記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第24章 常なる陰が夢見た未来

第358話 魔王ならざる怪物

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 闇の球体の中から現れた少女は、憎悪の溢れる声で俺に向かって叫んできた。
 魔幻塔でリョウを操っていた<ミラークイーン>から聞いたものと同じ声だ。
 この少女こそが<ナイトメアハザード>の元凶にして、【伝説の魔王】ジョウインと【慈愛の勇者】ユメの間にできた子供。

 その名を――

「待たせたな……ミライ」

 ――俺は優しく語り掛けるように、その少女の名を呼んだ。

「ナんだ貴様は? 勇者デはナイのか? 勇者ハどこダ? 勇者レイキースはドコにイル? そもソモ、ナゼわたシノ名前を知ってイル?」

 俺が名前を呼んだ少女――ミライ。
 その子は玉座の上に浮かびながら、俺達を見下ろして辺りを探っている。

「こ、この子って……や、やっぱり……!」
「あの写真で見たのと同じ少女……!? でも、服の色も、髪の色も――いえ、似通っていても、全く同じ少女に見えない……!?」

 ラルフルとマカロンもこの子がジョウインとユメの子供――ミライであることに気付いたようだ。
 だが、その姿は写真で見たものとは大きく異なる。

 本来の黒髪はその絶望を現すかのように白く変色し――
 目元は大きな影を作り、光を失った瞳からは憎悪の感情があふれ出し――
 両眼から溢れる血の涙が顔を伝い、本来紫色だった魔道服をも赤く染め上げている。

 そしてその全身から溢れ出す、大量の闇――<ナイトメアハザード>。
 声にも雑音が混じり、とても目の前の少女が発しているとは思えない。

「ま、まさか……本当に魔王ジョウインとユメ様の娘なのか!? ここまで変貌しているが、やっぱりユメ様達と一緒に写っていた……!?」
「本当にそうらしいね……! 【伝説の魔王】ジョウインが死んでからずっと、一人でこの魔王城で生きていたということなのか……!?」

 ジフウとリョウも理解し、そして驚愕している。
 この子は理解している。自身の父が勇者レイキースによって殺されたことを――

「おイ? 何を話しテいる? 勇者はドコだ? レイキースはドコだ?」

 ミライは俺達のことよりも、ただひたすらに憎しみの矛先であるレイキースを探していた。

「ミライ……ここに勇者レイキースはいない。それよりも、俺の話を聞いて――」
「ワタしをソノ名で呼ぶなァア! わタシをソノ名で呼んデイイのは――ワタしにコノ名を与えテくれタ、モウこの世にイナイ――父と母ダケだァアア!!」

 ミライは俺の言葉を遮り、憎悪の声を上げる。
 その憎悪に、憤怒に、絶望に――呼応するかのように、自らが発する<ナイトメアハザード>をさらに溢れさせる――

「ぐっ!? ううぅ……!? ダ、ダメ……! 私の光魔法でも……防ぎきれない……!」
「<ナイトメアハザード>の本体――その力が、ここまでだったなんて……!? ボ、ボクの補助も持ちこたえられない……!」

 ミライが発する<ナイトメアハザード>の力は強大すぎる。
 マカロンとリョウが協力して展開している光魔法でも、限界が近づいている――

「モウいい! 貴様らダッテ人間ダ! "勇者"ダ、"正義"ナドとのたまイ、ワタシから家族ヲ奪っタ忌むベキ存在ダ! 消してヤル! ワタシが新たナ"魔王"としテ! 貴様ラを含む全テの人間を――殺してヤルゾォオオ!!!」

 ミライは自らを新たな魔王と称し、俺達への敵意をむき出しにする。
 今のミライには理性の欠片もない。あるのはただ、あまりにも大きく膨れ上がり過ぎた、"人間への恨み"だけ。
 それは"魔王"と名乗るにはあまりに凶暴で、絶望的なまでに悲劇的な存在――



 【正義が生んだ怪物】――ダンジェロが放った言葉が、一番相応しかった。



「こ、これってどうすればいいんですか!? やっぱり、レイキース様じゃないと対処できなかったんですか!?」
「いいや! レイキースでも無理だったんだ! この少女は【伝説の魔王】と【慈愛の勇者】双方の力を受け継いでる! <勇者の光>さえも通用しなかったんだ!」

 ラルフルもジフウも、この<ナイトメアハザード>に押されながら状況を考えている。
 そして、ジフウの言っていることは正しい。
 ミライはユメが持っていた勇者としての力も受け継いでいる。
 このように絶望に染まった状態では使えないが、ミライ自身にも<勇者の光>を使う適性は備わっている。
 <勇者の光>にだって耐性がある。

 それともう一つ――

「手始めダ! コノ魔王たるワタシの力デ――貴様らヲ皆殺シに、シテくれヨウぞォオオオ!!」

 宙に浮かんだミライが右手の平を頭上に掲げる。
 そしてそこに作られていく、巨大な闇の塊――

「う、嘘だろ……!? <魔王の闇>まで使えるのか……!?」

 実際にその脅威を耳にしたことがあるジフウには、よく分かるのだろう。
 ミライは父である魔王の力――<魔王の闇>まで使うことができる。
 しかもその力は、かつてジャコウが俺達に対して使ったものと比べ物にならない。
 目で見ただけで分かる。大きさも、密度も、その全てがこれまで俺が見てきたどんな魔法よりも強大だ。

「やめろ! ミライ! まずは俺の話を――」
「黙レぇえ!! ワタシは全テの人間を許さナイ! コノ世の全テを許しはシナイ! コンナ世界ナンテ……滅んでシマエバいいんダァアア!!」

 なおも訴えかける俺の声も、ミライには届かない――

「ゼ、ゼロラさん……あの子を止めたいみたいですけど、私達の声なんて、とても届きませんよ……。あんなに小さい子に、家族を失って孤独となった現実は、受け止められなかったんです……!」
「【正義が生んだ怪物】……。【伝説の魔王】を父に持ち、【慈愛の勇者】を母に持つ……。そんな二人の才能を受け継いだ子供……。そして、勇者という"人間の正義"によってここまで変わり果てた……。本当に……【正義が生んだ怪物】だよ……!」

 マカロンとリョウも完全に意気消沈してしまっている。
 ミライが放とうとしている<魔王の闇>を、食い止める術はない。
 このままではミライの圧倒的な力の前に、俺達五人は全滅するだけだろう。





「どうやら……やるしかないみたいだな」

 俺は一人でミライの前へ躍り出る。

「ゼ、ゼロラさん!? 何を考えてるんですか!? 早く自分達の方に戻ってきてください!!」

 ラルフルの制止も聞かず、俺は頭上に浮かんでいるミライへ顔を向ける。

「ナンだ? ワタシに殺されタイノカ?」
「いいや……。俺はお前を止めたいんだ」

 そもそも俺は、そのために今日この日まで生きてきたんだ――

「フザケタことをヌカすなァアア!! マズは貴様カラ、消し飛べェエエエ!!!」

 ミライは頭上に作り出した<魔王の闇>を、俺目がけて投げつけてきた。

「ゼロラさぁぁああん!!」

 ラルフル達の悲鳴が聞こえる。
 このまま行けば、俺は<魔王の闇>に飲み込まれて終わりだろう。





 だが――





「フゥウウン!!」

 バシュン!!

 ――俺はミライが放った、<魔王の闇>を拳で弾き飛ばした。





「……え? え? ゼロラさんが……あの闇の塊を……素手で弾いた……?」
「<魔王の闇>は全てを飲み込むはず……。ゼロラの技量なんて関係ない。"当たっただけで終わり"の技のはずなのに……?」
「こんな芸当ができるのは……まさか、ゼロラ殿は……?」

 俺が<魔王の闇>を素手で弾いたのを見て、後ろにいる全員が驚いている。
 それは驚くだろう。本来ならば、有り得ない光景だ





 さらに、俺の目の前で浮かんでいるもう一人――

「な……なな……ナゼだ!? ナゼ、<魔王の闇>が通用シナイ!? ヤハリ、貴様が勇者ナノカ!?」

 ――<魔王の闇>を放った、ミライ本人も驚いている。
 そして、俺のことを勇者ではないかと勘違いしている。

「俺は勇者じゃない。お前を倒しに来たわけでもない。俺は、お前を止めに来たんだ」
「ワタシを止めル……ダト? キャハハハ! 戯言ヲ――ヌカすなナァアア!!」

 俺の言葉にミライは嘲笑いながらも、さらに敵意をむき出しにしてくる。

「皆、すまない。この子の相手は、俺一人にさせてくれ。それが……俺に与えられた宿命なんだ!!」

 俺は後ろにいる四人に願い出た。
 この子の相手は、俺にしかできない。

 この子を止めることは――俺がやらなければいけない!

「……分かりました、ゼロラさん。自分達は信じています。どうかご自身の手で満足いくよう……この戦いに、終止符を打ってください!」

 ラルフルを始めとする仲間達は、俺の意志を汲んでくれた。
 俺とミライから距離を置き、この戦いを見守ってくれるようだ。



 そして、俺は再びミライを見る。
 この悲しき、【正義が生んだ怪物】となった少女を、俺の手で食い止めるために――

「始めるぞ、ミライ。力づくでも、俺がお前を止めてやる!!」
「ホザケ! 人間風情ガ! ならばマズ、貴様カラ葬ってクレルわ! コノ……【伝説の魔王】の遺志ヲ継ぎし、ワタシの力でナァアア!!」
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