R18)社長室のキスで異世界転移パイロットになった私は、敵方・イケメン僕キャラ総帥に狂愛されて困っています【連載版】

K.A.

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「ふふ。お馬さんが好きなんだろ?」、社長に『SMホテル』に連れ込まれて困っています

(8)-(6)

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「僕が、この現代日本に初めてやってきた時、お姉ちゃんは、キッズスペースのすみで、お馬さんのぬいぐるみをかかえて座っていたね。あたりに流れる人の声、内容がまったく理解できず、焦る気持ちから涙の量が増えてしまった僕の方に近づいてきて手を握ってくれた。言葉でのコミュニケーションができないのに、ひとしきり二人で楽しい時間を過ごした。それなのに、急に君が泣き出してしまって……慰めの言葉をかけたいと必死になっていたら、お姉ちゃんが心を開いてくれた。君の方から、心の声を届けてくれたじゃないか。なぜ、突然、君と僕の前から言葉の壁が消えたのか――それが、曾祖父が作った昇華制御装置とアリストの魂の作用だったと気づいたのはファウンテに戻ってしばらくのちだったが」

「……社長、私がその時に言った事、ずっとおぼえていたんですか?」

 印象には残っていたけど、出来事として中途半端になってしまったので、なかば忘れようとしていた幼い日の記憶が強く浮かびあがっていた。アリストのものではなく、彼女の魂を引き継いだ、天王寺有栖の心と身体だけが体験し得た記憶。
 行動したすべてが、私のもの。
 近くにいた大人の耳に入っていたら、若気わかげの至りというか、幼い子供のごとにしか聞こえないそれを、私はおぼえていた。大人になってしまった今では、自身も、幼い子供のごとだと思い込んでしまっていただけ。

「僕の生きる目標になったんだ。子供同士で、あんなに楽しく遊んだのは一度だけだよ。言ってもらった事、もちろんおぼえている――私を、あなたの国に連れて行ってほしい、と泣きながら言っていたね。隣の家に住んでいた、仲のよかった女性が、外人さんの国にお嫁に行ってしまったから、自分も外人さんと一緒に行けば再会できると考えたと、少し冷静になってから教えてくれた」

 今考えると、子供心に下心を加えたのち、足して割って足して割ってを繰り返してしまい、答えどころか、問題文すらよく分からなくなったすえにミニな社長にお願いしたのだろう。

「言葉が通じないのに遊んでいた時から、これからもそばにいてほしいと考えていたよ。誤解しないように聞いてほしいが、最初は、侍女の一人として迎えるつもりだった。しかし、次第に思いが変化していった。いずれ家を継ぐのだと教えられるだけで、の安全をつねに優先され、打ちける友を与えてもらえなかった。だが、今、このお姉ちゃんに感じているのが、そういった情なのだと気づいたから。相手が女性なら、その情はいったい何なのか――書物の知識、そして父と母の事を考えに入れると、僕が、君に恋をしたのは出逢った日なんだ」

 インパクトが強くて、ミニな社長と遊んだ出来事はおぼえている。
 僕は、結婚を申し込みたいと考えている。すぐに父に紹介したい……などと、貴族のような格好の外人さんからプロポーズされたのだから記憶に残っていて当然。

 年下なのは明らかだったけど、クラスの男子などでは足もとにもおよばないぐらい顔の整った、青い瞳のイケメン外人さんに、婚儀の品を贈りたいだの、二人の為のやかたを新築するつもりだのと言われた。プリンセスへの階段を一気に駆けあがるような待遇を次から次へと並べられて、子供の私はすっかりその気になってしまった。
 長いまつ毛を添えた瞳が美しいだけでなく、きりっと整っている眉毛も素敵なのだ。男性にしておくにはもったいないぐらいに肌も整っている。目、鼻、口、耳――顔のパーツのバランスは完璧。間違いなくイケメンだ。今現在の社長を、改めて見つめてみて、私よりも背の低い頃とはいえ、端整たんせいな目鼻立ちのミニな社長に魅せられなかったとは思えない。
 言動だって、幼さを感じさせない堂々たる様子で、精悍せいかんな感じが漂う、いわゆる『王子さまに告白された』の状況だったのではないか。

 このお姫さま気分の一時ひとときのせいで、グイグイ来るイケメン僕キャラにヒロインがでられる物語が超ストライクゾーンになり、貴族衣裳のセレブっぽい人物が多く登場する漫画やアニメやライトノベルが好きになった。それは、自覚していた。
 青い瞳のイケメンだったという事は、しっかり心に刻まれたけど、さすがに時が経ち過ぎていて、私の方は、社長の顔を忘れてしまっていた。だって、ミニな私に結婚を決意させたその男の子は、突然消えてしまったのだから。

「過去なので憶測にすぎないが、アリス姉さんが、違う国に行きたいと願っていた気持ちが弱まってしまい、僕は、ファウンテに戻されてしまったのだと思う。結婚式場はどこにしたいかと聞いたら、現代日本だと思われる地名をいくつも教えてくれたんだ」

「いきなりミニな社長がいなくなってしまって……しばらく待っていましたよ。でも、戻ってこなかったから……生まれて初めてのドキドキをくれたのは、間違いなくミニな社長です。中途半端になってしまって、想いが育たずに終わってしまった幼い日の思い出だけど、私も、きっと社長に恋をしていたと思います」

「それを君の口から聞けたのは嬉しいな。ふふ。君とは離れてしまったが、僕の方は、中途半端にならなかったんだ。ファウンテに戻った僕は、父に連れられ、初めてアリストの姿を見たから……すぐに気がついた。先ほど、僕の前にいたお姉ちゃんが、アリストの魂を持つ人だとね。最初に声をかけてくれたのは、僕が外人さんだと思ったからかもしれないが、遊んでいる最中さいちゅう、アリス姉さんは楽しそうな顔をいっぱい見せてくれた。だから、初恋に想いがれたよ。狂おしいぐらいに好きになった。だが、心配事があって、その気持ちを抑えようと必死にもなっていた」

「心配事? ……私も、大人になった社長と出逢うまでは、ミニな社長が唯一のドキドキ相手でしたよ。親の買い物について行って、あのキッズスペースにはそれからも何度も通いましたから……ミニな社長をさがして……突然いなくなってしまったのは、お手洗いに行って出てきたら、お買い物が終わったお母さんが迎えにきて帰ってしまったのだと思いました。それで、諦めてしまっただけで……その、あの」

「――アリス姉さんは、お母さんが迎えにきてくれたの?」

「え? あの日ですか? はい。買い物が終わった母が迎えにきて――」

「アリス姉さん」

 聞かれたので過去の状況を話そうとしていただけで、私が続けるつもりだった言葉はたいした事なかった。急に、社長に言葉を止められ少し驚いた。単に名前を呼ばれただけなのに、発言を遮るような強い感じだったからだ。

「アリス姉さん、君と出逢った時、僕は落ち込んでいたんだ。父から正式にジェネを継ぐ者になれと言われ、昇華制御装置を渡された。眠るアリストのところへ行く直前、部屋で独り待っていた時に、現代日本に送られた……失ってしまった母の温もりを思い出しながら、独りだった時に……」

「……え? 社長?」

 まだ最悪の事柄を聞いた訳ではなかったのに、嫌な予感というやつがした。的中しないでほしいという思いが強くて、しっかりとした言葉を口から出したくなかったのだけど……

「犯人は、その場でみずからをほふったが……起こってしまった事実として、僕は、母を奪われた」

 次の言葉を繋げられず、静かにしているしかなかった。

「幼い僕は、独り考えていたんだ。誰もが従うような完璧な力があれば、悲劇は起こらなかったのではないかとね。母を弔う意味でも、僕は、悪を貫く事を決意した。ファウンテの誰よりも凶悪になる事で、母を失った悲しみを消す事にしたんだ」

 社長の瞳は青色のままだったけど、狂気に染まっていくとでも表現すればよいのだろうか……澄んだ印象を、どんどん失っていくようだった。

「勘違いしないでくれ。母の代わりと思ってアリス姉さんの事を好きになった訳ではない。心の底から君を手に入れたくなったという話だ。だからこそ、迷いが生じた。母のように、誰かに奪われてしまったらどうしようかと。父以上の力を得たとしても、本当に君を護り切れるか不安だったんだ」

「……私、社長のお母さまの事を知らなくて……でも……あの、その……今、アリストの意識がない私が、現代日本の冴えないOLが上手に表現できるか分かりませんが、戦いを避ける事で、護れるものもあるんじゃないですか……あの、その……分かったような口をきいて申し訳ないですが……」

 社長のお母さまの悲劇を聞いた直後で、混乱していた。考えが、どうにもまとまらない。だけど、社長に訴えたくて、必死に口を動かしてしまった。

「アリス姉さんに今もらった意見を軽視したい訳ではないが、ファウンテの地で、それは詭弁きべんろうするに等しい。駆逐したアリストを再び英雄視……いや、都合よく神格化する為に、僕の一族を世界の敵にしてしまう必要があるんだ。薄汚い考えにあらがうには、戦う以外にすべがないんだよ。僕らがなぜ世界の敵なのか、時勢流れ、それのしんを知る者がいなくなり、ジェネが悪であるというまぎれもない事実だけが残った」

 だめだ。現代日本に生まれ育った考えしかない事務用品棚係には、言い返す言葉が思いつかない。
 愛する人と共に非業の最期を遂げる結果になったアリストの無念は、私でも理解できる……社長に、『世間の常識』みたいな考えを押しつけてよいとは、今は思えない。

「アリス姉さんが、いつかまた、僕を召喚してくれるような気がしていた。その日に向けて、僕は、クラティアに手を加え、アリストと君を融合させる技術を編み出したんだ。曾祖父が開発した昇華制御装置の解析を進め、そうに転移する現象をコントロールできる方法を確立した。マグネの研究所は、開発当初以上の物理現象を操る事に多く成功している。今やそう制御装置と呼ぶ方がしっくりくる。一時的に、そうが変化する融合の特性を活かして、新生しんせいした君が、クラティアのコックピット内で目ざめるように設定する事もしておいた。ファウンテでは、どのような危険が潜んでいるか分からない。覚醒直後に万一のトラブルがあっても、クラティアの機体が護ってくれると考えたからだ。異世界から花嫁を迎える準備は、万端に整えておきたかった。アリス姉さんを、妻に迎える日が楽しみだったんだ。そして運命が動き、僕は、再び現代日本の地に足をおろす事ができた……ふ。駅のホームで、大人になった君を見つけて嬉しかったが、再会とは呼べない出来事になり寂しかったけどね」

「えっと……いつですか? 私、会社でお会いする前に、社長と再会していたという事?」

「リクルートスーツ姿で、やつれた様子だった。ファウンテに連れ帰ろうと思って話しかけたら、僕の顔も見ずに、面接に遅れそうだからと口にされた。取りつく島もなかったよ。昇華制御装置に残っていたデータのおかげで、あらかじめ現代日本の言葉は分かっていたので調べてみたら就職活動中だった。その頃、昇華制御装置を使えば、自由にファウンテと現代日本を行き来できる状態だったので、君の心が相当揺れていたのだろう。すでに五十社以上落ちていたようだったから」

 あわわ……栄養ドリンクをかなりの回数購入したはずの売店の人の顔もおぼえていなかったとあとで思ったほど、駅のホームでフラフラになっていたから、社長と会った事などまったく記憶にない。
 たしかにあの頃は、異世界には幸せな人生が待っているようなライトノベルばかりに熱中していた気がする。

「現代日本の地に興味を持ったのもあり、ファウンテの技術を使い、この世界を裏から支配する形で地位を得ていった。軍事力をおおやけにするのは禁忌きんきのようで、君を護り切れるか、大いに不安を感じたが……頭脳ゲームだけでよかったので、権力を握るのは簡単だった。短期間で、あっさりこちらの世界でも影響力ある人間になれた。僕がにつけているものは、そのままこちらに持ち込めたからね」

 最初にファウンテに行った時、私が事務服姿だったのはそういう事なのか。逆にこちらに戻ってきた時、私は裸で、社長はパイロットスーツを着ていたのも納得……って、科学的に何とかというところは、事務用品棚係じゃよく分からない事が多過ぎる。さっきもいろいろ難しい科学の話をされたけど……しばらく前にハマっていたロボットアニメの設定みたいだなって思いながら、ちゃんと聞いていましたけど……って、口にすべきはそれじゃない。

「それで、ご自分の息がかかった会社で、私を採用したんですか?」

「そうだ。運命的な再会の代わりに、大人同士の恋愛にじっくり時間を使いたくなったからね。交際が始まってからも、二人の気持ちが繋がり合っていく実感が強くて、事の進みがとてもゆっくりなのに、満ち足りた日々だったよ。こちらでは、幼い頃同様、穏やかさにつつまれ癒やされていた。現代日本のデートスポットは興味を引くところばかりで、僕も、心の底から楽しませてもらっていたんだ。ファウンテに君を連れ帰ったのちは、ジェネの総帥夫妻として過ごす事になるから、愛をはぐくむ意味でもよいと考えた――父と母も、そんな風に若き日を過ごしたと聞いたから」

「社長のお父さまとお母さまが?」

「母は、地位などない家の出身なんだ。だが、誰よりも父を愛していたし、素敵な女性だったよ。大人になったアリス姉さんも、とても素敵な女性で、もっと恋をしてしまった。純粋で、やはり妻にするならこの人しかいないと思った。生まれも、地位や立場も違うと分かっていても、僕に向けてくれる優しさがいつも本物で嬉しかった。結婚に対しては緊張していたようだが、それは女性として当たり前で、はにかむ仕草しぐさで意地悪を言う、愛らしいイタズラだと感じていた。そんな君と二人、コンビニで、ペットボトルの飲み物を選ぶような小さな出来事すら、僕にとっては大切な思い出さ。深く愛してしまった人を失いたくないと考えて当然だろ? だから、アリストと君の融合を確実に行う必要がある。クラティアのパイロットになり、僕と共に世界を制せるほどの力を手に入れてもらう事が必須だと考えたんだ」

「社長、先ほどから気になっていましたが……私を護る為に、アリストが必要だと考えたんですか……?」

「そうだよ。僕は、君さえ護れれば、世界のすべてを敵に回しても問題ないと考えている。ふふふ。地位ある家の生まれだという令嬢どもが、言い寄ってくる事はあったが、アリス姉さんへの愛が揺らいだ事はない。それほどまでに深く、君だけを愛している。さあ、アリス姉さん、僕と共にファウンテに戻りたいと願ってくれ。必ず、君を幸せにする」

 社長の手の上には、昇華制御装置。青い宝石のようにしか見えないそれは、真っ赤な部屋の暗さの影響を受け、あやしいきらめきを放っている。

「現代日本にいては、自分の生まれた国を捨てたいと考えてしまうほどつらい目にあってしまう。だから、共に、ファウンテに行こう。君が、あちらに戻りたいと願ってくれれば、アリストの魂に共鳴した昇華制御装置がそれを実現してくれる。ファウンテに辿たどり着いたら、アリストメモリーを利用して、世界の覇権を握ろう。すべては、君を護る為。僕らが永遠とわに愛し合う為――」

 私の心の底には、アリストに嫉妬している場所があった。でも、彼女は、私の前世のようなもので、私自身なのだと言い聞かせるように感情が表に出てくるのを抑えていた。

「アリストの憎しみの心を増幅させ、そのパワーで世界を制そう。アリストメモリーと昇華制御装置、そして、アリストと融合した君が乗るクラティアがあれば実現可能だろう」

 社長が本気で恋をした相手は私、天王寺有栖。本当に、私だけを愛してくれていた。それは、何よりも得たいものだったはずなのに……社長が、アリストを道具のように見ていた事にいきどおりを感じてしまっている。
 はっきりと自分の心が見えてくる。
 アリストは、私自身ではないけど、私自身でもある。社長は、そんな女性を、私を護る目的をかかげながら兵器の一つだと言ったのだ。
 いや……考え過ぎだ。
 ジェネにとってのアリストは、『肌身離さず持ち歩くありがたいお守り』。社長は、悲劇が繰り返されるのを恐れ、アリストという超貴重なお守りと私を融合させようと必死になっているだけ。幼い頃から、アリストの存在は神に等しいと教え込まれ、それを強く信じ過ぎているんだ。

 ほんの少しだけでも嫉妬していた事を、アリストに謝りたい。今は、融合していないから彼女の意識は浮かんでこない。だけど、彼女が手放すしかなかった魂は私の中にあるし、彼女が恋人と楽しく過ごしていた記憶は、アリストメモリーで垣間見た事で、天王寺有栖の記憶の一部になっている。
 アリスト、ごめんね。
 あなたとあなたの愛する人も、幸せになってほしいよ。今は、心の底からそう思っているよ。

「僕は、世界の敵になるしかない運命のもとに生まれたんだ。そんな台詞が、三百八ページ、四行目にあったな。君の事を知る目的で手に入れた本だったが、この画悧音エリオットというキャラクターの設定を考えれば、理解できるところがあるよ。彼が、異世界にいた頃の扱いは、むごいという言葉だけでは表現できないものだ……僕から母を奪った者は、薄汚い考えだけが世界のことわりだと信じ凶行におよんだらしい。挙げ句、考えを押しつけた連中を護るつもりだと口にしながらみずからをほふった。世界のことわりなんて、ありもしないのに……ふ。僕の一族は、悪を貫くしかないんだ。悪を貫く事で、大切なものを護るしかないんだ……悲劇が繰り返されないようにするには、薄汚い考えを消すしかないんだ……」

 寂し気な印象漂う表情を浮かべ、社長は、ジャケットのポケットに昇華制御装置を入れながらそう言った。

 画悧音エリオットの前世は、臣下やたみに慕われる、心優しき文武両道の指導者。賢王とまで呼ばれた。その存在をうとましく思った大国の皇帝の陰謀により、彼は、世界の敵にされてしまう。国民を護る為、みずからのすべてを捨てる覚悟で戦った彼は敗北し、非業の最期を遂げる。駆逐されたあと、護るべき国は滅ぼされ、愚と悪の象徴として、彼の名は歴史に刻まれた。何もかもを失った彼は、生まれ変わり、現代日本でヒロインのよき理解者になる。

 社長の生まれや境遇を考えれば、悪に走るのをやめろと言うのは無責任なんだと思う。

 アリストは、恋人の家族である社長の一族が悪者扱いされないように犠牲になったのかもしれない。だけど、結局、社長の一族は悪者にされて……本物の悪者になってしまった。
 記憶だけになってしまった恋人たちは、不本意な事などなかったように、アリストメモリーで幸せに過ごしていたのだろう。しかし、私が現代日本に生まれ、アリストの身体だけが連れ出されてしまった。
 このまま私が社長の手に堕ち連れ戻されたら、アリストも本物の悪者にされてしまう。愛する人の身体が眠るアリストメモリーに、彼女の身体は戻れない。
 私は、どうしたらいい――

「ん……ん……んんんっ!」

 社長の顔が近づいてきたという思いを処理した時、すでに唇を奪われていた。私の舌と絡み合うというより、一方的に犯す目的で入り込んできた感じ。
 歯の裏をくまなくめられ、いきなり舌が出て行ったかと思ったら下唇を噛まれ、注ぎ込まれたよだれを、喉の奥に落とすよう仕向けてきて……口の中を蹂躙じゅうりんされたという文章を使って表現したい状態。それぐらいに苦しい……
 私の鼻を一舐ひとなめしたあと、顔を離した社長は、素早い動きで床に転がる魔法の杖のおもちゃを手にした。

「……ん……は……はあ、はあ……や、ぁああ……し、振動……ス、ストッキング……ストッキングの上から振動……はぁああ!」

 おもちゃは、今、私の大切な部分にあてがわれている。ストッキングを隔てた向こうからの刺激なのに、生々しい感覚に身体のすべてが揺らされ、思わずよだれが垂れてしまった。
 社長の思うがままにされている様子は、下の鏡にはっきりと映っている。
 視線をそらしても、姿見が、至るところで私たちを見つめている。
 ショーツの中が、濡れていく。
 錯覚かもしれないけど、どばっと何かがあふれた気がする。
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