うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

24 父親

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古の森の小さな宿を借りて、
うさぎの楽器やさんは、しばらくの間、2つ目のふえづくりに没頭しました。


レノさんも、まだ古の森の河原近くに滞在しているはずです。

楽器づくりに没頭していると、
時間を忘れてしまうので、
気がつくと もう夕方になっていることもあります。


道具は、小さなバッグに持ち歩いていた彫り刀と、
北の森で調達した工具で、なんとかなっています。

銀色の森の、自分のお店の仕事机だったら、
もっとスムーズに、時間もかからずにつくれるのですが、
まあ、ここにある道具でも、
できないことはありません。

これまで、数々の楽器をつくってきたのですから、むしろ、
これだけしかないという状況こそ、
やってみたい意欲にかられたりするのです。


ふえは、完成を間近に迎えていました。

 共鳴か、共振か。

それは、最後のひと削りで変えることができますが、うさぎの楽器やさんの気持ちは、
ほぼ決まっていました。


レノさんに会ってから、
ずいぶんと考えたのです。


レノさんは、命にかえてもニノくんを止めようと思っている。
ニノくんが生まれてから一度も会っていないと言っていたけれど、
無責任に会わずにいたわけではないと思う。


「だって、ニノくんを知っていた。」

ニノくんが、どんなふうに成長して、
何をしているのか、ちゃんと知っていた。


「なんで、いい男は そういうウソつくかねぇ…。」

うさぎの楽器やさんは、ふえの表面にやすりをかけながら、
ひとりごとを言っていました。



レノさんは、今まで、会う必要がなかったから、ニノくんに会わずにいた。
 
それが今、会う必要ができたのだ。


もし、ニノくんを止められなかったら、
さし違えても、この世に生み出した責任をとるつもりなのだ。

「レノさんは、覚悟してる。」
 あの目をみたら、わかる。

 父親の責任をとろうとしている。

「そんなこと、させていいもんか!」

 それをいうなら、あの ふえをつくり出したのは、俺だ。
 ふえに父親がいるとしたら、
 それは、俺だ。

 楽器の父親は、楽器やだ。

 楽器を…自分の子を壊すようなことを、
 してはならない。
 

うさぎの楽器やさんは、彫り刀で最後のひと削りを入れました。

 共鳴。

うさぎの楽器やさんが選んだのは、
あの ふえに共鳴するふえでした。


共鳴させて、安全に美しい響きをつくる!

ひと削りしたところに、さらにやすりをかけて、滑らかに整えます。



その時ふと、うさぎの楽器やさんは大事なことに気がつきました。

「…この2ndのふえを、誰が吹く?」

メインのふえは、あのニノくんが吹いているのだ。
とてもじゃないけど、あの演奏にたちうちできないぞ。


レノさんが吹けたら、かっこいいだろうけど、楽器なんてからっきし縁がないって…、

ニノくんがふえを吹いているのだって、信じられないって言っていたよなぁ。


「ああ~、ランがいてくれたらよかったのになぁ!」
うさぎの楽器やさんは、小さい頃から店にある楽器をひととおり上手に弾きこなしていた次男を思い浮かべました。
 

ランだったら、きっとニノくんといいハーモニーをつくってくれるだろう。

あいつ、外国の森で元気にやってるかな…。
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