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一日目

ばっちゃの家(北の畑)

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「懐かし~。昔と全然変わってない! それにしてもホント久しぶりよね~。ばっちゃ元気にしてるかしら」
「大きな怪我や病気したとか聞かないし、元気でしょ。というか殺そうとしても死なないと思うよばっちゃは。たぶん百まで余裕で生きるって。最後は畑で農作業してて仁王立ちしながら死にそうだよ。武蔵坊弁慶みたいにさ」
「何よ、そのよくわからない例え」

 ばっちゃの家の近くまで来た陽向と月琉。二人は道路からばっちゃの家を見上げる。

 四年前よりも外壁が傷んでいるものの、昔と変わらないばっちゃの家がそこにあった。モダンな目新しさはないものの、どこか温かみのある昔ながらの二階建ての家だ。

 二階建てといってもきっちりと重なりあった二階建てではない。二階は一階に比べると狭く小さい。遠目から家全体を見ると、凸の文字のような形をしている。

 ばっちゃの家は、山肌を切り開いたような場所にあり、家の目の前を走る道路よりも二メートルほど小高い位置にある。南北側には畑があり、西側には切り崩した山肌、東側には二人が今いる道路、といった感じになっている。

 小高い場所に家があるので、道路からばっちゃの家に向かうには、少し遠回りしなければいけない。北側畑に繋がる階段か、南側畑に繋がる緩やかな坂道を通るしかない。直接玄関の所には行けないつくりとなっている。

 越村一家が揃って帰省する際はいつも、南側畑に繋がる坂道ルートを採っていた。マイカーに乗ったまま南側畑に繋がる私有地に入り、畑脇の小道に適当に駐車して、そこからばっちゃの家に向かっていた。

 道路から直通で家に入れないというのは極めて不便だ。どうしてこんな不便なつくりの家になっているかは定かではないが、ばっちゃ曰く、昔この地に移り住んだ越村家の先祖が代々開拓して土地を広げた影響らしい。継ぎ接ぎするように道を整備し、その上で自治体が道路を設置したりしたので、それでこんなへんてこなつくりになっているらしい。

 洗練された新興住宅地とかでは決して見られないような面白い家である。田舎ならではの家だ。

「ばっちゃ、畑に出てるかもしんないから、それぞれ南北別のルートで行きましょ。月琉は南ね」
「南の方が若干遠回りで面倒なんだけど。まあいいよ。へいへい了解」

 陽向は北側の階段ルート、月琉は南側の坂道ルートを辿ることにしたらしい。

「よっと、ほっと」

 陽向は軽やかなステップで急階段を上り、ばっちゃの家の北側私有地に入る。小高い私有地に入ると、道路からは見えにくい位置にあった畑の全貌が見えてくる。

 ぎっしりと植えられた夏野菜。一部は実りの時季を迎えている。田舎の夏を感じられる長閑な風景である。

「相変わらずねぇ。なんか落ち着くわ」

 陽向は思いっきり背伸びしながら息を吸った。

 青々とした臭いと土の臭いが感じられる。決して若者が好き好むものではないが、陽向はわりと好きであった。昔の思い出が一気に流れ込んでくる気がした。幼い頃、この畑で虫取りなどをして何度も遊んだものだ。

「ばっちゃ、こっちの畑では毎回カボチャ植えてんのね」

 陽向は畑を見て回る。一番最初に目についたのはカボチャだ。

 大きなカボチャではなく、小さな品種のカボチャである。ぷっくり膨らんだ小カボチャは、なんとも可愛らしい。

「あー、あったあった。昔このドラム缶の中でゴミを燃やして悪さしたっけ」

 畑の端っこには、穴の空いたドラム缶が設置されていた。本当は条例的に不味いのかもしれないが、ちょっとした紙くずや刈り取った雑草などをこっそり燃やして処分しているようだ。

 灰は再び地面へと撒かれ、リサイクルされるのだろう。昔ながらの人間の営みがそこにあった。

「げっ、トマトも植えてあるんだ。でも月琉が喜びそうね」

 トマトがたわわと実っているのを見て、陽向は嫌そうに言った。

 月琉がトマト好きな一方、陽向はトマトが大嫌いだった。あの酸っぱい独特の味が嫌なのだ。加工した状態のケチャップやトマトスープならむしろ好きなのだが、生のままのトマトはどうしても苦手だった。

「うわっ、見てるだけで舌がおかしくなりそう」

 トマトを生で口にした時のあの味を想像したのか、陽向は露骨に顔をしかめる。それから舌をベーと出して悪態をついた。無抵抗なトマト相手に酷いものである。
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