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最終章 それが俺達の絆

第440話 明暗夜光のルクガイア・破④

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 宿場村を出た俺は夜になった頃に、王都へと辿り着いた。
 俺が【伝説の魔王】だったことをバラした人物。人々を扇動しそうな人物――
 俺が思う限り、その可能性が最も高いのは、勇者レイキース。
 あいつの居所を確かめるために王都までやってきたが、目の前にはとんでもない光景が広がっていた――



「レイキース様……! 称える……!」
「【伝説の魔王】……ゼロラ……! 滅ぼす……!」

 王都の住人達が目を血走らせ、"壁周り"で会った人々と同じように声を荒げている。
 レイキースへの称賛と俺への怨嗟の声――
 これが誰かの企みであったとしても、やはり心苦しいものがある。

 俺が【伝説の魔王】だったのは事実で、人々から恐れられていたのも事実だ。
 俺の正体が知れ渡った以上、我が物顔でこの国に居座るのは難しい。



 ――それでも俺は、この国で生きていきたい。
 ゼロラという人間になってから出会い、多くの人々と育んできた絆――
 俺はそれを手放したくない。
 ユメもこの地に眠っている以上、離れたくなんかない。

 傲慢な考えだということは百も承知だ。
 もし俺に罪が必要なら、それを受け入れる覚悟もある。



 ――そうしてでも、俺はこの国で生き続けたい。





「ゼロラさんじゃん!? このタイミングで出てくるとか、危ないじゃん!」
「お前……ジャン!?」

 目の前の光景を見て少し考え込んでいた俺だったが、民衆に紛れていたジャンの声で意識を引き戻された。

「お前こそ何をやってるんだ?」
「じいちゃん達と一緒に、おかしくなった人達を元に戻そうとしてるじゃん! ゼロラさんの知り合いも協力してくれてるじゃん!」

 聞けばジャンの祖父であるチャン老師は、この操られていると思われる人々を抑える方法を知っているそうだ。
 耳を澄ませてみると人々の怒号に交じり、喝を入れる人の声が聞こえてくる――

「……なんで俺の知り合いはこうまでして、協力してくれてるんだ?」
「そりゃあ、話の真意がどうであれ、ゼロラさんが蔑まれるのはおかしいと思ってるからじゃん?」
「……なんだか、感慨深いな」

 俺の正体が【伝説の魔王】だという話を聞いても、俺に味方してくれる仲間がいる。
 ゼロラという人間として生まれ変わり、紡いできた絆は無駄ではなかった。

 【伝説の魔王】ジョウインだった頃には感じなかった、湧き上がってくるような暖かい感情――
 きっとこれが、"勇気"というものなんだろう。
 俺はこれまでの出会いと絆から、そんな感情を心から理解できたような気がしてきた――



「……感傷に浸っている場合じゃなかったな。とにかく、俺は王宮に向かう」
「王宮にじゃん? そういえばさっきも誰かが、『この騒動の元凶がいる』とか言って、王宮に向かったじゃん。ゼロラさんもそう思うじゃん?」

 どうやら俺以外にも、王宮へ向かった仲間がいるようだ。
 俺の考えが正しければ、この騒動の元凶――レイキースはそこにいる。
 あいつはきっと、<絶対王権>を狙っている。
 ここまで騒動を拡大させたのがあいつならば、それこそ確実な手でこのルクガイア王国を意のままに操ろうとするだろう。

「情報助かった、ジャン。お前達はこのまま暴動を押さえててくれ。頼む!」
「言われなくてもそのつもりじゃん! ゼロラさんも気を付けるじゃん!」

 ジャンが気合いのこもった表情で俺を見送ってくれた。
 本当に心強い。
 そんな気持ちに応えるためにも、俺は王宮へ足を進める。

 全てはこの暴動の元凶を倒すために――





 ジャンを始めとした仲間達が暴動の鎮圧に向かってくれたこともあり、俺は無事城門までたどり着くことができた。

「たどり着いたはいいが……この妙な静けさはどういうことだ?」

 俺は城門の辺りを見回すが、誰もいない。
 守っているはずの王国騎士団すら立っておらず、閑散とした城門前のスペースに、俺一人だけが立っている。
 今王都で起こっている暴動も異常だが、その王都の中枢であるこの王宮が静まり返っているのも、明らかに異常だ。





「やっと姿を現したわね。ゼロラ……いえ、【伝説の魔王】ジョウイン!」
「お前は……!?」

 一人立ちつくしていた俺の頭上で、誰かが声をかけてきた。女の声だ。
 その声に反応して顔を上げると、「やはり」と言うべきか、かつて【伝説の魔王】だった俺を殺した張本人の一人が、城門の上で俺を見下ろしていた――



「賢者……リフィー……!」
「人の世に隠れし魔王……。今度こそ、勇者レイキース様の命令の元、あなたを倒しますわ」

 俺と顔を合わせたリフィーは城門の上に立ったまま、俺へと敵意の視線をぶつけてくる。

 ――だが、その目はどこかおかしい。
 瞳に光はなく、暴動を起こしている人々と同じような目をしている。

 まさか、リフィーもレイキースに操られているのか……?

「お前がここにいる以上、この騒動の元凶はレイキースってことでほぼ確定だな?」
「『騒動の元凶』とは言い方が悪いですわね。これは"正義"のための戦いですわよ?」

 リフィーはなおも虚ろな目をしたまま、俺の問いに答えてくる。
 騒動の元凶がレイキースなのは間違いないだろう。
 ただ、レイキースは仲間であるはずのリフィーを洗脳してまで、自身が望む"正義"を成し遂げようとしているのか――

「俺の邪魔をするつもりか? 悪いが今の俺は、お前であっても容赦なく殴り飛ばす」

 普段から"女は殴らない主義"を貫いてきたが、今回ばかりはそうもいかない。
 この女が向かってくるなら、俺は殴り倒してでも先へ進む。

 俺は決意を固め、リフィーへと構える――





「残念だけど、あなたの相手はわたくしではありませんわ。"代わりの者"を用意してありますので」
「"代わりの者"……?」
「ええ。……出てきなさい」

 すっかりリフィーが挑んでくるものだとばかり思っていたが、そうではないらしい。
 リフィーは城門から少し離れた物陰に手を差し出し、代わりに俺と戦う相手を呼び出した。























「すまんな……ゼロラはん。どうやら俺とあんさん、この賢者様の罠にかかってもうたみたいや……」

「シシバ……!?」
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