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第24章 常なる陰が夢見た未来

第357話 勇者と魔王

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「この扉の先が玉座の間だな……」

 俺達五人はようやくたどり着いた。
 かつて【伝説の魔王】が鎮座し、今は<ナイトメアハザード>の発生源となっている、魔王城玉座の間――
 大きな両開きの扉の向こうからは、大量の<ナイトメアハザード>が溢れ出している。



 ガキンッ―― ガキンッ――

 部屋の中から何かを弾くような音が聞こえる。
 おそらくは先にここへと辿り着いた、勇者レイキース達だ。

 中で戦っているのか? いや、違う。
 この音はレイキースが振るう剣の衝突音だろうが、その音しか聞こえない。



 <ナイトメアハザード>の元凶となっているあの子には、レイキースの<勇者の光>を纏った剣も通らないだろう。



「皆、準備をしてくれ」
「ああ、俺とマカロンでこの扉を一斉に開けるぞ」
「分かりました。ジフウさん、一緒にお願いします」

 俺の要望を聞き、ジフウとマカロンがそれぞれ扉の取っ手に手をかける――

「ゼロラ殿、合図は任せるよ。相手は勇者パーティーだ。ボクも速攻で魔法封じと拘束魔法を仕掛ける……!」
「自分も準備できました。リョウ大神官が動いた後、<転移魔法陣>のお札を地面に貼り付けます……!」

 リョウとラルフルもそれぞれの準備を整える――

 全員が俺の合図を待つ。
 この先に、俺の存在理由がある。
 そう思うと、胸に妙な高鳴りを感じる。



 俺は一呼吸ついて、気持ちを落ち着かせる――





「今だぁあ!!」

 俺の号令と共に、全員が動いた。

「ダラァア!」
「うううぅうん!」

 ジフウとマカロンが両開きの扉を開け、玉座の間の中が見える。



「な、何よ!? 新手!?」
「ラルフル!? それにジフウ隊長に――」

 一気に扉が開かれたことに気付き、中にいたリフィーとバルカウスがこちらを振り向く。

「悪いけど、こっちの都合に従ってもらうよ!」

 そんな二人が反応する間もなく、リョウが魔法を放つ。

「何事だ!? 僕達以外に誰か―― うぐぅ!? こ、これは!?」

 玉座にある闇の球体へ攻撃していたレイキースも反応するが、もう遅い。
 リョウが素早く放った魔封じにより、レイキース達三人の魔法は封じられた。

「ラルフル君! 今だよ! <転移魔法陣>の札を!」
「はい!」

 リョウは続けざまに拘束魔法を放ちにかかる。
 それと同時に、ラルフルも素早くレイキース達の元へと駆け寄る――

「ま、魔封じだと!? 何を考えて――」
「レイキース様! まだ何か来ますわ!」
「ラ、ラルフル……!?」

 レイキースもリフィーもバルカウスも、突然の出来事に反応できていない。

「えい! お札の貼り付け、できました!」

 その隙をついて、ラルフルが<転移魔法陣>の札を地面にセットする。

「でかしたよ! ラルフル君! ボクの準備も万端さ!」

 さらにリョウは拘束魔法を勇者パーティー三人にかける。
 それと同時にラルフルがセットした札によって描かれる、<転移魔法陣>――



 レイキース達三人の動きを、完全に封じることができた。



「お、お前ら! これはどういうつもりだ!? これは勇者である僕と、"新たなる魔王"との戦いなんだぞ!? こんな邪魔が許されるとでも――」
「お前に許される筋合いはない。大人しく、この場から退場してもらうぞ」

 レイキースは割り込んできた俺達五人を睨むが、もはや抵抗さえできない。
 もうじきレイキース達は<転移魔法陣>により、魔王城の前にいるガルペラ達の元に送られる。

「な、なんで勇者でも何でもないあなた達がここに!? わたくし達を誰だと思って――」
「無駄話している時間はないんだよ、賢者リフィー。とりあえず外にいる、とんでもなくこわ~い鬼と虎に大人しく従っててよ」

 リフィーも激しい剣幕で訴えてくるが、リョウは外で待っているシシバとサイバラの存在をチラつかせて脅す。

「……拙者にも分からぬが、何か大きな考えがあるのだろう。拙者は大人しく従う」
「ほーう。やけに殊勝になったじゃねえか。バルカウス」

 バルカウスは二人とは違い、抵抗の意志を見せない。
 ジフウもそんなバルカウスの姿を、どこか評価しているようだ。

「あ、後で覚えていろよ! お前達は、後でレーコ公爵に頼んで――」


 シュゥウウン――


 レイキースが恨みがましく何か言おうとしていたが、その言葉を言い終える前に、<転移魔法陣>によって三人とも消えていった。

「あの人達……改革が成立したことも知らないのでしょうね」
「レーコ公爵にはもう何の力もないのに……」

 マカロンとラルフルはそんなレイキースの最後の姿を、どこか憐れんでいた。










 だが、俺の本当の目的はここからだ。
 今はレイキース達、当代勇者パーティーという邪魔者がいなくなっただけ――

 俺は玉座の方に目を向ける。

「やっと会えたな……本当に……やっと……」

 玉座を覆い隠すように存在する、闇の球体――
 俺がずっと会うべきだった相手。会いたかった相手――

「あ、あの闇の球体は何ですか……? なんだか、とんでもないもののような気がします……」
「わ、私も……。あれが、<ナイトメアハザード>の発生源……」

 ラルフルとマカロンは怯えている。
 俺以外から見れば、あの<ナイトメアハザード>の根源は恐怖でしかないだろう。

 それでも、俺にとっては大事な存在だ。
 この闇の球体の中に、誰がいるのかも分かっている。

 俺は少しずつ、その闇の球体へと近づく――





 ビキ―― ビキキッ――



「や、闇の球体が割れようとしてるよ!? な、中から何か出てくるのかい!?」
「ゼ、ゼロラ! 気を付けろ! これは本当に――とんでもなくヤバいぞ!?」

 リョウとジフウも直感的に恐怖している。
 俺に注意を促すが、そんなことは関係なしに、俺は闇の球体へとどんどん近づく――










「ワたしガ知ってル気配……? ココまでやッテ来た……? ソウか……ならバ――」

 どんどんと割れていく闇の球体の中から、少女の声がする――

 やはりそうだ。この中にいて、ずっと一人で今日この日まで、悪夢の中で生き続けた少女――
 おそらく中の当人は俺ではなく、レイキースを待っていたのだろう。
 レイキースへの復讐のため、ずっとここで力を蓄えてきた――

 この子の望みとは違うが、俺も会わなければいけなかった――



 ビキキッ―― バキィイン!



 そして闇の球体が完全に壊れ、中からその少女がついに現れた――





「貴様ガ……勇者かァア!? わタしカラ全てヲ――家族を奪ッタ、勇者なノカぁああ!!??」
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