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『生贄』同然? 異世界で総帥の妻にされて困っています?!?
(6)-(1)
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セレブ。それが、自身に与えられた称号なら、ほとんどの人が喜ぶと思う。
テレビとかネット記事とかで見る、セレブな人々の華やかな生活にはもちろん憧れるし、漫画やアニメに描かれた素敵過ぎる高貴なお方が、自身だったらよいと妄想した事は何度もある。
ゲームのステータス画面が現実で表示できるとして、目の前に『セレブ』という文字があったら、すっごく偉い人の印籠を見せられた時みたいに、頭を垂れて、平身低頭して許しをこうぐらいになってしまう展開だってあり得る。
リストラ候補の事務用品棚係、天王寺有栖は、自分のハンカチを取り出して、お靴をいきなり磨かせていただくような露骨な行動はした事がないが、セレブな称号らしき人に会うと、いつも緊張していた。
そんな私が、セレブに――
お金持ちな上に、社会的地位もあって、さらに熱い熱い熱い愛をくれる男性とのラブストーリー。現代日本で好んで読んでいた、恋愛小説の様々な文章が、頭の中に浮かんでは消え、また浮かんでくる。
「ふう……社長、先にソファに座ってもいいですか? 旦那さまである社長に、お茶の支度をしていただいているのに、妻の私が先に休ませてもらうのは、申し訳ないと思うのですが……このままでは、物語の中の貴族さまの女性のようにフラフラとして、アレ~と叫びながら倒れてしまいそうです」
「構わないよ。天王寺先輩を休ませる為に、仕事を切りあげて帰宅したんだ。薬湯茶の用意ができるまで、ソファで休んでいて。お茶菓子の選択は、夫である僕に任せてもらってよいかな?」
旦那さまの許しを得られたので、ソファへと足を向けた。
腰をおろして膝に手を置く。
豪奢なドレスを身につけている事が不相応と思われないよう、上流階級の淑な様を見せる。
青色が美しい、今日のドレスに似合うと言われながら、装いの一つのように加えられた香水の匂いが、まだ仄かに漂っている。
本当は今頃、晩餐会に出席予定だったので、社長も正装のまま。着替える僅かな時間よりも、私の身体の事を大切にしてくれている。とても愛されているという実感は、もちろんあるのだけど――
「お願いします。社長がいいなと思うお菓子、楽しみにしています。だって、私の愛しの旦那さまが選んでくれたお菓子ですから。ふう……今日は、朝から忙しかったです。次から次へと主要都市の市長がやって来るんですから。早めのランチ、普通の時間のランチ、遅めのランチ、それぞれ軽くずつしか食べられないなんて。お茶の時間も、今後の公務のお話ばかり。リストラ候補の事務用品棚係だった頃は、職場で干されていたぐらいだったのに、ジェネの総帥の妻となると、毎日がお仕事でいっぱいです」
ソファ前の白いテーブルに、薬湯茶の入ったポットと受け皿の上で裏返されたカップが置かれる。旦那さまである社長が一つ一つ丁寧に並べてくれた。ティースプーンを扱う時まで優しい手つきなので、思わずその手に私自身が触れてほしくなったけど我慢した。
私は、この世界ファウンテで、ジェネの総帥エリオット・ジールゲンの妻になったのだから、トップなセレブと名乗っても問題ない。もう、事務用品棚係の気分ではいられない。控え目な女性の態度を貫く。
「疲労回復にとても効果がある薬湯茶を選んでみた。僕の仕事に付き合わせてばかりですまない。しかし、天王寺先輩と一時でも離れると考えるだけで苦しいと感じてしまって……そして、僕の支配するこのファウンテのすべての人間に、美しい妻の姿を見せつけたくて、君を連れ回している事を許してほしい」
私、天王寺有栖の婚姻劇は、世界を恐怖に陥れる大魔王さまの生贄になるようなものだった。
現代日本から、このファウンテの地に召喚されたところから物語は始まる。
アリストと融合できる存在であった私は、彼女の肉体と一つになった。髪の色が赤い事を除けば、私そっくりの女性であるアリストは女英雄。聖戦後、生体休眠の刑に処されてしまったアリストの肉体を、社長の一族が代々管理してきた。
「そういえば、天王寺先輩をさらい、クラティアのパイロットとして酷使していた薄汚い連中は、辺境で元気にやっているそうだ。僕の妻に近づかないよう、今後も管理を徹底させるつもりだが、君のたってのお願いを無下にはしないさ。ふふふ」
そう言いながら、社長は私の横に腰をおろした。そして、肩にゆっくりと手を回してきた。半ば強引に抱き寄せられ、気づけば唇を奪われていた。
罪の意識を感じながら、口の中に入ってきた社長の舌に自分の舌を絡めた。
互いに、厚さと熱さを感じ合うように愛撫する。
涎がはねる、ぺちゃぺちゃという音が響き、私を抱く社長の腕にさらに力が入る。
社長は、ムキになっているのだと思う。妻のお願い事だったので、ジェネに敵意を見せていた人たちに恩赦を与えてくれたけど、面白くないのだろう。
胸の上に社長の手が置かれ、そのまま揉まれる。
「ん……んん……んんんっ!」
このファウンテの地で、大魔王さまも同然のジェネの総帥である社長と二人きりなのだ。どれほど惨い目にあわされたとしても、当然というもの。
肩に回されていた手が、頭の方に移動し、押さえつけられる。さらに体重をかけられ、ソファの背もたれとクッションの間に挟まれ拘束された。
まったく抵抗できないほど、社長の舌が、口の奥深くまで入り込んでいる。呼吸をするのに本気で困っている素振りを見せて、やっと、その激しい口づけの時間が終わりを告げた。
「……強引過ぎて、すまなかった。君は、涎の一滴まで僕のものになったのだと、身体の方に分からせてやろうと思ってね。ふふ。あの時、天王寺先輩が自ら身を差し出してくれて嬉しかった。おぼえているよ。薄汚い連中の方を振り返らず、僕の腕の中に飛び込んできてくれた時の事」
「……はい。空中戦艦イレイサを出撃させるようなお手間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。残りの人生は、社長とジェネの為にすべてを捧げますので……あの、その……薄汚い……連中を、辺境開拓の労働員として手厚い条件で雇用し続けてください。リストラは、だめです……あ……あ……社長、ドレスの上からでも、胸の先を触られると、少し、感じてしまうので……その、あの……ああっ!」
「おや。ドレスの上からでは嫌だったのかと思い、中に手を入れさせてもらったが、どうかな? 君の胸の先が、今感じている心地を素直に伝えてほしい。僕は、薄汚い連中に苛まれていた事を、すべて忘れさせてやりたいと考えている。そう、すべて――」
「あ……社長……胸を揉まれると……あは……はあ、はあ……い、いえ……わ、私は……薄汚い……連中の事は、ずっと忘れていました……あはっ! そ、そんなに激しく……胸を揉まないで……はあ、はあ……こんな時に、首を触られると、おかしな気分になってしまいます……はあ、はあ……社長のお話にお答えしただけで、私は、ジェネの総帥の妻として、いつも……あっ! あ、あ……ド、ドレスを急にめくらないでください! 社長っ! ブラジャーをめくらないで……む、胸が出てしまっています! ああっ! 胸の先を、舐めないで……あはんっ!」
みんなは、どうしているのか。ナンナンは、元気なのだろうか。本当に無事なのだろうか。そんな想いを胸の内に抱えていたのが、見透かされたのかもしれない。社長の執拗な胸への攻撃はやまず、そのまま快楽の海へと沈められてしまいそうだった。深い底に達し、光も音もなく、入ってくる情報もない。及ぼす力が、身体だけでなく、心の方も潰そうと圧をかけてくる。
「あは、あは……え……あ……社長、やめて……それ以上、手を、下の方に動かすと……あの……スカートに……あああ……おなかの上で、手を回さないでください……はあ、はあ……」
私は、この海に身を沈めるしかない。生贄になったのだから、浮かんできてはいけない。ソファの上に押し倒されても、抵抗する事は許されていない。
社長は、床に膝をつく格好になっている。
ソファの上の私は、祭壇の上の捧げもの同然。ドレスのスカートの中に社長の手が入ってきても、逃げる事は許されていない。ただ、仕留められる側として、この遊猟の興をより華やかにする為の叫びをあげる事が求められている。
ファウンテの大魔王さまに捧げられる生贄は、そういう役を演じるしかないという事。
「あ……あ……社長……ブラジャーの上で、指を動かさないでください……あの……そんなに何度も、指を動かされると、変な気持ちに……あっ! あ、あ、あ、あ……ゆ、ゆび……指、ブラジャーの中に入っています……社長……あの……あっ! あ、あ、あ、あっ!」
頬に触れた指が、静かに移動して、首を這ってから胸を護る下着のところにやってきたのだ。胸の下側まで覆う、ミドリフ丈のブラジャーなので、荒い動きを与えられても簡単には外れない。それが、いかにも弄ばれているという感じで、捧げものとして扱われていると思わされる。
胸の膨らみを撫でられただけで、自分が女なのだと実感させられる声を、何度も何度もあげてしまう。敏感な部分を弄られているのだから、何の反応もしない方がどうかしている……そう思いたい。
「用意した薬湯茶は、少し冷ました方が効果があがるものだ。適温になるまで待っている間、愛する妻である天王寺先輩が暇を持て余すといけないと思ってね。おやおや。下着が濡れてしまったようだ。風邪を引くといけないので脱いでしまった方がいい」
「え……あ……下着……ショーツを脱いでしまうと、寒くて風邪を引いてしまうかもしれないので……ああ……ショーツを外さないで……つ、妻からのお願いです……温かくしていないと、風邪を引い……て……ひぃ……あ、あ……く……くんっ! あ、あ、社長……な、舐めないでください……はあ、はあ……ショーツがないのに、舐めないでください……く、くんっ!」
社長の舌が帯びている熱が、私の大切な部分に伝わってくる。湯がたぎるように、心の温度がどんどんあがっていく。
無理な格好をさせて、私がソファから落ちないように、腕を押しあて護りながら責めてくる社長の優しさと激しさに、冷めるという言葉を忘れてしまいたくなる。
顔を僅かに動かすと、テーブルの上のティーセットが目に入った。
さっき、社長と何を話していたか思い出せない。適当な心の温度を保つ事がどうにもできない。
「あは……あは……社長……そこ、くりとりすです……はあ、はあ……そこ、やめて……おかしな気持ちになってしま……う……あ、あ、あ、あ、あ! し、舌で……舌で、突かないでください……あは……あ……ああっ! また、そこ、つ……つ、潰すみたいに、舐め……なめ……そこ、くりとりすです……あ、あはは……ひっ! え……あ……な、何を……あぁああっ! ま、まさか、吸って……そこ、吸っ……て……あは、あは……あはっ!」
「……ふ。我が妻は、そこを吸ってやると、本当に愛らしい様を見せてくれる。足を揺らす事で、心地よさを表現してくれているようだったが、僕に吸われた時にどのような表情をしていたか見えなくて残念だよ。仕方がない。天王寺先輩の大切な部分を愛でてやってすぐのこの口、君の顔に近づけさせてもらうか。先ほど甘い声を発していた時の面持ちを教えて……」
「ふぁああああ……社長、頬を何度もぺろぺろしないでください……私、下を愛でていただいてすぐで、変な気持ちになりやすいんです……ふぁああ……おでこまでぺろぺろしないでください……み、耳のあたりまでぺろぺろって……あふ……」
社長の顔が離れ、舌での愛撫が終わる。
それを残念に思う自分がいる。
人質を取られ、その命の保証を条件として妻にされたとはいえ、ファウンテの人々を苦しめるジェネの総帥エリオット・ジールゲンの愛に溺れようとしている事に対して、罪悪感をおぼえてしまう。
よき奥方さまの姿を見せ続けなければ人質がどうなるか分からないという大義名分があるけど、快楽に絡め取られ、敵に弄ばれ、欲望をさらけ出している私を見たら、みんなはどう思うのだろう。
「薄汚い連中の事、僕の許可なく思い出すなんてしないでほしい。君が、本当に、奴らの事を忘れられるように仕向けなければいけなくなってしまうから――ね?」
耳もとに悪魔の吐き出した息がかかる。
甘酸っぱい香りを纏う妖気が、あたりに漂う。
みんなの為に生贄になった私は、この悪魔に喰われて自身は消えてしまう事が望まれている。そうだ。そうしなくては……それが正しいんだ。
この物語のヒロインを演じるなら、それが定め。向かうべき唯一の結末。
テレビとかネット記事とかで見る、セレブな人々の華やかな生活にはもちろん憧れるし、漫画やアニメに描かれた素敵過ぎる高貴なお方が、自身だったらよいと妄想した事は何度もある。
ゲームのステータス画面が現実で表示できるとして、目の前に『セレブ』という文字があったら、すっごく偉い人の印籠を見せられた時みたいに、頭を垂れて、平身低頭して許しをこうぐらいになってしまう展開だってあり得る。
リストラ候補の事務用品棚係、天王寺有栖は、自分のハンカチを取り出して、お靴をいきなり磨かせていただくような露骨な行動はした事がないが、セレブな称号らしき人に会うと、いつも緊張していた。
そんな私が、セレブに――
お金持ちな上に、社会的地位もあって、さらに熱い熱い熱い愛をくれる男性とのラブストーリー。現代日本で好んで読んでいた、恋愛小説の様々な文章が、頭の中に浮かんでは消え、また浮かんでくる。
「ふう……社長、先にソファに座ってもいいですか? 旦那さまである社長に、お茶の支度をしていただいているのに、妻の私が先に休ませてもらうのは、申し訳ないと思うのですが……このままでは、物語の中の貴族さまの女性のようにフラフラとして、アレ~と叫びながら倒れてしまいそうです」
「構わないよ。天王寺先輩を休ませる為に、仕事を切りあげて帰宅したんだ。薬湯茶の用意ができるまで、ソファで休んでいて。お茶菓子の選択は、夫である僕に任せてもらってよいかな?」
旦那さまの許しを得られたので、ソファへと足を向けた。
腰をおろして膝に手を置く。
豪奢なドレスを身につけている事が不相応と思われないよう、上流階級の淑な様を見せる。
青色が美しい、今日のドレスに似合うと言われながら、装いの一つのように加えられた香水の匂いが、まだ仄かに漂っている。
本当は今頃、晩餐会に出席予定だったので、社長も正装のまま。着替える僅かな時間よりも、私の身体の事を大切にしてくれている。とても愛されているという実感は、もちろんあるのだけど――
「お願いします。社長がいいなと思うお菓子、楽しみにしています。だって、私の愛しの旦那さまが選んでくれたお菓子ですから。ふう……今日は、朝から忙しかったです。次から次へと主要都市の市長がやって来るんですから。早めのランチ、普通の時間のランチ、遅めのランチ、それぞれ軽くずつしか食べられないなんて。お茶の時間も、今後の公務のお話ばかり。リストラ候補の事務用品棚係だった頃は、職場で干されていたぐらいだったのに、ジェネの総帥の妻となると、毎日がお仕事でいっぱいです」
ソファ前の白いテーブルに、薬湯茶の入ったポットと受け皿の上で裏返されたカップが置かれる。旦那さまである社長が一つ一つ丁寧に並べてくれた。ティースプーンを扱う時まで優しい手つきなので、思わずその手に私自身が触れてほしくなったけど我慢した。
私は、この世界ファウンテで、ジェネの総帥エリオット・ジールゲンの妻になったのだから、トップなセレブと名乗っても問題ない。もう、事務用品棚係の気分ではいられない。控え目な女性の態度を貫く。
「疲労回復にとても効果がある薬湯茶を選んでみた。僕の仕事に付き合わせてばかりですまない。しかし、天王寺先輩と一時でも離れると考えるだけで苦しいと感じてしまって……そして、僕の支配するこのファウンテのすべての人間に、美しい妻の姿を見せつけたくて、君を連れ回している事を許してほしい」
私、天王寺有栖の婚姻劇は、世界を恐怖に陥れる大魔王さまの生贄になるようなものだった。
現代日本から、このファウンテの地に召喚されたところから物語は始まる。
アリストと融合できる存在であった私は、彼女の肉体と一つになった。髪の色が赤い事を除けば、私そっくりの女性であるアリストは女英雄。聖戦後、生体休眠の刑に処されてしまったアリストの肉体を、社長の一族が代々管理してきた。
「そういえば、天王寺先輩をさらい、クラティアのパイロットとして酷使していた薄汚い連中は、辺境で元気にやっているそうだ。僕の妻に近づかないよう、今後も管理を徹底させるつもりだが、君のたってのお願いを無下にはしないさ。ふふふ」
そう言いながら、社長は私の横に腰をおろした。そして、肩にゆっくりと手を回してきた。半ば強引に抱き寄せられ、気づけば唇を奪われていた。
罪の意識を感じながら、口の中に入ってきた社長の舌に自分の舌を絡めた。
互いに、厚さと熱さを感じ合うように愛撫する。
涎がはねる、ぺちゃぺちゃという音が響き、私を抱く社長の腕にさらに力が入る。
社長は、ムキになっているのだと思う。妻のお願い事だったので、ジェネに敵意を見せていた人たちに恩赦を与えてくれたけど、面白くないのだろう。
胸の上に社長の手が置かれ、そのまま揉まれる。
「ん……んん……んんんっ!」
このファウンテの地で、大魔王さまも同然のジェネの総帥である社長と二人きりなのだ。どれほど惨い目にあわされたとしても、当然というもの。
肩に回されていた手が、頭の方に移動し、押さえつけられる。さらに体重をかけられ、ソファの背もたれとクッションの間に挟まれ拘束された。
まったく抵抗できないほど、社長の舌が、口の奥深くまで入り込んでいる。呼吸をするのに本気で困っている素振りを見せて、やっと、その激しい口づけの時間が終わりを告げた。
「……強引過ぎて、すまなかった。君は、涎の一滴まで僕のものになったのだと、身体の方に分からせてやろうと思ってね。ふふ。あの時、天王寺先輩が自ら身を差し出してくれて嬉しかった。おぼえているよ。薄汚い連中の方を振り返らず、僕の腕の中に飛び込んできてくれた時の事」
「……はい。空中戦艦イレイサを出撃させるようなお手間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。残りの人生は、社長とジェネの為にすべてを捧げますので……あの、その……薄汚い……連中を、辺境開拓の労働員として手厚い条件で雇用し続けてください。リストラは、だめです……あ……あ……社長、ドレスの上からでも、胸の先を触られると、少し、感じてしまうので……その、あの……ああっ!」
「おや。ドレスの上からでは嫌だったのかと思い、中に手を入れさせてもらったが、どうかな? 君の胸の先が、今感じている心地を素直に伝えてほしい。僕は、薄汚い連中に苛まれていた事を、すべて忘れさせてやりたいと考えている。そう、すべて――」
「あ……社長……胸を揉まれると……あは……はあ、はあ……い、いえ……わ、私は……薄汚い……連中の事は、ずっと忘れていました……あはっ! そ、そんなに激しく……胸を揉まないで……はあ、はあ……こんな時に、首を触られると、おかしな気分になってしまいます……はあ、はあ……社長のお話にお答えしただけで、私は、ジェネの総帥の妻として、いつも……あっ! あ、あ……ド、ドレスを急にめくらないでください! 社長っ! ブラジャーをめくらないで……む、胸が出てしまっています! ああっ! 胸の先を、舐めないで……あはんっ!」
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「あは、あは……え……あ……社長、やめて……それ以上、手を、下の方に動かすと……あの……スカートに……あああ……おなかの上で、手を回さないでください……はあ、はあ……」
私は、この海に身を沈めるしかない。生贄になったのだから、浮かんできてはいけない。ソファの上に押し倒されても、抵抗する事は許されていない。
社長は、床に膝をつく格好になっている。
ソファの上の私は、祭壇の上の捧げもの同然。ドレスのスカートの中に社長の手が入ってきても、逃げる事は許されていない。ただ、仕留められる側として、この遊猟の興をより華やかにする為の叫びをあげる事が求められている。
ファウンテの大魔王さまに捧げられる生贄は、そういう役を演じるしかないという事。
「あ……あ……社長……ブラジャーの上で、指を動かさないでください……あの……そんなに何度も、指を動かされると、変な気持ちに……あっ! あ、あ、あ、あ……ゆ、ゆび……指、ブラジャーの中に入っています……社長……あの……あっ! あ、あ、あ、あっ!」
頬に触れた指が、静かに移動して、首を這ってから胸を護る下着のところにやってきたのだ。胸の下側まで覆う、ミドリフ丈のブラジャーなので、荒い動きを与えられても簡単には外れない。それが、いかにも弄ばれているという感じで、捧げものとして扱われていると思わされる。
胸の膨らみを撫でられただけで、自分が女なのだと実感させられる声を、何度も何度もあげてしまう。敏感な部分を弄られているのだから、何の反応もしない方がどうかしている……そう思いたい。
「用意した薬湯茶は、少し冷ました方が効果があがるものだ。適温になるまで待っている間、愛する妻である天王寺先輩が暇を持て余すといけないと思ってね。おやおや。下着が濡れてしまったようだ。風邪を引くといけないので脱いでしまった方がいい」
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社長の舌が帯びている熱が、私の大切な部分に伝わってくる。湯がたぎるように、心の温度がどんどんあがっていく。
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さっき、社長と何を話していたか思い出せない。適当な心の温度を保つ事がどうにもできない。
「あは……あは……社長……そこ、くりとりすです……はあ、はあ……そこ、やめて……おかしな気持ちになってしま……う……あ、あ、あ、あ、あ! し、舌で……舌で、突かないでください……あは……あ……ああっ! また、そこ、つ……つ、潰すみたいに、舐め……なめ……そこ、くりとりすです……あ、あはは……ひっ! え……あ……な、何を……あぁああっ! ま、まさか、吸って……そこ、吸っ……て……あは、あは……あはっ!」
「……ふ。我が妻は、そこを吸ってやると、本当に愛らしい様を見せてくれる。足を揺らす事で、心地よさを表現してくれているようだったが、僕に吸われた時にどのような表情をしていたか見えなくて残念だよ。仕方がない。天王寺先輩の大切な部分を愛でてやってすぐのこの口、君の顔に近づけさせてもらうか。先ほど甘い声を発していた時の面持ちを教えて……」
「ふぁああああ……社長、頬を何度もぺろぺろしないでください……私、下を愛でていただいてすぐで、変な気持ちになりやすいんです……ふぁああ……おでこまでぺろぺろしないでください……み、耳のあたりまでぺろぺろって……あふ……」
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よき奥方さまの姿を見せ続けなければ人質がどうなるか分からないという大義名分があるけど、快楽に絡め取られ、敵に弄ばれ、欲望をさらけ出している私を見たら、みんなはどう思うのだろう。
「薄汚い連中の事、僕の許可なく思い出すなんてしないでほしい。君が、本当に、奴らの事を忘れられるように仕向けなければいけなくなってしまうから――ね?」
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甘酸っぱい香りを纏う妖気が、あたりに漂う。
みんなの為に生贄になった私は、この悪魔に喰われて自身は消えてしまう事が望まれている。そうだ。そうしなくては……それが正しいんだ。
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