記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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最終章 それが俺達の絆

第453話 【欲望の劫火】②

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「ゲホッ! ゲホッ! ゼ……ゼロラ……さん……!」

 全身を炎に焼かれ、生じる煙でマカロンが苦しんでいる。

「ハッハッハッ! 愛する女性が目の前で火あぶりにされるというのも、悪くはないだろう!」

 そんな苦しむマカロンの姿を、ダンジェロは面白そうに笑って見ている。

「さあ! 小生にその怒りをぶつけてみたまえ! ゼロラ公――」





 ――ガシンッ!!





「むぐぅ!?」
「ダンジェロォオオ!!!」

 そんなダンジェロの姿を見て、俺は怒りに身を任せて動いた。
 疲弊した体のことなど考えず、ダンジェロの顔面を掴んで地面へと叩きつける。


 ドガァアッ! ボガァアッ! メギャァアアッ!!


 そのままダンジェロに馬乗りし、マウントをとった後はひたすらその顔面を殴り続けた。

 食いしばる歯から血が滲め出ようと関係ない。
 叩きつける拳の皮がめくれようとも関係ない。
 全身を走る激痛さえも――関係ない。

 ただひたすらにダンジェロの顔面を、何度も何度も殴りつけた。



「ハッハッハッ……! これが公の抱く"思い"……か。いやはや……元より人間であるはずの小生でさえ、抱けなかった感情……だ。」

 そんな俺の攻撃を受けながらも、ダンジェロは満足したように笑っている。
 今の俺の行動は、自分でも実に"人間らしい"と思える。
 怒りに身を任せ、ただその拳を矛先へと向けている。

 それに対して、ダンジェロは殴られながらも分析しているだけ――
 こいつの感情はあまりにも薄すぎる。



 だが、今はそんなことはどうでもいい――

「早く火を消せぇえ!! ダンジェロォオオ!! 消さないと……俺はてめえをこのまま……殴り殺すぞぉおお!!!」

 自身でもどうしようもないほど抑えられない、圧倒的な憤怒。
 マカロンを苦しめさせている元凶への怒りが、そのまま口から言葉となって溢れ出す。





「ゲ、ゲホォ!? ……ハッハッハッ。よ、よかろう……。小生も満足だ。公の望みを叶えるとしよう……」

 俺に殴られ続けていたダンジェロだったが、観念したのかその左手の指を擦らせる――


 ――パチンッ

 ボォオオ……


 ――そして指を鳴らして合図を送った。
 マカロンを覆っていた炎も、すぐに消え去ってくれた。

「ゲホッ……ケホッ……! ハァ……ハァ……」
「マカロン! 大丈夫か!? しっかりしろ!!」

 炎から解放されたマカロンの元へ、俺は急いで駆け付けた。
 脱力して倒れようとする体を抱きかかえ、必死に容態を確認する。

「だ……大丈夫……です……。助かりました……ゼロラさん……」
「よ、よかった……! 本当によかった……!」

 全身が煤まみれになり、息も絶え絶えではあるが、マカロンはなんとか無事だった。
 多少は煙を吸ったようだが、火傷なども見当たらない。
 俺はその様子を見て、心から安堵する。
 縛り付けられていた縄も炎のせいで大分ボロボロになっていたので、俺はすぐに引きちぎってマカロンの身を自由にした。

「すまないな……マカロン。元々は……俺の蒔いた種だ……!」
「気にしないでください……。ゼロラさんの姿が見えた時から、『絶対に助けてくれる』って、信じてましたから……」

 俺が苦しそうに思いを語っている様子を見て、マカロンは笑顔を作りながら答えてくれた。

 本当によかったと、心から思う。
 もし今ここでマカロンを失っていたら――



 ――俺はユメを失った時と、同じ思いをすることになっていた。





「ハッハッハッ……。かつての"魔王"が、今や小生以上に"人間"……か」

 そんな俺とマカロンの近くに、ダンジェロがよろめきながら近寄ってきた。
 顔こそニヤけているが、持っている杖で体を支え、すでに戦える様子ではない。

「もっとも、公はユメ様に出会った頃から、"人間"にどんどん近づいてはいたが……な」
「お前の話はもう聞きたくもない。負けを認めたのなら、さっさとどこかへ行け。それと……俺のことを『公』と呼ぶな。もう俺はお前の主でも何でもない」
「ハッハッハッ……。左様左様。公は――いや、卿はもう、魔王でも何でもない、"ただの人間"だから……な」

 そう、今の俺は"人間"だ。
 【伝説の魔王】はあの日あの時、確かに死んだ。
 だからダンジェロとの因縁も、もうこれで終わりだ――

「ダンジェロ。二度と俺達の前に現れるな。お前がまた俺の仲間に手を出すのなら、今度こそ死ぬと思え……!」
「了承了承……。元魔王軍四天王【欲望の劫火】として、卿の"最後の命令"に従うとしよう。今後はまた……別の場所にて、この欲望を滾らせるとする……か!」

 俺の言葉を"最後の命令"として聞き取ったダンジェロは、よろめきながらも俺達の元から離れて行った。



 "紅の賢者"として名前と身分を偽った、元魔王軍四天王【欲望の劫火】、ダンジェロ。
 誰よりも"人間"の技と知識を持ちながら、誰よりも"人間"から遠かった人間――
 俺もこれで一つの決着をつけられた気がした。



 俺は"人間"だ。
 俺はもう――"魔王"じゃない。
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