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<やまねこのふえ>のお話
26 魔物
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知らせをうけたカラスたちは、
いち早く北の森に向かいました。
リーダーは、北の森のカラスです。
青い湖のある森のカラスは、羽根の傷は癒えたものの、まだ本調子ではないため、
うさぎの楽器やさんに伝える役目を引き受けてやってきたのです。
レノさんは、手早くコーヒーカップを片付けて、
身の周りのものをまとめ始めました。
すぐに、北の森に向かうつもりなのでしょう。
うさぎの楽器やさんは、ふえ以外の荷物をとりに、
一度、宿に帰らなくてはなりません。
手際良く旅の荷物をつくりあげたレノさんは、リュックのベルトをしめて、
もう旅立とうとしていました。
「魔物なのはっ…、ニノくんではない。
ふえの方です!」
うさぎの楽器やさんは、レノさんの後ろ姿にさけびました。
レノさんは、振り返って、うさぎの楽器やさんを見ると、ニヤリと笑い、
「あなたが言うのだから、
そう信じるとしよう。」
と言うと、カーキ色のコートをひるがえして去っていきました。
うさぎの楽器やさんは、小さくなる後ろ姿にしばらくみとれて、
はぁ~、とため息をついてから、顔を上げると、
青い湖のある森のカラスと目が合いました。
うさぎの楽器やさんは、
なぜか照れて頭をかきました。
「あのかたは、ふえ吹きのやまねこと同種のようだが?」
青い湖のある森のカラスは、うさぎの楽器やさんに問いかけました。
ニノくんと同じ種類のやまねこは、数多くはありませんが、
希少というわけでもありません。
「はい。彼は、ふえ吹きのやまねこを追ってきた、父親なのです。」
隠すことでもないので、
うさぎの楽器やさんは正直にいいました。
それに、青い湖のある森のカラスには、
言っておいた方がいいとも思うのです。
すると、青い湖のある森のカラスは、うさぎの楽器やさんもレノさんのことも、
別にとがめることなく、
他に気にかかることを、ほかならぬうさぎの楽器やさんに話したい様子でした。
「…忘れられた森のことなんだが。」
古の森の北西の崖下にあった、忘れられた森は、
たった1日、やまねこのふえの音を浴びただけで、微妙にとれていたバランスをくずし、
じわじわと崩壊していったのですが、
その分、進行の状況を把握しやすいといえます。
青い湖のある森のカラスは、そうなのではないかという仮説を確かめようと、
注意深く見ていました。
そして、確たる証拠をつかんだのです。
「再生し始めているんだ。」
もちろん、そこにまた"忘れられた森"ができあがることはありません。
でも、いったん枯れ果てた森から、
新たな植物が芽生え始めているのです。
「これは、飛ぶことのできなかった私が、
ずっとあそこにはりついていて、分かったことだ。
まだ、だれも気がついてはいない。」
うさぎの楽器やさんは、意外にも前途洋洋とした展開に、
足元をすくわれたような気さえしました。
おそらく、これまでやまねこにつぶされた森のゆくすえは、同じだろうと考えられます。
「きっと、青い湖のある森も、再生する。
長い時間がかかるだろうが、
また、あの森に住むことが、できる。」
我が森に、
いつかまた住むことができるという希望は、
一度失った経験をしたことのある者にとって心にぽつりと宿る灯火となったのです。
「再生…。そうか、
そうか!」
うさぎの楽器やさんは、植物の生命力に
おそれいった思いで胸がいっぱいになりました。
「そうすると、…やまねこのふえは、
はたして魔物のふえなのか、
わからなくなるんだ。」
青い湖のある森のカラスは、一番話したかったことを、
うさぎの楽器やさんにぶつけました。
いち早く北の森に向かいました。
リーダーは、北の森のカラスです。
青い湖のある森のカラスは、羽根の傷は癒えたものの、まだ本調子ではないため、
うさぎの楽器やさんに伝える役目を引き受けてやってきたのです。
レノさんは、手早くコーヒーカップを片付けて、
身の周りのものをまとめ始めました。
すぐに、北の森に向かうつもりなのでしょう。
うさぎの楽器やさんは、ふえ以外の荷物をとりに、
一度、宿に帰らなくてはなりません。
手際良く旅の荷物をつくりあげたレノさんは、リュックのベルトをしめて、
もう旅立とうとしていました。
「魔物なのはっ…、ニノくんではない。
ふえの方です!」
うさぎの楽器やさんは、レノさんの後ろ姿にさけびました。
レノさんは、振り返って、うさぎの楽器やさんを見ると、ニヤリと笑い、
「あなたが言うのだから、
そう信じるとしよう。」
と言うと、カーキ色のコートをひるがえして去っていきました。
うさぎの楽器やさんは、小さくなる後ろ姿にしばらくみとれて、
はぁ~、とため息をついてから、顔を上げると、
青い湖のある森のカラスと目が合いました。
うさぎの楽器やさんは、
なぜか照れて頭をかきました。
「あのかたは、ふえ吹きのやまねこと同種のようだが?」
青い湖のある森のカラスは、うさぎの楽器やさんに問いかけました。
ニノくんと同じ種類のやまねこは、数多くはありませんが、
希少というわけでもありません。
「はい。彼は、ふえ吹きのやまねこを追ってきた、父親なのです。」
隠すことでもないので、
うさぎの楽器やさんは正直にいいました。
それに、青い湖のある森のカラスには、
言っておいた方がいいとも思うのです。
すると、青い湖のある森のカラスは、うさぎの楽器やさんもレノさんのことも、
別にとがめることなく、
他に気にかかることを、ほかならぬうさぎの楽器やさんに話したい様子でした。
「…忘れられた森のことなんだが。」
古の森の北西の崖下にあった、忘れられた森は、
たった1日、やまねこのふえの音を浴びただけで、微妙にとれていたバランスをくずし、
じわじわと崩壊していったのですが、
その分、進行の状況を把握しやすいといえます。
青い湖のある森のカラスは、そうなのではないかという仮説を確かめようと、
注意深く見ていました。
そして、確たる証拠をつかんだのです。
「再生し始めているんだ。」
もちろん、そこにまた"忘れられた森"ができあがることはありません。
でも、いったん枯れ果てた森から、
新たな植物が芽生え始めているのです。
「これは、飛ぶことのできなかった私が、
ずっとあそこにはりついていて、分かったことだ。
まだ、だれも気がついてはいない。」
うさぎの楽器やさんは、意外にも前途洋洋とした展開に、
足元をすくわれたような気さえしました。
おそらく、これまでやまねこにつぶされた森のゆくすえは、同じだろうと考えられます。
「きっと、青い湖のある森も、再生する。
長い時間がかかるだろうが、
また、あの森に住むことが、できる。」
我が森に、
いつかまた住むことができるという希望は、
一度失った経験をしたことのある者にとって心にぽつりと宿る灯火となったのです。
「再生…。そうか、
そうか!」
うさぎの楽器やさんは、植物の生命力に
おそれいった思いで胸がいっぱいになりました。
「そうすると、…やまねこのふえは、
はたして魔物のふえなのか、
わからなくなるんだ。」
青い湖のある森のカラスは、一番話したかったことを、
うさぎの楽器やさんにぶつけました。
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