舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
165 / 255
第17章

第164話 彼女は花子であり花子でない

しおりを挟む
 世の中には、成立している物語と、成立していない物語があるらしい。しかし、それが物語である以上、両者ともすでに成立していると思われる。ここでいう成立しているか否かというのは、ストーリーに矛盾が認められるか否か、ということを言っているのだろう。

 成立していない物語、つまり矛盾が認められる物語は、一般的、大衆的には良い評価を受けないようだ。矛盾が認められる点がクローズアップされ、悪い印象が強く残るからだろう。基本的に矛盾という言葉は良い印象を与えない。

 しかし、現実世界では矛盾が一切許容されないのに対し、虚構世界ではそれが許容されることを考慮すると、矛盾が認められない物語は現実の側に寄っているということになり、現実との差が小さいことになる。そして、一般的、大衆的には、物語には非現実性が求められることを踏まえれば、むしろ矛盾が認められる物語の方が存在価値が高いということにならないだろうか。

 単に矛盾が認められるか否かではなく、如何に矛盾するかという問題もある。あまりに大きな矛盾は人間の理解に支障を来すが、物語は理解しなくてはならないものかという問題は別にある。それはそうとしても、矛盾には綺麗な矛盾とそうでない矛盾がある。大きな矛盾であっても、小さな矛盾であっても、それが綺麗な矛盾であれば矛盾を矛盾として受け入れることができる。

 綺麗な矛盾の場合、それが矛盾だと分かっていても、少なくともその物語に浸っている間は、その矛盾には意識が向かない。もっとほかのことに興味があるからだ。そして、そのもっとほかのことというのは、人間的というより、むしろ動物的な事柄であることが多い。たとえば、恋愛模様などがそれに当たる。恋愛は人間に特徴的なものではない。人間に特徴的な恋愛もあるが、階層構造を考えると「動物>人間」となる。

 矛盾しているか否かという判断は、人間的な観点から行われるが、物語が興味深いか否かという判断は、動物的な観点から行われる。そして、物語の最終的な評価には、後者の方がより深く絡んでくるようだ。それは、矛盾なく構成された物語が必ずしも面白いわけではないということから明らかである。

 最後に本稿の内容を一言で表すと、矛盾、となる。

 以上。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...