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「ふふ。お馬さんが好きなんだろ?」、社長に『SMホテル』に連れ込まれて困っています
(8)-(7)
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「アリス姉さん、ストッキングが濡れているよ。僕の舌が触れ、濡れてしまったものではないんだろ?」
振動に責められていた場所に、社長の手が触れていた。
「あはぁああ……ストッキング……ストッキングを下から押さないで……ス、ストッキングの向こうから……ショーツを、押さないで……あは……社長……あはぁあ……ゆ、指で、押さないで……ストッキング……いやぁあああ!」
「ストッキングがない方がいいのか? 分かったよ」
スカートをあげられ、ストッキングに手をかけられ、私が唯一できたのは、「ああっ」という声を漏らす事だけ。めくるように、ストッキングを少しだけおろされてすぐ、社長の舌が、腰の皮膚を這う。ショーツの端に触れられたと思ったら、刺激が終わる。
ショーツの中に社長の舌が入らなかった事で、苛立ちのようなものが生まれてしまう。
悔しいというより、惨め。自由になれる未来なんてなくて、やっぱり生け簀で飼育されていた獲物。
ヒロインは、足を縛る鎖を揺らしながら、そんな事を考えていた……この牢獄に連れてこられた時点で、私も、ご馳走として悪魔の卓に並べられているも同然だったんだ。悪こそ、歩みを向けるべき唯一の正道であると言うヒーローに、残らずすべてを喰われてしまう……
私の反応を眺め、社長は、味わい満足したかのような笑みを浮かべた。冷笑を浮かべたの方が正しい。本当は、優しい気持ちが隠れているのかもしれないけど、今は、見つけられない。
足首を拘束していた枷が外され、ストッキングを脱がされてしまう。
少し屈んだ格好で、社長は、私を抱きしめてきた。
おなかのあたりに、脈打つものがあたる感覚。それは、社長の欲望に応じるように強さを増し、丈夫で、揺るぎない力を秘めている。衣服を隔てた向こうのそれが、かたくて温かくて大きくて、と考えたら――唾を落として喉を鳴らしてしまった。
「僕が、ほしくなってしまったの? ふふ。強く願ってくれないか。アリストメモリーに僕と二人でいる事を。そうすれば、今度は、僕と離れる事なくファウンテに行けるはず。僕が不在の間に、何か問題が発生する可能性がある。早く戻りたい。前回は、薄汚い連中に入り込まれて、クラティアとアリストの管理ポッドを盗まれて大変だったからね……しかも、転移直後の君を奴らに奪われて……戦闘を目の当たりにした君が、アリストと融合してクラティアを動かしてしまった。近くにはいたのだが、僕も転移直後で動きがとれなかった。君を、薄汚い連中の手から助け出す事ができなかった……僕に落ち度があったと認めるよ……口づけを交わしながらなら、僕と離れたくないと強く願ってくれると思っていたのだが」
「しゃ、社長……い、いやぁあ……足を持ちあげないでください……だ、だって、モブ属性のリストラ候補の事務用品棚係の冴えないOLが、社長みたいなイケメンセレブと結婚できるなんて、夢を見ているようで……急に目がさめて、やっぱり独りだったって思うんだって……社長は、同じ空の下にいるんだけど、手が触れる事も許されない存在だったって思う結末が待っている……そう考えてしまったから……社長との初めてのキスは幸せいっぱいで、逆に不安になってしまって、そう考えてしまったから……あ……んんっ!」
「……可愛らしいお口だ。意地悪に聞こえてしまうような言い方をして、すまなかった。初めてのあの時は、今みたいに、舌と舌が絡む深い口づけではなかったが、幸せに温められた君の心が唇からも伝わってきて、僕も大いに幸せを感じたよ。だから、今度こそ、君を手に入れるつもりだ。アリス姉さんを触れられない存在にしない。必ず護る。僕と離れてしまう不安を抱かなくなるほど、これより愛でてあげるね。初めての君に、痛い思いをさせてしまうのはいけないと考えている。まずは、たっぷりと濡れてくれ」
X字拘束の手枷になっていたバンドを外され、身体を持ちあげられた。
「え……あ……しゃ、社長……私を、どこへ……きゃ……あ……私を、どこへ!」
行く先だと思われる場所に気づき、血の気が引くのを感じた。
「いゃあああっ! お、お馬さんは、いゃああ……それに跨がったら、本当に、おかしく……ああっ!」
オフィスにいる時と同じく、ダークスーツ姿とはいえ、ジェネの総帥である正体を隠そうとしない社長相手に、冴えないOLの小さな抵抗はもちろん無意味だった。馬の首を抱えさせられ、床から伸びる鎖に手足を繋がれ、鞍に跨がる格好にされてしまいそのまま動けない。
めくれたタイトスカートが、変な形を見せている。
社長の表情は、悪である事を誇るよう……
「ふふ。拘束されているだけの状況だけど、どうかな? 僕は、どこも触っていないよ」
呻きが、口から漏れている……鞍の中央の尖った部分がショーツに食い込んでいく刺激にたえている。時間が経って慣れてくるのを期待して堪えていたけど、そんな事はなく、腰を揺らしたい衝動だけが強まっていく。
ここは、『ご宿泊一室四千円から』だから、本当にケガをするものは置いていないと思っていたけど、本能を刺激する快感を与える事に容赦がないよう作られていたらしい。
ショーツがあるせいで焦れったいのか、それとも、ほどよい心地になっているのか――いずれにしても、性にのめり込む事に向かう感覚を与えられてしまう。
理性がなくなり、社長に触れてほしいと思った時、絶妙のタイミングでベストのボタンに手がかかる。そのまま、ブラウスのボタンも外される。馬の首と私の胸の間に入り込む形で、社長の腕が動く。
「おやおや。静かになってしまったね。アリス姉さん、自分でも気づかないうちに、一度達してしまったのではないか? 大きな声をあげながら、身体を震わせていたようだけど、おぼえていないんだね。いいお馬さんがいたからかな? ふふ。ほらっ!」
「あ……きゃ……あは……ショ、ショーツの隙間から……手を入れないで……」
それ以上は、何も言えなかった。ショーツから抜かれた社長の指に、糸を引く何かが絡んでいた。指を口に運んだ後、社長は、「アリス姉さん、おいしい」と言った。
悪を貫くと決意したヒーローの青い瞳が、ヒロインを見つめている。社長が、私を見つめている――
「ポケットに、現代日本の婚姻届が入っている。サインしないか? こちらで、夫婦の誓いを立ててからファウンテに戻ろう」
「は……あは、あは……ま、また、ショーツの隙間に、指が……しゃちょうのゆびが……やめて……わたし、おかしくなってしま……う……あは」
この部屋に閉じ込められてすぐ座らされたベッドが、鏡に映っている。きっと、この場で一つになろうという意味だろう。
社長とベッドの上で過ごしたいと思った事は、異世界が実在するなんて知らなかった頃から何度もあった。
ファウンテで捕まって、ベッドに縛られた後、現代日本に帰ってベッドの上で過ごしたいとより強く考えるようになった。元の優しい人に戻って、二人で現代日本に帰って……社長が、悪役を辞任すれば、ファウンテのみんなだって救えるから、それを目標に頑張ろうと思った。
現代日本で、のほほん気分でデートをしていた時、社長は、お年寄りが困っていれば自分から手を貸していたし、子供たちの投げたボールがぶつかっても怒らずに笑いながら手渡していた。
悪を貫くという考えになってしまったのは、戦う運命に生まれてしまったからなのだろうか。
私が、クラティアで戦ってしまったから?
私が、社長に勝とうと考えてしまったから?
私が、英雄気取りになっていたから?
社長のジャケットの胸ポケットから、高級ボールペンの端が出ている。
世間に認められる能力のないモブOLが、悪い男相手でもいいから婚姻届にサインできるなんて、それだけでも過分だけど……
「……あは……しゃちょうのこと、だいすき……わたし、どうしたら、いいの……あは……」
ブラジャーの隙間から胸を触られたり、ショーツの隙間から大切な部分を触られたりしている。逃げられないと悟っているからこそ、最後の抵抗みたいに考えがグルグルする。
「婚姻届にサインしてくれるね? 僕との永遠の愛を、この場で誓ってほしい」
「はあ、はあ……これからも、スーツの社長に抱きしめられたいよ……それにはどうしたら……いいの……あは、あは、あは」
「では、ファウンテの仕立屋にスーツを作らせよう。プライベートで過ごす際は、アリス姉さんの着てほしい衣裳をリクエストしてもらって構わないよ。ああ。そうだ。戻ったら、君の身の護りを強化する為にも新しいパイロットスーツを早めに用意しなくてはならないな」
自分の呼吸の荒い音を耳に受けながら、ダークスーツ姿の社長を目に入れた。
社長である社長と、現代日本で過ごしたいんです……どうして、分かってくれないんですか……
ダークスーツ姿の社長と私が抱き合う図。
ハッピーエンドの図。愛を誓い、社長の腕の中に飛び込む私――それが、頭の中に浮かんでは消え浮かんでは消え、繰り返し、最後は、思いの牢獄が激しい音を立てて壊れるような衝撃が襲ってきた。それぐらいの激しさで、考えが砕けて、何もかもが崩壊した。
「……私が、クラティアで戦ってしまったから? 私が、社長に勝とうと考えてしまったから? 私が、英雄気取りになっていたから?」
気づけば、何度も声にしていた。
「アリス姉さん?」
私が、何度も、何度も、同じ事を口にするので、愛撫の手を止めるぐらい社長は驚いたらしい。
「――社長、私、幸せになる事を誓うので人柱にしてください」
思った事を、そのまま口にした。
ショーツに、お馬さんの鞍が食い込む感覚は消えていない。自分ではとても冷静な声で発言して、それが耳に入っているつもりだけど、本当はどうなのか分からない。
変を思って、変を口にしてる、変な私。
考えが砕け散り、何もかもが崩壊していく。
到達する末を想像できない。すべき事を考えられない。ただ、高揚感が心を支配してきていて軽く怖い。悪い薬を使うと、きっとこんな気分になるんだろう。何でもできる気がしてくるし、すべてが成功しそうな気がする。冴えない私でも、我が身を捧げると意を決し、愛に溺れるとこうなるんだ――
「……たしかに、ジェネの総帥の妻になるというのは、人柱になるようなものなのかもしれない。だが、心配しないでくれ。母のように、儚い事にはさせないよ。夫の僕と共に戦おう。さあ、おいで」
社長の手が伸びてくる。足枷を外そうと手をかけたみたいだけど、私の顔を見上げてから、優しい手つきで髪を撫でてくれる。
社長、真剣に私を愛し過ぎなあなたがいてくれる職場が好きです。
これからも社長のもとで働かせてください。社員Aの私は、社長が仰った事すべてが真実であると信じ、ただ行動しますからね。
ファウンテの絶対悪であるあなたに言いますね。
「ええ……私、クラティアで戦います。社長に勝って、ファウンテの英雄になるつもりなので覚悟してください!」
「え……な……何を言って……ア、アリス姉さん?」
社長の腰のあたりから青い光が放たれる。
昇華制御装置、お願い。私と社長を引き離さずにアリストメモリーに運んで。
あのゲームにも、『愛に溺れる』っていう選択だけが並んでいて、それしか選べない画面があったら面白かったのに。
そんなおバカな事を考えている間に、枷に触れられていたはずの手足が自由になった。ショーツに食い込むものがある感覚も消えた。代わりに、社長に抱かれる感覚に包まれる。
前の開いたブラウスの隙間に、社長のジャケットが入り込んでくる。ストッキングのない素足にも生地が触れている。
決して離さないと言わんばかりに、社長が抱きしめてくれる力が強くなっていく。私も、社長の背中に回した腕の力を強める。
どちらが先に行動したのか……気づくと私と社長は、唇を重ねていた。触れ合うだけの軽いキス。
社長、ファウンテに戻ったら、こうやって抱き合ったまま、二人で、深い愛の果てに向かって堕ちましょうね。
で、あのゲームみたいなエンディングを――
振動に責められていた場所に、社長の手が触れていた。
「あはぁああ……ストッキング……ストッキングを下から押さないで……ス、ストッキングの向こうから……ショーツを、押さないで……あは……社長……あはぁあ……ゆ、指で、押さないで……ストッキング……いやぁあああ!」
「ストッキングがない方がいいのか? 分かったよ」
スカートをあげられ、ストッキングに手をかけられ、私が唯一できたのは、「ああっ」という声を漏らす事だけ。めくるように、ストッキングを少しだけおろされてすぐ、社長の舌が、腰の皮膚を這う。ショーツの端に触れられたと思ったら、刺激が終わる。
ショーツの中に社長の舌が入らなかった事で、苛立ちのようなものが生まれてしまう。
悔しいというより、惨め。自由になれる未来なんてなくて、やっぱり生け簀で飼育されていた獲物。
ヒロインは、足を縛る鎖を揺らしながら、そんな事を考えていた……この牢獄に連れてこられた時点で、私も、ご馳走として悪魔の卓に並べられているも同然だったんだ。悪こそ、歩みを向けるべき唯一の正道であると言うヒーローに、残らずすべてを喰われてしまう……
私の反応を眺め、社長は、味わい満足したかのような笑みを浮かべた。冷笑を浮かべたの方が正しい。本当は、優しい気持ちが隠れているのかもしれないけど、今は、見つけられない。
足首を拘束していた枷が外され、ストッキングを脱がされてしまう。
少し屈んだ格好で、社長は、私を抱きしめてきた。
おなかのあたりに、脈打つものがあたる感覚。それは、社長の欲望に応じるように強さを増し、丈夫で、揺るぎない力を秘めている。衣服を隔てた向こうのそれが、かたくて温かくて大きくて、と考えたら――唾を落として喉を鳴らしてしまった。
「僕が、ほしくなってしまったの? ふふ。強く願ってくれないか。アリストメモリーに僕と二人でいる事を。そうすれば、今度は、僕と離れる事なくファウンテに行けるはず。僕が不在の間に、何か問題が発生する可能性がある。早く戻りたい。前回は、薄汚い連中に入り込まれて、クラティアとアリストの管理ポッドを盗まれて大変だったからね……しかも、転移直後の君を奴らに奪われて……戦闘を目の当たりにした君が、アリストと融合してクラティアを動かしてしまった。近くにはいたのだが、僕も転移直後で動きがとれなかった。君を、薄汚い連中の手から助け出す事ができなかった……僕に落ち度があったと認めるよ……口づけを交わしながらなら、僕と離れたくないと強く願ってくれると思っていたのだが」
「しゃ、社長……い、いやぁあ……足を持ちあげないでください……だ、だって、モブ属性のリストラ候補の事務用品棚係の冴えないOLが、社長みたいなイケメンセレブと結婚できるなんて、夢を見ているようで……急に目がさめて、やっぱり独りだったって思うんだって……社長は、同じ空の下にいるんだけど、手が触れる事も許されない存在だったって思う結末が待っている……そう考えてしまったから……社長との初めてのキスは幸せいっぱいで、逆に不安になってしまって、そう考えてしまったから……あ……んんっ!」
「……可愛らしいお口だ。意地悪に聞こえてしまうような言い方をして、すまなかった。初めてのあの時は、今みたいに、舌と舌が絡む深い口づけではなかったが、幸せに温められた君の心が唇からも伝わってきて、僕も大いに幸せを感じたよ。だから、今度こそ、君を手に入れるつもりだ。アリス姉さんを触れられない存在にしない。必ず護る。僕と離れてしまう不安を抱かなくなるほど、これより愛でてあげるね。初めての君に、痛い思いをさせてしまうのはいけないと考えている。まずは、たっぷりと濡れてくれ」
X字拘束の手枷になっていたバンドを外され、身体を持ちあげられた。
「え……あ……しゃ、社長……私を、どこへ……きゃ……あ……私を、どこへ!」
行く先だと思われる場所に気づき、血の気が引くのを感じた。
「いゃあああっ! お、お馬さんは、いゃああ……それに跨がったら、本当に、おかしく……ああっ!」
オフィスにいる時と同じく、ダークスーツ姿とはいえ、ジェネの総帥である正体を隠そうとしない社長相手に、冴えないOLの小さな抵抗はもちろん無意味だった。馬の首を抱えさせられ、床から伸びる鎖に手足を繋がれ、鞍に跨がる格好にされてしまいそのまま動けない。
めくれたタイトスカートが、変な形を見せている。
社長の表情は、悪である事を誇るよう……
「ふふ。拘束されているだけの状況だけど、どうかな? 僕は、どこも触っていないよ」
呻きが、口から漏れている……鞍の中央の尖った部分がショーツに食い込んでいく刺激にたえている。時間が経って慣れてくるのを期待して堪えていたけど、そんな事はなく、腰を揺らしたい衝動だけが強まっていく。
ここは、『ご宿泊一室四千円から』だから、本当にケガをするものは置いていないと思っていたけど、本能を刺激する快感を与える事に容赦がないよう作られていたらしい。
ショーツがあるせいで焦れったいのか、それとも、ほどよい心地になっているのか――いずれにしても、性にのめり込む事に向かう感覚を与えられてしまう。
理性がなくなり、社長に触れてほしいと思った時、絶妙のタイミングでベストのボタンに手がかかる。そのまま、ブラウスのボタンも外される。馬の首と私の胸の間に入り込む形で、社長の腕が動く。
「おやおや。静かになってしまったね。アリス姉さん、自分でも気づかないうちに、一度達してしまったのではないか? 大きな声をあげながら、身体を震わせていたようだけど、おぼえていないんだね。いいお馬さんがいたからかな? ふふ。ほらっ!」
「あ……きゃ……あは……ショ、ショーツの隙間から……手を入れないで……」
それ以上は、何も言えなかった。ショーツから抜かれた社長の指に、糸を引く何かが絡んでいた。指を口に運んだ後、社長は、「アリス姉さん、おいしい」と言った。
悪を貫くと決意したヒーローの青い瞳が、ヒロインを見つめている。社長が、私を見つめている――
「ポケットに、現代日本の婚姻届が入っている。サインしないか? こちらで、夫婦の誓いを立ててからファウンテに戻ろう」
「は……あは、あは……ま、また、ショーツの隙間に、指が……しゃちょうのゆびが……やめて……わたし、おかしくなってしま……う……あは」
この部屋に閉じ込められてすぐ座らされたベッドが、鏡に映っている。きっと、この場で一つになろうという意味だろう。
社長とベッドの上で過ごしたいと思った事は、異世界が実在するなんて知らなかった頃から何度もあった。
ファウンテで捕まって、ベッドに縛られた後、現代日本に帰ってベッドの上で過ごしたいとより強く考えるようになった。元の優しい人に戻って、二人で現代日本に帰って……社長が、悪役を辞任すれば、ファウンテのみんなだって救えるから、それを目標に頑張ろうと思った。
現代日本で、のほほん気分でデートをしていた時、社長は、お年寄りが困っていれば自分から手を貸していたし、子供たちの投げたボールがぶつかっても怒らずに笑いながら手渡していた。
悪を貫くという考えになってしまったのは、戦う運命に生まれてしまったからなのだろうか。
私が、クラティアで戦ってしまったから?
私が、社長に勝とうと考えてしまったから?
私が、英雄気取りになっていたから?
社長のジャケットの胸ポケットから、高級ボールペンの端が出ている。
世間に認められる能力のないモブOLが、悪い男相手でもいいから婚姻届にサインできるなんて、それだけでも過分だけど……
「……あは……しゃちょうのこと、だいすき……わたし、どうしたら、いいの……あは……」
ブラジャーの隙間から胸を触られたり、ショーツの隙間から大切な部分を触られたりしている。逃げられないと悟っているからこそ、最後の抵抗みたいに考えがグルグルする。
「婚姻届にサインしてくれるね? 僕との永遠の愛を、この場で誓ってほしい」
「はあ、はあ……これからも、スーツの社長に抱きしめられたいよ……それにはどうしたら……いいの……あは、あは、あは」
「では、ファウンテの仕立屋にスーツを作らせよう。プライベートで過ごす際は、アリス姉さんの着てほしい衣裳をリクエストしてもらって構わないよ。ああ。そうだ。戻ったら、君の身の護りを強化する為にも新しいパイロットスーツを早めに用意しなくてはならないな」
自分の呼吸の荒い音を耳に受けながら、ダークスーツ姿の社長を目に入れた。
社長である社長と、現代日本で過ごしたいんです……どうして、分かってくれないんですか……
ダークスーツ姿の社長と私が抱き合う図。
ハッピーエンドの図。愛を誓い、社長の腕の中に飛び込む私――それが、頭の中に浮かんでは消え浮かんでは消え、繰り返し、最後は、思いの牢獄が激しい音を立てて壊れるような衝撃が襲ってきた。それぐらいの激しさで、考えが砕けて、何もかもが崩壊した。
「……私が、クラティアで戦ってしまったから? 私が、社長に勝とうと考えてしまったから? 私が、英雄気取りになっていたから?」
気づけば、何度も声にしていた。
「アリス姉さん?」
私が、何度も、何度も、同じ事を口にするので、愛撫の手を止めるぐらい社長は驚いたらしい。
「――社長、私、幸せになる事を誓うので人柱にしてください」
思った事を、そのまま口にした。
ショーツに、お馬さんの鞍が食い込む感覚は消えていない。自分ではとても冷静な声で発言して、それが耳に入っているつもりだけど、本当はどうなのか分からない。
変を思って、変を口にしてる、変な私。
考えが砕け散り、何もかもが崩壊していく。
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「……たしかに、ジェネの総帥の妻になるというのは、人柱になるようなものなのかもしれない。だが、心配しないでくれ。母のように、儚い事にはさせないよ。夫の僕と共に戦おう。さあ、おいで」
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これからも社長のもとで働かせてください。社員Aの私は、社長が仰った事すべてが真実であると信じ、ただ行動しますからね。
ファウンテの絶対悪であるあなたに言いますね。
「ええ……私、クラティアで戦います。社長に勝って、ファウンテの英雄になるつもりなので覚悟してください!」
「え……な……何を言って……ア、アリス姉さん?」
社長の腰のあたりから青い光が放たれる。
昇華制御装置、お願い。私と社長を引き離さずにアリストメモリーに運んで。
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そんなおバカな事を考えている間に、枷に触れられていたはずの手足が自由になった。ショーツに食い込むものがある感覚も消えた。代わりに、社長に抱かれる感覚に包まれる。
前の開いたブラウスの隙間に、社長のジャケットが入り込んでくる。ストッキングのない素足にも生地が触れている。
決して離さないと言わんばかりに、社長が抱きしめてくれる力が強くなっていく。私も、社長の背中に回した腕の力を強める。
どちらが先に行動したのか……気づくと私と社長は、唇を重ねていた。触れ合うだけの軽いキス。
社長、ファウンテに戻ったら、こうやって抱き合ったまま、二人で、深い愛の果てに向かって堕ちましょうね。
で、あのゲームみたいなエンディングを――
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