舞台装置は闇の中

彼方灯火

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第17章

第165話 遭遇

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 というようなことを考えていると、前方でルゥラがしゃがみ込む姿が見えた。月夜の意識は再び現実に向き直る。

「どうかした?」

 月夜の問いを受けて、ルゥラは地面を見つめたまま答えた。

「フンコロガシが歩いている」

 ルゥラの傍に近寄って、月夜も地面を見てみた。たしかにそんなような虫が歩いている。月夜は虫に詳しくないので、それがフンコロガシだと断定することはできなかった。

「フンコロガシって、どうしてフンを転がすのかな」ルゥラが呟く。

「フンコロガシだから」月夜は答える。

「当たり前じゃん」ルゥラは顔を上げ、不満そうな目で月夜を見つめた。「わざと言ってる?」

「わざとではある」

「これで家を作ったりするのかな」ルゥラはフンコロガシが転がすフンを指さす。「うーん、そんなことしないか。自分の身体から出てきたものなんだし」

「第一、それは本当にフンなの?」

「そうじゃないの? だからフンコロガシって名前なんじゃないの?」

「だから、の用法が想定されているものと違っている」

「どこまで転がすのか追いかけてみようよ」立ち上がってルゥラは月夜の手を握る。

「どうして?」月夜は首を傾げた。

「なんとなく、気になるから」

「そうすると、この道の先まで向かうのは、時間的に困難になるけど、それでもいいの?」

「いいよ」ルゥラは簡単に頷いた。「興味の向かう先が変わってしまいました」

「なるほど」

 フンコロガシのあとを追うことにする。正確には、フンコロガシが転がすフンのあとを追う。

 フィルは大層退屈そうだった。なぜそうまでして二人についてくるのかと尋ねたところ、ルゥラのことが心配だからとの答えが返ってきた。以前は心配ではないと言っていたのに、いつの間にか変わっている。彼は気紛れだから仕方がない。何がどう仕方がないのか分からないが。

 途中で道を逸れることになった。草に覆われた斜面を進むことになる。傾斜がある道でも、フンコロガシは賢明にフンを転がし続けた。脚で小突いて斜面を転がせば効率が良いが、効率の概念は人間にしかない。ただ、生き物は皆効率的に生きている。それぞれにとっての効率の意味が異なるため、人間にとっての効率がほかの生き物にとっての効率と同じとは限らない。

 目的を持つのも人間だけだ。

 フンコロガシがフンを転がす目的を考えるのも。
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