマトが大嫌いだった。あの酸っぱい独特の味が嫌なのだ。加工した状態のケチャップやトマトスープならむしろ好きなのだが、生のままのトマトはどうしても苦手だった。
「うわっ、見てるだけで舌がおかしくなりそう」
トマトを生で口にした時のあの味を想像したのか、陽向は露骨に顔をしかめる。それから舌をベーと出して悪態をついた。無抵抗なトマト相手に酷いものである。
「大きな怪我や病気したとか聞かないし、元気でしょ。というか殺そうとしても死なないと思うよばっちゃは。たぶん百まで余裕で生きるって。最後は畑で農作業してて仁王立ちしながら死にそうだよ。武蔵坊弁慶みたいにさ」
「何よ、そのよくわからない例え」
ばっちゃの家の近くまで来た陽向と月琉。二人は道路からばっちゃの家を見上げる。
四年前よりも外壁が傷んでいるものの、昔と変わらないばっちゃの家がそこにあった。モダンな目新しさはないものの、どこか温かみのある昔ながらの二階建ての家だ。
二階建てといってもきっちりと重なりあった二階建てではない。二階は一階に比べると狭く小さい。遠目から家全体を見ると、凸の文字のような形をしている。
ばっちゃの家は、山肌を切り開いたような場所にあり、家の目の前を走る道路よりも二メートルほど小高い位置にある。南北側には畑があり、西側には切り崩した山肌、東側には二人が今いる道路、といった感じになっている。
小高い場所に家があるので、道路からばっちゃの家に向かうには、少し遠回りしなければいけない。北側畑に繋がる階段か、南側畑に繋がる緩やかな坂道を通るしかない。直接玄関の所には行けないつくりとなっている。
越村一家が揃って帰省する際はいつも、南側畑に繋がる坂道ルートを採っていた。マイカーに乗ったまま南側畑に繋がる私有地に入り、畑脇の小道に適当に駐車して、そこからばっちゃの家に向かっていた。
道路から直通で家に入れないというのは極めて不便だ。どうしてこんな不便なつくりの家になっているかは定かではないが、ばっちゃ曰く、昔この地に移り住んだ越村家の先祖が代々開拓して土地を広げた影響らしい。継ぎ接ぎするように道を整備し、その上で自治体が道路を設置したりしたので、それでこんなへんてこなつくりになっているらしい。
洗練された新興住宅地とかでは決して見られないような面白い家である。田舎ならではの家だ。
「ばっちゃ、畑に出てるかもしんないから、それぞれ南北別のルートで行きましょ。月琉は南ね」
「南の方が若干遠回りで面倒なんだけど。まあいいよ。へいへい了解」
陽向は北側の階段ルート、月琉は南側の坂道ルートを辿ることにしたらしい。
「よっと、ほっと」
陽向は軽やかなステップで急階段を上り、ばっちゃの家の北側私有地に入る。小高い私有地に入ると、道路からは見えにくい位置にあった畑の全貌が見えてくる。
ぎっしりと植えられた夏野菜。一部は実りの時季を迎えている。田舎の夏を感じられる長閑な風景である。
「相変わらずねぇ。なんか落ち着くわ」
陽向は思いっきり背伸びしながら息を吸った。
青々とした臭いと土の臭いが感じられる。決して若者が好き好むものではないが、陽向はわりと好きであった。昔の思い出が一気に流れ込んでくる気がした。幼い頃、この畑で虫取りなどをして何度も遊んだものだ。
「ばっちゃ、こっちの畑では毎回カボチャ植えてんのね」
陽向は畑を見て回る。一番最初に目についたのはカボチャだ。
大きなカボチャではなく、小さな品種のカボチャである。ぷっくり膨らんだ小カボチャは、なんとも可愛らしい。
「あー、あったあった。昔このドラム缶の中でゴミを燃やして悪さしたっけ」
畑の端っこには、穴の空いたドラム缶が設置されていた。本当は条例的に不味いのかもしれないが、ちょっとした紙くずや刈り取った雑草などをこっそり燃やして処分しているようだ。
灰は再び地面へと撒かれ、リサイクルされるのだろう。昔ながらの人間の営みがそこにあった。
「げっ、トマトも植えてあるんだ。でも月琉が喜びそうね」
トマトがたわわと実っているのを見て、陽向は嫌そうに言った。
月琉がトマト好きな一方、陽向はトマトが大嫌いだった。あの酸っぱい独特の味が嫌なのだ。加工した状態のケチャップやトマトスープならむしろ好きなのだが、生のままのトマトはどうしても苦手だった。
「うわっ、見てるだけで舌がおかしくなりそう」
トマトを生で口にした時のあの味を想像したのか、陽向は露骨に顔をしかめる。それから舌をベーと出して悪態をついた。無抵抗なトマト相手に酷いものである。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
無能な陰陽師
もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。
スマホ名前登録『鬼』の上司とともに
次々と起こる事件を解決していく物語
※とてもグロテスク表現入れております
お食事中や苦手な方はご遠慮ください
こちらの作品は、
実在する名前と人物とは
一切関係ありません
すべてフィクションとなっております。
※R指定※
表紙イラスト:名無死 様
オーデション〜リリース前
のーまじん
ホラー
50代の池上は、殺虫剤の会社の研究員だった。
早期退職した彼は、昆虫の資料の整理をしながら、日雇いバイトで生計を立てていた。
ある日、派遣先で知り合った元同僚の秋吉に飲みに誘われる。
オーデション
2章 パラサイト
オーデションの主人公 池上は声優秋吉と共に収録のために信州の屋敷に向かう。
そこで、池上はイシスのスカラベを探せと言われるが思案する中、突然やってきた秋吉が100年前の不気味な詩について話し始める
岬ノ村の因習
めにははを
ホラー
某県某所。
山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。
村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。
それは終わらない惨劇の始まりとなった。
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる