記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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最終章 それが俺達の絆

第441話 明暗夜光のルクガイア・破⑤

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「あ~あ……。俺としたことが、こないな罠にはまってまうなんてな~……」
「罠だと……? どういうことなんだ、シシバ?」

 リフィーが俺との対戦相手として呼び出したのは、ギャングレオ盗賊団頭領のシシバだった。
 シシバの様子を見る限り、こいつも本意でこの場に居合わせたわけではないようだ。
 暴徒やリフィーのように、操られている気配もない。

 何よりも気になるのは、『罠にはめられた』というシシバの言葉――
 俺はその真意を確認するためにも、再度リフィーへ目を向けた。

「あなた達二人には、今から殺し合ってもらうわ」
「……どういうことだ? なんで俺とシシバがそんなことをしなきゃならない? こんな勝負に何の意味が――」
「ではこの二人を見ても、同じことが言えるかしら?」

 俺との答弁もまともに行わず、リフィーは両手を天にかざした。
 それに呼応して、二つの魔法の檻がリフィーの横へと現れる――





「パ、パパ~……!」
「すまない……シシ兄、ゼロラ殿……!」
「ミライ!? リョウ!?」

 ――そしてその魔法の檻に囚われていたのは、俺の娘のミライと、シシバの妹のリョウだった。

「リフィー……! お前まさか、二人を人質に……!」
「そんなに睨まないでほしいですわ。この二人がどうなってもよろしくて?」

 リフィーは両脇にいるミライとリョウを指さしながら、俺へと不敵な笑みを浮かべてくる。
 成程。実に悪趣味だが、何を考えているのかは理解できた。

「ゼロラ。あなたが勝てば、娘を返してあげますわ。シシバ。あなたが勝てば、妹を返してあげますわ。助かるのはどちらか一方のみ……。決着が着くまで、殺し合いなさい!!」

 俺の予想通りの答えが、リフィーの口から放たれた。
 その虚ろな目から操られたままのようだが、言っていることは本気のようだ。

 自らの代わりに、俺とシシバを戦わせる――
 どっちが勝っても、疲弊した方に止めを刺せばいい――
 こいつらの目的は"俺を殺す"ことにある。

 悪趣味極まりないやり方だが、下手に逆らうわけにもいかない。
 シシバもそれを分かった上で、こうして大人しくリフィーに従っているのだろう。



「……なあ、ゼロラはん。あんさんは『リョウと娘のどっちを選ぶ』って聞かれたら、正直どっちを選ぶ?」

 リフィーを睨みながら考えていた俺に、ふとシシバが質問を投げかけてきた。

「お前には悪いが……俺は迷わずミライを選ぶ」

 その質問に対して、俺は率直な気持ちを答える。

 リョウを見捨てることなどできないが、『どちらか一方』と聞かれれば、俺は娘のミライを選ぶしかない。
 そしてそれは、シシバも同じ――

「そうか、それでええ。俺も迷わずリョウを選ぶ」

 ――俺と同じように、家族を優先する。

 シシバもこの状況は不本意なのだろうが、こうなってしまった以上、優先される選択肢は妹のリョウを助けること――
 つまり、"俺を倒すこと"になる。



「なあ、ゼロラはん。お互いに譲れへんもんがある。負けるわけにはいかへん。理由としては吐き気がするが、戦う以外の選択肢が今は見当たらへん」
「……お前の考え、なんとなくだが分かってきたぜ」

 妹を人質に取られたシシバだが、気持ちを切り替えるように一度右目を瞑る。

 『理由が気に食わない』というのはシシバの本音だろう。
 だが、『俺と戦いたくない』というのは、シシバの本音から程遠い――



「……せっかくの機会や。俺とゼロラはん、どっちが上か。ここで白黒はっきりさせようやないか……!」

 ――再度右目を開けたシシバは、その本音を口にした。
 俺も思っていた通り、シシバは『俺と戦うこと』自体は望んでいる。
 この男が何よりも望むのは、強者との死闘。命をかけた喧嘩。
 自らの妹を人質に取られたことは不本意極まりないのだろうが、ここで俺と決着をつけることはむしろ望んでいる。

「……いいぜ。俺も理由としては不服だが、お前と決着をつけることに異論はない」

 そんなシシバの本音に対して、俺も応じる。
 今はこうしてリフィーの言うことに従うしかない以上、俺もシシバと戦う覚悟を決めなければならない。

「お前と戦うこと自体は構わない。だが、お前に俺を倒せるのか? これまで二回戦ってきたが、お前は一度も俺に勝ててないぞ?」
「キシシシ……! そういう心配はご無用や。今回の俺は【隻眼の凶鬼】やあらへん。全盛期の力を取り戻した――【最盛の凶獅子】や……!」

 そう言いながら、シシバは左目につけていた眼帯を取り外した。

 レイキースによって潰されたはずのシシバの左目――

 だがそこから現れたのは、"機械の目"だった。

「バクトはんとフロストはんに頼んで作ってもろたんや。<凶眼>こそ使えへんようになってもうたが、視力も含めて俺の力は両目があった全盛期まで戻っとるで……!」

 シシバは顔をニヤつかせながら、その自信を露にしている。
 シシバ最大の弱点であった、"目の悪さ"――
 バクトとフロストの力を借りてまで、その弱点を克服してきたか。
 この様子を見る限り、元々シシバは俺と決着をつけたがっていたのだろう。



 ――そこまでされては、俺も尚更こいつとの戦いに応じないわけにはいくまい。



「……あえて感謝するぜ、賢者リフィー」
「え? 何を言ってるのよ?」
「全力のシシバとは一度やりあってみたかった。両目が健在のこいつの実力……お前のおかげで拝むことができそうだ」

 俺は心の中で思ったことを、皮肉も込めてリフィーに言ってやった。

「何を馬鹿なことを言ってるのかしら? これからどちらかが死ぬって言うのに、状況を理解してないの?」
「お前みたいな暴動を起こす奴の仲間に、理解してもらわんでもええわ。これは俺とゼロラはんの個人的な決着や。私利私欲のための戦いとは、訳がちゃうねん」
「……理解できないわね。下賤な人間の考えることなんて、わたくし達のような勇者パーティーとは全然違うのね」

 シシバもリフィーに皮肉交じりの言葉を投げかけるが、リフィーには冷たくあしらわれる。

 だが、俺もシシバもそんなことは意に介さない。
 お互いに一度目を合わせた後、それぞれがこの戦いで賭けることとなった相手に声をかける。

「ミライ。すまないが、少しだけ待っててくれ。お前を助けるためでもあるが……今はお父さんを信じてくれ」
「パパ~……。わたし、いやだよぉ……。わたししか、助からないなんて……」

「リョウ。ちっとだけ、兄貴のワガママを容認してくれや。俺としても、助けるならお前の方を助けたいからな」
「シシ兄……。気持ちは分かる……。分かるけど、ボクよりもミライちゃんを……!」

 ミライとリョウ。
 お互いに人質となり、それぞれの家族にこの先のことを託すしかないが、それでも自身以外の相手の心配をしてくれている。
 そんな二人の優しさが身に染みるが、今の俺とシシバにできることは互いに一つだけ――



 俺はミライのためにシシバを倒す。
 シシバはリョウのために俺を倒す。



 ミライとリョウの命を賭けることになったのは不服だが、今の俺とシシバにできることはそれしかない。

「シシバ。ここから先、細かい考えは抜きだ。俺とお前……どっちが上か。互いの全力をもって、はっきりさせようぜ……!」
「上等や。最盛期の力を取り戻した俺の全力……。あんさんに死ぬ程、思い知らせたるわぁあ!!」

 これまで以上の自信と気迫を溢れさせながら、シシバは右手を肩にかけ、その上着を脱ぎ捨てた――
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