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一日目
ばっちゃの家(南の畑)
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「――こっちの畑も昔と変わらないなあ。こんな植えてどうすんだよ。売るつもりでもねえのに毎年よくやるぜ、ばっちゃの奴」
北側畑にいる陽向が昔を懐かしんでいる一方、南側畑にいる月琉もまた昔を懐かしんでいた。
南側の畑は日当たりが良いからか、北側畑よりも広大で、色々な作物が植えられていた。トウモロコシ、ピーマン、シシトウ、オクラ、ナス、キュウリ、ゴーヤ、エダマメ――といった、夏の野菜が所狭しと植えられている。。
「トウモロコシか。陽向が喜びそうだな」
陽向の好物であるトウモロコシを見て、月琉は呟く。
月琉もトウモロコシは嫌いではない。丸々一本使った贅沢な焼きトウモロコシは最高に美味しい。あの独特の香ばしさを思い出し、思わず涎が零れそうになった。
「トマトはないのか……。ばっちゃって、陽向みたいにトマト嫌いだったっけ?」
南側畑にある作物を一通り眺め、月琉は残念そうに呟いた。これだけ夏野菜が植えられていてトマトがないということはトマト嫌いなのかと早合点したのだ。
それから彼の関心は、畑の中に唐突に生えてきたような電信柱に向かった。
「あー、そうそう。昔この電柱を登ろうとして怒られたっけか」
電信柱に触れながら、月琉は懐かしそうに当時を振り返る。昔、陽向と遊んでいる際にこの電柱に登ろうとして、ばっちゃに物凄く怒られたことを思い出した。
基本温厚なばっちゃが怒ることは滅多にないので酷く驚いたものだ。当時は陽向と一緒にわんわん泣いて悲しかった記憶がある。ほろ苦い思い出だ。
「セミが引っ付いているな。ホント、昔と変わらないな」
苦い思い出ばかりではない。この電柱には楽しい思い出も沢山詰まっている。
張り付いているセミを昔よく捕まえたものだ。他にも、ヘチマやキュウリ、ゴーヤの蔓が柱に絡み付いているのを剥がして遊んだり、絡みついた蔓が滞在中にどこまで伸びるか観察して楽しんだりもした。
この電柱一つとっても、ばっちゃの家には思い出が沢山あった。その一つ一つを懐かしく思いながら、月琉は南側畑を巡っていく。
「おーい、ばっちゃー。いるかー?」
几帳面な月琉は、わざわざ畑の中にまで入って、ばっちゃの姿を探す。しゃがんで作業しているならば、畑の外から見てもわかりづらいからだ。
「どうやらばっちゃはいないようだな」
月琉は南側畑を一通り見て回ってばっちゃの姿がないことを確認すると、先ほどの電柱にトントンと足をぶつけて靴の土を落とし、それから家の方に向かった。
北側畑にいる陽向が昔を懐かしんでいる一方、南側畑にいる月琉もまた昔を懐かしんでいた。
南側の畑は日当たりが良いからか、北側畑よりも広大で、色々な作物が植えられていた。トウモロコシ、ピーマン、シシトウ、オクラ、ナス、キュウリ、ゴーヤ、エダマメ――といった、夏の野菜が所狭しと植えられている。。
「トウモロコシか。陽向が喜びそうだな」
陽向の好物であるトウモロコシを見て、月琉は呟く。
月琉もトウモロコシは嫌いではない。丸々一本使った贅沢な焼きトウモロコシは最高に美味しい。あの独特の香ばしさを思い出し、思わず涎が零れそうになった。
「トマトはないのか……。ばっちゃって、陽向みたいにトマト嫌いだったっけ?」
南側畑にある作物を一通り眺め、月琉は残念そうに呟いた。これだけ夏野菜が植えられていてトマトがないということはトマト嫌いなのかと早合点したのだ。
それから彼の関心は、畑の中に唐突に生えてきたような電信柱に向かった。
「あー、そうそう。昔この電柱を登ろうとして怒られたっけか」
電信柱に触れながら、月琉は懐かしそうに当時を振り返る。昔、陽向と遊んでいる際にこの電柱に登ろうとして、ばっちゃに物凄く怒られたことを思い出した。
基本温厚なばっちゃが怒ることは滅多にないので酷く驚いたものだ。当時は陽向と一緒にわんわん泣いて悲しかった記憶がある。ほろ苦い思い出だ。
「セミが引っ付いているな。ホント、昔と変わらないな」
苦い思い出ばかりではない。この電柱には楽しい思い出も沢山詰まっている。
張り付いているセミを昔よく捕まえたものだ。他にも、ヘチマやキュウリ、ゴーヤの蔓が柱に絡み付いているのを剥がして遊んだり、絡みついた蔓が滞在中にどこまで伸びるか観察して楽しんだりもした。
この電柱一つとっても、ばっちゃの家には思い出が沢山あった。その一つ一つを懐かしく思いながら、月琉は南側畑を巡っていく。
「おーい、ばっちゃー。いるかー?」
几帳面な月琉は、わざわざ畑の中にまで入って、ばっちゃの姿を探す。しゃがんで作業しているならば、畑の外から見てもわかりづらいからだ。
「どうやらばっちゃはいないようだな」
月琉は南側畑を一通り見て回ってばっちゃの姿がないことを確認すると、先ほどの電柱にトントンと足をぶつけて靴の土を落とし、それから家の方に向かった。
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