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<やまねこのふえ>のお話
25 1stと2nd
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やまねこのふえと共鳴させるべく作った、
2つ目のふえを持って、
うさぎの楽器やさんは、レノさんのもとを訪れていました。
「やまねこのふえ」と言われる、ニノくんが持っているふえに比べて、
半分ほどの大きさで、
高音域を奏でるふえが、完成したのです。
ためしに、うさぎの楽器やさんが吹いてみると、
なかなか、きれいに響く、我ながらよい出来でした。
「このふえからは、何も、不安な気を感じない。」
同じ冬桜の木から、つくったものなのに、
持ち歩いている時から、何も悪い気配は感じませんでした。
とりあえず、この2つ目のふえをレノさんに見てもらって、
作戦を伝えておくつもりで、ここにきているのですが、
ついつい、おいしいアウトドア料理のご相伴になっています。
何の生地かうさぎの楽器やさんには分からなかったけれど、
レノさんが手早くこねたものを火にかけて、こんがり焼いているところなので、
いい匂いがしてきました。
パンよりすこし重い、その焼きたての生地を、
ブラウンソースのシチューにつけていただきます。
「うわ、うまい。
とうもろこしの甘みだぁ。」
うさぎの楽器やさんは、夢中になって食べました。
レノさんは、うさぎの楽器やさんを見て、
口の端だけ微笑むと、
自分も食べ始めました。
お腹いっぱいになったところで、あ、と思い出して、
うさぎの楽器やさんはレノさんに話をきりだしました。
「一度、ふえを吹いてみませんか?」
この前、話の流れの中で、楽器にはからっきし縁がなかったと聞いていましたが、
あのニノくんのお父さんなのです。
もしかしたら、隠れた才能があるかもしれません。
楽器やの血が騒ぎます。
「食べたばかりだし…今は、ちょっと。」
レノさんは、全く興味がないわけでもなさそうでしたが、
たしかに、食べたばかりに息を吹き込む楽器を吹くのは、いけませんよね!
「それじゃあ、あとで。
私が教えますから。」
そんなことを言いながらも、また、
食後のコーヒーをいただいているうさぎの楽器やさんは、
香りがたつ湯気を、目で追いながら、
この先、このふえで何をするつもりなのか、話すことにしました。
「ふえは、単旋律の楽器ですから、
同時にいくつもの音は出せません。
和音は、ひとりではつくれないのです。」
「そういえば、そうですね。」
レノさんは、コーヒーを飲みながら、
あいづちをうちます。
機嫌がいいようです。
「でも、ニノくんの音は、まるで、いくつもの和音が重なったように聴こえます。」
「なんで、また?」
「それは、音の波の幅が切れることのない、深い響きが出せる、いい楽器であることと、演奏者の腕前も関係します。」
「…」
「質の良い音が振動するとき、
音の波の上に、波自体に共鳴したもうひとつの波が現れることがあるんです。
現れた波は、新しい音となって、
一緒に響く。
クリアであれば、さらにその上にも、また、その上にも、重なって…
それはもう、天上の音楽のように、
豊かな音です。」
「…オレの息子が、そんな腕前を持っているとは、いまだに思えないんだが。」
レノさんは、首をかしげます。
「その、音の波の、
耳に聴こえない振り幅の部分で、たまに、動物の本能が反応してしまうことがあります。
おそらく、ニノくんは、その音を出してしまっているのです。」
うさぎの楽器やさんは、この古の森で、初めてやまねこのふえの音を聴いたときから、ずっと、
このことを考え続けて、答えをだしました。
それは、あのクモのマダムと同じものでした。
超音波。
動物のみならず、植物にも影響を及ぼしているのですから、
相当、その音の幅が広く、はっきりと作用しているのでしょう。
「ふえを壊してしまえばいいんじゃないのか?」
レノさんは、静かにいいました。
ああ、やっぱり、
レノさんは、まず、ふえを壊そうとしていたのだ。
そして、それがダメなら…。
でも、
もしニノくんとふえが、切り離せない何かでつながっているとしたら?
「それは最終手段として…、まずは、
この2ndのふえで、さらに、音を重ねて、
音の波に変化をおこそうというのです。
それを、やってみようと思います。」
「…そんなことで、大丈夫か?
あいつは、魔物だぞ。」
「楽器やの理論的には、
これも、十分有効な策です。」
それには、主旋律を奏でる1stのふえに合わせることのできる、2ndのふえの演奏者が必要でして…。
ここまで、話したときに、一羽のカラスが飛んできました。
青い湖のある森のカラスです。
ニノくんの爪で切れた羽の傷も、
もうすっかり治ったようです。
うさぎの楽器やさんが、「ああ、良かった!」と言うより先に、
青い湖のある森のカラスがいいました。
「やまねこが、現れた。
今度は、北の森だ。」
2つ目のふえを持って、
うさぎの楽器やさんは、レノさんのもとを訪れていました。
「やまねこのふえ」と言われる、ニノくんが持っているふえに比べて、
半分ほどの大きさで、
高音域を奏でるふえが、完成したのです。
ためしに、うさぎの楽器やさんが吹いてみると、
なかなか、きれいに響く、我ながらよい出来でした。
「このふえからは、何も、不安な気を感じない。」
同じ冬桜の木から、つくったものなのに、
持ち歩いている時から、何も悪い気配は感じませんでした。
とりあえず、この2つ目のふえをレノさんに見てもらって、
作戦を伝えておくつもりで、ここにきているのですが、
ついつい、おいしいアウトドア料理のご相伴になっています。
何の生地かうさぎの楽器やさんには分からなかったけれど、
レノさんが手早くこねたものを火にかけて、こんがり焼いているところなので、
いい匂いがしてきました。
パンよりすこし重い、その焼きたての生地を、
ブラウンソースのシチューにつけていただきます。
「うわ、うまい。
とうもろこしの甘みだぁ。」
うさぎの楽器やさんは、夢中になって食べました。
レノさんは、うさぎの楽器やさんを見て、
口の端だけ微笑むと、
自分も食べ始めました。
お腹いっぱいになったところで、あ、と思い出して、
うさぎの楽器やさんはレノさんに話をきりだしました。
「一度、ふえを吹いてみませんか?」
この前、話の流れの中で、楽器にはからっきし縁がなかったと聞いていましたが、
あのニノくんのお父さんなのです。
もしかしたら、隠れた才能があるかもしれません。
楽器やの血が騒ぎます。
「食べたばかりだし…今は、ちょっと。」
レノさんは、全く興味がないわけでもなさそうでしたが、
たしかに、食べたばかりに息を吹き込む楽器を吹くのは、いけませんよね!
「それじゃあ、あとで。
私が教えますから。」
そんなことを言いながらも、また、
食後のコーヒーをいただいているうさぎの楽器やさんは、
香りがたつ湯気を、目で追いながら、
この先、このふえで何をするつもりなのか、話すことにしました。
「ふえは、単旋律の楽器ですから、
同時にいくつもの音は出せません。
和音は、ひとりではつくれないのです。」
「そういえば、そうですね。」
レノさんは、コーヒーを飲みながら、
あいづちをうちます。
機嫌がいいようです。
「でも、ニノくんの音は、まるで、いくつもの和音が重なったように聴こえます。」
「なんで、また?」
「それは、音の波の幅が切れることのない、深い響きが出せる、いい楽器であることと、演奏者の腕前も関係します。」
「…」
「質の良い音が振動するとき、
音の波の上に、波自体に共鳴したもうひとつの波が現れることがあるんです。
現れた波は、新しい音となって、
一緒に響く。
クリアであれば、さらにその上にも、また、その上にも、重なって…
それはもう、天上の音楽のように、
豊かな音です。」
「…オレの息子が、そんな腕前を持っているとは、いまだに思えないんだが。」
レノさんは、首をかしげます。
「その、音の波の、
耳に聴こえない振り幅の部分で、たまに、動物の本能が反応してしまうことがあります。
おそらく、ニノくんは、その音を出してしまっているのです。」
うさぎの楽器やさんは、この古の森で、初めてやまねこのふえの音を聴いたときから、ずっと、
このことを考え続けて、答えをだしました。
それは、あのクモのマダムと同じものでした。
超音波。
動物のみならず、植物にも影響を及ぼしているのですから、
相当、その音の幅が広く、はっきりと作用しているのでしょう。
「ふえを壊してしまえばいいんじゃないのか?」
レノさんは、静かにいいました。
ああ、やっぱり、
レノさんは、まず、ふえを壊そうとしていたのだ。
そして、それがダメなら…。
でも、
もしニノくんとふえが、切り離せない何かでつながっているとしたら?
「それは最終手段として…、まずは、
この2ndのふえで、さらに、音を重ねて、
音の波に変化をおこそうというのです。
それを、やってみようと思います。」
「…そんなことで、大丈夫か?
あいつは、魔物だぞ。」
「楽器やの理論的には、
これも、十分有効な策です。」
それには、主旋律を奏でる1stのふえに合わせることのできる、2ndのふえの演奏者が必要でして…。
ここまで、話したときに、一羽のカラスが飛んできました。
青い湖のある森のカラスです。
ニノくんの爪で切れた羽の傷も、
もうすっかり治ったようです。
うさぎの楽器やさんが、「ああ、良かった!」と言うより先に、
青い湖のある森のカラスがいいました。
「やまねこが、現れた。
今度は、北の森だ。」
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