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Bクラス争奪戦 第一章 開幕
ソニアの学園生活
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ギブソンとの勝負も終わって、次の日。俺は日課となっている放課後のランニングを行っていた。
あの勝負の中で深力を使う感覚をちょっとだけ覚えた。その感覚のまま走ってみると、なんと一昨日まではグラウンドを一周しかできなかったのに、今では三周もできてしまっていた。成長を実感する。
「元の体のパワーには程遠いけど、ちょっとずつ取り戻せている」
コアとは心だとレッサーベアーから聞いてからは、自分の元の力を想像している。それによりこのソニアの体でも元の自分と同じ動きができるかも知れない。
しかし今は三周が限界のようだ。
「はあはあッ! げほっ! づ、づがれだ……」
けどそんな自分を認めたくなくて、四周目を狙ってさらに踏み出した。その時、後ろから自分と同じように、荒い息切れをした息遣いが聞こえてきた。
「ハア、ハア、ハアっ………」
フードを被ったまま俺の後ろから走ってきたのはニーナだった。
しかし俺と同じようにヨタヨタ走りになっていて、息も絶え絶えに、今にも倒れそうだった。と言うか倒れた。
「む、無念……」
バタン、とニーナはその場に倒れてしまった。
四周目に乗り出した足を方向転換させて、ニーナの元に駆け寄る。
「ぜぇ、ぜぇ、だ……大丈夫かー」
「………あなた、何周?」
「三周、済んだとこ」
「……私、一周……」
それだけ言って、悔しそうな顔をしながら力無く地面にへたり込む。フードで顔が完全に隠れる。耳を近づけてみると、息切れした呼吸がくぐもって聞こえてくる。
と言うかニーナいたんだな。ぜんっぜん気づかなかった。走り出す前はいなかった気がするが、いつの間に来てたんだ。しかも似合わずランニングなんかして。
「急にどうしたんだよ。前までは俺に付き合う素振りも見せなかったのに」
「……気分が、ノったから。今は後悔してる。オエ」
「まったく仕方ねーな」
とりあえず日陰に運ぼう。
ニーナの体の下に手を差し込んで、くるりん、と体の上下を逆さにひっくり返す。仰向けになったニーナはフードを摘んでいて顔を隠していた。疲れた自分の顔を見られたくないようだ。
次に仰向けにしたニーナの背中と膝裏に腕を差し込んで、一気に抱き上げる。
「な、なんのつもり?」
「お姫様ダッ———ゴォ!」
言おうとしたセリフを全部言い終わる前に、変な声になりながら、俺は前のめりに倒れた。
抱き上げられたニーナは地面に戻る。
「………何してるの?」
「いや……その……上がらなかった」
自分の力の無さを痛感する。ニーナを持ち上げられず、持ったまま倒れてしまった。つーかランニングで疲れてたの忘れてた。
「……とりあえず、私の股から顔を退けてくれない?」
「……それが、腕がお前の体と地面に挟まってて、抜けなくて」
「あとあなた、お尻が山のようにお空に突き出してて、とんでもない格好よ」
「……わかってる」
今の俺たちすごい格好になってるだろうな。
俺なんかニーナの股間に顔を突っ込んで、ケツを突き上げた状態だ。完全変態。
しかし体が動かない。腕がニーナの下敷きになっているのもあるが、疲れのせいで動けなくなっていた。
「……動けないの本当? 私の股間を堪能してるとかじゃなくて?」
「……………」
「いや否定しなさいよ」
「な、何してるのアンタ達……」
と、そこへ新しい声が聞こえてきた。俺は目の前が真っ暗だし、振り返れないので誰かわからない。女の子なのは声でわかるが。
「ニーナ隊長、誰が来たんですか」
「……誰だろ」
「ニーナが知らないって事は別のクラスか? それとも上級生?」
「はあ? 何言ってんのアンタらは」
ガシッと後ろから肩を掴まれて、ひっくり返される。その勢いで腕が抜けて解放される。
太陽が眩しい。
そしてひっくり返されて無理やり振り向かされた目の先を見れば、見知った顔の女の子がいた。
「なんでそんな格好になってたのかとか、変態なのかとか、ボルティナはどうして私の名前を忘れてたのかとか、色々言いたいけどとりあえず……」
吊り目気味の勝気な顔。
肩までかかる紫色の髪。
どことなく気品を感じる雰囲気。
そして背中に背負った特殊な剣。輪っかに2本の剣が引っ付いた形で、持ち手は輪っかの円の中心に横棒が取り付けてある。2本の剣は丁度彼女の肩の部分から突起して、肩から剣が生えたように見える。
呆れたという風に腰に手を当てて首を振る彼女は、俺やニーナと同じ一年Cクラスの女の子の……、
「アタシにして欲しい事言いなさい」
「日陰……」
「飲み物……」
ラウラウ・シックオルゴール。
俺のものと大きさの似た巨乳の持ち主。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
ラウラウの言葉に甘えて、俺らはグラウンドの端の方、木の影になっている場所に運んでもらった。そして紙コップの中にスポーツドリンクを入れて、持ってきてもらった。
「何から何まで、ありがとう。あなたは命の恩人よ」
言葉遣いに気をつけながら礼を言う。
スポドリを両手に持ったラウラウは、ため息を吐く。
「はあ~、仕方ないからね。まあでもウチのクラスから白昼堂々人の多いグラウンドの真ん中で、同性の股間に顔を突っ込んで興奮する変態が生まれなくて良かったわ」
「興奮してたの?」
「……………」
「いや否定してよ」
ニーナの質問は無視する。
「とにかくありがとうラウラウ。飲み物はそこに置いておいてくれたら後は自分達で勝手に……」
「バカ。倒れてたヤツが何言ってんのよ」
「えっ? あ、ちょっ! むぐっ」
俺が何か言う前にストローを口に突っ込まれた。横ではニーナも突っ込まれていた。
体が飲み物を求めて、無意識に吸飲していた。冷たい液体が口から喉に通る。ある程度飲んだ後にストローを口から離された。
「どお? ちょっとは元気になった?」
「な、何から何まで本当、ありがとう」
「うん。私もこんなにいい人が同じクラスにいたなんて知らなかったわ」
「ボルティナはもっと他人に関心を持ちなさい」
ちなみにボルティナはニーナの苗字。ニーナ・ボルティナがフルネーム。
「それじゃアタシはもう行くから。ボルティナも、ブラックパンツァーも、体が動くくらい回復したら今日はもう上がりなさい。また様子見に来るから」
それだけ言ってラウラウは戻って行った。
あんないいヤツがいたなんてな。
「彼女、胸、大きかったわね。アナタくらいの大きさ」
「だからなんだよ」
「柔らかそう、とか思ってたんでしょ」
「うん」
「肯定しないでよ」
肯定するしかないだろう。見たものを感じたままに感想言っただけだ。
俺はラウラウが置いてってくれたカップに手を伸ばす。しかし手が震えてまともに取ることができなかった。
「ぐっ……手がガクガクしてる」
「いきなり無理して私を担いだからかしらね」
ニーナが代わりに取ってくれて、すぐそばに置いてくれた。
しかしそれでも手が動かせないので、持ち上げることもできない。飲み物の入ったカップは俺とニーナの間にある。隣ではチュウチュウ、ストローを吸う友人。
いいことを思いついた。俺は重心を横に傾けて、ニーナの太ももの上に頭を乗せる。
地面に置かれたストローに、これなら口が届く。
「……やっぱり変態かしら」
「いいじゃんか別に~」
「うりゃ」
「冷た!」
お返しと言わんばかりに、頭の上に冷たいカップを乗せられた。
と、そこで俺がビックリして体を起こしてしまったため、カップが傾いて……、
「あ」
「え」
バッシャーンと頭からスポドリを被ってしまった。
「つっめたっ!」
「わー、大きいブラが透けちゃってるわ」
「オマエが頭に乗っけたからだろ!」
「あなたが頭を乗っけたからでしょ」
「な、何してるのアンタらは……」
と、そこにラウラウが再び来てくれた。
濡れて下に身につけているスポーツブラが運動着のシャツの上からスケスケで見えてしまっている俺。そんな俺を見かねて、自分の持っていたタオルを肩にかけてもらった。
「あ、ありがとう。助かった」
「本当に何してるのよアンタらは……世話の焼ける。でもまあタオルかけたくらいじゃ隠れないでしょ、アンタの胸」
「ま、まあ……」
周りを見ると男子からの視線を感じた。慌てて後ろを向く。
「どーしよう」
「とりあえず上に着て隠せるもの持ってくるわ」
「そんなのあるの?」
「先生に言ってジャケットみたいなの借りてくる。ちょっと待ってて」
そう言ってラウラウは職員室の方に行ってくれた。職員室は校舎の二階。グラウンドから行くには億劫になりそうだが、トコトンいいヤツ。
「…………」
「チュー、チュー」
「ん? あれ? おいそれ、お前が飲んでるのって」
「私のは溢れちゃったから」
「俺のじゃねーか!」
「間接キスとか気にするタイプ?」
「それもあるけど俺の分!」
「そんなに飲んでないわよ。はい」
そう言って本来俺のだったストローを向けられる。だが今やそれはニーナの口がついたストローだ。
「か、間接キス気にするって言ったろ」
「そうなの? 私のは嫌?」
「嫌じゃなくて女の子とそういうのした経験ないんだよ」
「友達と、は? したことない?」
そりゃ男友達とならカップうどん分け合ったりした事あるけどさ。
ニーナは女……いや、向こうがいいって言ってんなら別にいいか。なんか気にするのもアホらしく感じてきた。ニーナからカップを取り返してストローに口をつける。味が違う気がするのは気のせいだ。
「あっ……ほ、ホントに口つけちゃった」
「ブフゥ!」
おまっ!間接キス気にしないんじゃねーのかよ!
お前はいいのかと思って飲んだのに。俺には言ってて、本当は自分も気にしてたのか!
そして思わず吹き出した液体はそのまま前にいたニーナにぶっかかった。
「びちょびちょ」
「お、お前がややこしい事するから!」
ニーナも服が透けてしまった。自分の服を脱いで被せようかと、男の時にしていたのと同じ事をしようとして、服が胸に引っかかった所で自分が女になっている事を思い出す。下乳まで出していた服を慌てて着直して、代わりにタオルをニーナに被せた。
しかしそれは返される。
「大丈夫よ。私パーカー着てるし」
「あ、そっか。でもパーカーの開いた前から透けたシャツが見えて、その、お前もブラが……」
「あなたほど見られて困るようなものは付いてないわよ」
「そういう問題じゃないだろ」
パーカーの前を閉じてやる。彼女に近づくと顔も、ネコミミフードも濡れていた。タオルで顔を拭いながらフードを触ってみる。
「うわあ、フードも濡れてるな」
「残念だけど、部屋に戻ったら別のを着るわ」
「別の? え? スペアとかあんのかそのパーカー」
「私だって女の子よ? 毎日変えてるから」
ええ、全然知らなかったし気づかなかった。変わってたのか?
と、そこでニーナはフードを脱いだ。フワッと絹のように透き通った白い髪が舞い上がる。
「あれ、お前って、そんな綺麗な白い髪してたのか」
「気づいてなかったの?」
「うん」
サラサラしてそうな髪を指で触ってみた。
「急に触るのね」
「いやごめん、腕がプルプルで特に触ってもなんもわかんなかったわ」
「なら離してもらえる? 髪も濡れてるからあんまり触らない方がいいわ」
「な、なんで濡れたヤツが増えてんのよ……」
そこでまたまたラウラウが戻ってきてくれた。今度はニーナが濡れているのに気づいて、呆れた表情になる。手には柔らかそうな素材のカーディガンを持っていた。
「そのジャケットは?」
「ん? ああ、先生のとこに行く前にルームメイトのロミロミがいたから借りてきた。濡れてもいいってさ」
「それを私に?」
「それ以外に何が……」
「なら私よりもニーナに」
「だから私はパーカーあるから平気だって」
「あ、そっか」
「ふぅん。ま、ほら、後でロミロミにも感謝しときなさい」
「うん、ありがとう」
ありがたく受け取って、胸を隠すためにカーディガンを運動着の上から着る。するとフワッと何かいい匂いがした。これはもしかして……。
「……もしかして、そのロミロミって子が着てたのを持ってきてくれたの?」
「ん? そうよ。何か問題が? ロミロミも平気だって言ってたし。もしかして他人の服は着れないタイプ?」
「い、いや……」
女の子の匂いがするのが緊張する。
「なにほっぺ赤くして可愛い顔してんの? と言うかもう動ける? アンタら。てか飲み物全部こぼしちゃってるじゃない」
「あーと……」
「もしかして腕が痺れて飲めないとか? それなら……」
ラウラウが何かを提案しようとした、その時。彼女の後ろからヒョコっと銀色の髪をした知り合いが顔を出してきた。
「おやおや、何してるの?」
「レッサーベアー」
それはBクラスのレッサーベアーだった。彼女は俺を見つめてきていて、ジッと見つめてきていて、そして俺がカーディガンを着ていることに気づいたようだ。
「あら? そのカーディガン、ロミロミが着てたのとそっくりね」
「それが……」
俺は一連の説明をした。説明し終えると自分でもクッソくだらないハプニングにラウラウを付き合わせてしまっているのを再確認する。
「えー、服なら私がいくらでも貸すのに」
「そう言ってくれるのはありがたいけど」
レッサーベアーから借りるのも俺的にいたたまれないと言うか。
「それで、疲れて飲み物もまともに飲めないって事だよね。それなら私、いいアイテム持ってるから! こないだ私と話した屋根のある休憩場所で待ってて!」
「え、いや、そこまで……」
してもらうのは申し訳ない、と言う前にレッサーベアーは走って学生寮の方へ行ってしまった。自分の部屋から取ってくるつもりなんだろう。
「ラウラウも、レッサーベアーも、みんないい人ばかりねぇ……」
「でも待っててって事は、お風呂行こうと思ってたんだけど、このべちょべちょ流せないってこと?」
「……まあ、ちょっとは乾くでしょ。それじゃラウラウ、本当にありがとう。ロミロミって子にもありがとうって伝えておいてほしい。後で自分らでもお礼に行くけど」
「ん……いや、私もアンタらと待つわ」
「え?」
「なんで?」
「レッサーベアーにはちょっとばかし興味があるからね。元から」
「……………」
「何かアンタ勘違いしてない? 別にレッサーベアーと同じ趣味で興味ってわけじゃないからね。この学園の方針に従った興味だから」
あの勝負の中で深力を使う感覚をちょっとだけ覚えた。その感覚のまま走ってみると、なんと一昨日まではグラウンドを一周しかできなかったのに、今では三周もできてしまっていた。成長を実感する。
「元の体のパワーには程遠いけど、ちょっとずつ取り戻せている」
コアとは心だとレッサーベアーから聞いてからは、自分の元の力を想像している。それによりこのソニアの体でも元の自分と同じ動きができるかも知れない。
しかし今は三周が限界のようだ。
「はあはあッ! げほっ! づ、づがれだ……」
けどそんな自分を認めたくなくて、四周目を狙ってさらに踏み出した。その時、後ろから自分と同じように、荒い息切れをした息遣いが聞こえてきた。
「ハア、ハア、ハアっ………」
フードを被ったまま俺の後ろから走ってきたのはニーナだった。
しかし俺と同じようにヨタヨタ走りになっていて、息も絶え絶えに、今にも倒れそうだった。と言うか倒れた。
「む、無念……」
バタン、とニーナはその場に倒れてしまった。
四周目に乗り出した足を方向転換させて、ニーナの元に駆け寄る。
「ぜぇ、ぜぇ、だ……大丈夫かー」
「………あなた、何周?」
「三周、済んだとこ」
「……私、一周……」
それだけ言って、悔しそうな顔をしながら力無く地面にへたり込む。フードで顔が完全に隠れる。耳を近づけてみると、息切れした呼吸がくぐもって聞こえてくる。
と言うかニーナいたんだな。ぜんっぜん気づかなかった。走り出す前はいなかった気がするが、いつの間に来てたんだ。しかも似合わずランニングなんかして。
「急にどうしたんだよ。前までは俺に付き合う素振りも見せなかったのに」
「……気分が、ノったから。今は後悔してる。オエ」
「まったく仕方ねーな」
とりあえず日陰に運ぼう。
ニーナの体の下に手を差し込んで、くるりん、と体の上下を逆さにひっくり返す。仰向けになったニーナはフードを摘んでいて顔を隠していた。疲れた自分の顔を見られたくないようだ。
次に仰向けにしたニーナの背中と膝裏に腕を差し込んで、一気に抱き上げる。
「な、なんのつもり?」
「お姫様ダッ———ゴォ!」
言おうとしたセリフを全部言い終わる前に、変な声になりながら、俺は前のめりに倒れた。
抱き上げられたニーナは地面に戻る。
「………何してるの?」
「いや……その……上がらなかった」
自分の力の無さを痛感する。ニーナを持ち上げられず、持ったまま倒れてしまった。つーかランニングで疲れてたの忘れてた。
「……とりあえず、私の股から顔を退けてくれない?」
「……それが、腕がお前の体と地面に挟まってて、抜けなくて」
「あとあなた、お尻が山のようにお空に突き出してて、とんでもない格好よ」
「……わかってる」
今の俺たちすごい格好になってるだろうな。
俺なんかニーナの股間に顔を突っ込んで、ケツを突き上げた状態だ。完全変態。
しかし体が動かない。腕がニーナの下敷きになっているのもあるが、疲れのせいで動けなくなっていた。
「……動けないの本当? 私の股間を堪能してるとかじゃなくて?」
「……………」
「いや否定しなさいよ」
「な、何してるのアンタ達……」
と、そこへ新しい声が聞こえてきた。俺は目の前が真っ暗だし、振り返れないので誰かわからない。女の子なのは声でわかるが。
「ニーナ隊長、誰が来たんですか」
「……誰だろ」
「ニーナが知らないって事は別のクラスか? それとも上級生?」
「はあ? 何言ってんのアンタらは」
ガシッと後ろから肩を掴まれて、ひっくり返される。その勢いで腕が抜けて解放される。
太陽が眩しい。
そしてひっくり返されて無理やり振り向かされた目の先を見れば、見知った顔の女の子がいた。
「なんでそんな格好になってたのかとか、変態なのかとか、ボルティナはどうして私の名前を忘れてたのかとか、色々言いたいけどとりあえず……」
吊り目気味の勝気な顔。
肩までかかる紫色の髪。
どことなく気品を感じる雰囲気。
そして背中に背負った特殊な剣。輪っかに2本の剣が引っ付いた形で、持ち手は輪っかの円の中心に横棒が取り付けてある。2本の剣は丁度彼女の肩の部分から突起して、肩から剣が生えたように見える。
呆れたという風に腰に手を当てて首を振る彼女は、俺やニーナと同じ一年Cクラスの女の子の……、
「アタシにして欲しい事言いなさい」
「日陰……」
「飲み物……」
ラウラウ・シックオルゴール。
俺のものと大きさの似た巨乳の持ち主。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
ラウラウの言葉に甘えて、俺らはグラウンドの端の方、木の影になっている場所に運んでもらった。そして紙コップの中にスポーツドリンクを入れて、持ってきてもらった。
「何から何まで、ありがとう。あなたは命の恩人よ」
言葉遣いに気をつけながら礼を言う。
スポドリを両手に持ったラウラウは、ため息を吐く。
「はあ~、仕方ないからね。まあでもウチのクラスから白昼堂々人の多いグラウンドの真ん中で、同性の股間に顔を突っ込んで興奮する変態が生まれなくて良かったわ」
「興奮してたの?」
「……………」
「いや否定してよ」
ニーナの質問は無視する。
「とにかくありがとうラウラウ。飲み物はそこに置いておいてくれたら後は自分達で勝手に……」
「バカ。倒れてたヤツが何言ってんのよ」
「えっ? あ、ちょっ! むぐっ」
俺が何か言う前にストローを口に突っ込まれた。横ではニーナも突っ込まれていた。
体が飲み物を求めて、無意識に吸飲していた。冷たい液体が口から喉に通る。ある程度飲んだ後にストローを口から離された。
「どお? ちょっとは元気になった?」
「な、何から何まで本当、ありがとう」
「うん。私もこんなにいい人が同じクラスにいたなんて知らなかったわ」
「ボルティナはもっと他人に関心を持ちなさい」
ちなみにボルティナはニーナの苗字。ニーナ・ボルティナがフルネーム。
「それじゃアタシはもう行くから。ボルティナも、ブラックパンツァーも、体が動くくらい回復したら今日はもう上がりなさい。また様子見に来るから」
それだけ言ってラウラウは戻って行った。
あんないいヤツがいたなんてな。
「彼女、胸、大きかったわね。アナタくらいの大きさ」
「だからなんだよ」
「柔らかそう、とか思ってたんでしょ」
「うん」
「肯定しないでよ」
肯定するしかないだろう。見たものを感じたままに感想言っただけだ。
俺はラウラウが置いてってくれたカップに手を伸ばす。しかし手が震えてまともに取ることができなかった。
「ぐっ……手がガクガクしてる」
「いきなり無理して私を担いだからかしらね」
ニーナが代わりに取ってくれて、すぐそばに置いてくれた。
しかしそれでも手が動かせないので、持ち上げることもできない。飲み物の入ったカップは俺とニーナの間にある。隣ではチュウチュウ、ストローを吸う友人。
いいことを思いついた。俺は重心を横に傾けて、ニーナの太ももの上に頭を乗せる。
地面に置かれたストローに、これなら口が届く。
「……やっぱり変態かしら」
「いいじゃんか別に~」
「うりゃ」
「冷た!」
お返しと言わんばかりに、頭の上に冷たいカップを乗せられた。
と、そこで俺がビックリして体を起こしてしまったため、カップが傾いて……、
「あ」
「え」
バッシャーンと頭からスポドリを被ってしまった。
「つっめたっ!」
「わー、大きいブラが透けちゃってるわ」
「オマエが頭に乗っけたからだろ!」
「あなたが頭を乗っけたからでしょ」
「な、何してるのアンタらは……」
と、そこにラウラウが再び来てくれた。
濡れて下に身につけているスポーツブラが運動着のシャツの上からスケスケで見えてしまっている俺。そんな俺を見かねて、自分の持っていたタオルを肩にかけてもらった。
「あ、ありがとう。助かった」
「本当に何してるのよアンタらは……世話の焼ける。でもまあタオルかけたくらいじゃ隠れないでしょ、アンタの胸」
「ま、まあ……」
周りを見ると男子からの視線を感じた。慌てて後ろを向く。
「どーしよう」
「とりあえず上に着て隠せるもの持ってくるわ」
「そんなのあるの?」
「先生に言ってジャケットみたいなの借りてくる。ちょっと待ってて」
そう言ってラウラウは職員室の方に行ってくれた。職員室は校舎の二階。グラウンドから行くには億劫になりそうだが、トコトンいいヤツ。
「…………」
「チュー、チュー」
「ん? あれ? おいそれ、お前が飲んでるのって」
「私のは溢れちゃったから」
「俺のじゃねーか!」
「間接キスとか気にするタイプ?」
「それもあるけど俺の分!」
「そんなに飲んでないわよ。はい」
そう言って本来俺のだったストローを向けられる。だが今やそれはニーナの口がついたストローだ。
「か、間接キス気にするって言ったろ」
「そうなの? 私のは嫌?」
「嫌じゃなくて女の子とそういうのした経験ないんだよ」
「友達と、は? したことない?」
そりゃ男友達とならカップうどん分け合ったりした事あるけどさ。
ニーナは女……いや、向こうがいいって言ってんなら別にいいか。なんか気にするのもアホらしく感じてきた。ニーナからカップを取り返してストローに口をつける。味が違う気がするのは気のせいだ。
「あっ……ほ、ホントに口つけちゃった」
「ブフゥ!」
おまっ!間接キス気にしないんじゃねーのかよ!
お前はいいのかと思って飲んだのに。俺には言ってて、本当は自分も気にしてたのか!
そして思わず吹き出した液体はそのまま前にいたニーナにぶっかかった。
「びちょびちょ」
「お、お前がややこしい事するから!」
ニーナも服が透けてしまった。自分の服を脱いで被せようかと、男の時にしていたのと同じ事をしようとして、服が胸に引っかかった所で自分が女になっている事を思い出す。下乳まで出していた服を慌てて着直して、代わりにタオルをニーナに被せた。
しかしそれは返される。
「大丈夫よ。私パーカー着てるし」
「あ、そっか。でもパーカーの開いた前から透けたシャツが見えて、その、お前もブラが……」
「あなたほど見られて困るようなものは付いてないわよ」
「そういう問題じゃないだろ」
パーカーの前を閉じてやる。彼女に近づくと顔も、ネコミミフードも濡れていた。タオルで顔を拭いながらフードを触ってみる。
「うわあ、フードも濡れてるな」
「残念だけど、部屋に戻ったら別のを着るわ」
「別の? え? スペアとかあんのかそのパーカー」
「私だって女の子よ? 毎日変えてるから」
ええ、全然知らなかったし気づかなかった。変わってたのか?
と、そこでニーナはフードを脱いだ。フワッと絹のように透き通った白い髪が舞い上がる。
「あれ、お前って、そんな綺麗な白い髪してたのか」
「気づいてなかったの?」
「うん」
サラサラしてそうな髪を指で触ってみた。
「急に触るのね」
「いやごめん、腕がプルプルで特に触ってもなんもわかんなかったわ」
「なら離してもらえる? 髪も濡れてるからあんまり触らない方がいいわ」
「な、なんで濡れたヤツが増えてんのよ……」
そこでまたまたラウラウが戻ってきてくれた。今度はニーナが濡れているのに気づいて、呆れた表情になる。手には柔らかそうな素材のカーディガンを持っていた。
「そのジャケットは?」
「ん? ああ、先生のとこに行く前にルームメイトのロミロミがいたから借りてきた。濡れてもいいってさ」
「それを私に?」
「それ以外に何が……」
「なら私よりもニーナに」
「だから私はパーカーあるから平気だって」
「あ、そっか」
「ふぅん。ま、ほら、後でロミロミにも感謝しときなさい」
「うん、ありがとう」
ありがたく受け取って、胸を隠すためにカーディガンを運動着の上から着る。するとフワッと何かいい匂いがした。これはもしかして……。
「……もしかして、そのロミロミって子が着てたのを持ってきてくれたの?」
「ん? そうよ。何か問題が? ロミロミも平気だって言ってたし。もしかして他人の服は着れないタイプ?」
「い、いや……」
女の子の匂いがするのが緊張する。
「なにほっぺ赤くして可愛い顔してんの? と言うかもう動ける? アンタら。てか飲み物全部こぼしちゃってるじゃない」
「あーと……」
「もしかして腕が痺れて飲めないとか? それなら……」
ラウラウが何かを提案しようとした、その時。彼女の後ろからヒョコっと銀色の髪をした知り合いが顔を出してきた。
「おやおや、何してるの?」
「レッサーベアー」
それはBクラスのレッサーベアーだった。彼女は俺を見つめてきていて、ジッと見つめてきていて、そして俺がカーディガンを着ていることに気づいたようだ。
「あら? そのカーディガン、ロミロミが着てたのとそっくりね」
「それが……」
俺は一連の説明をした。説明し終えると自分でもクッソくだらないハプニングにラウラウを付き合わせてしまっているのを再確認する。
「えー、服なら私がいくらでも貸すのに」
「そう言ってくれるのはありがたいけど」
レッサーベアーから借りるのも俺的にいたたまれないと言うか。
「それで、疲れて飲み物もまともに飲めないって事だよね。それなら私、いいアイテム持ってるから! こないだ私と話した屋根のある休憩場所で待ってて!」
「え、いや、そこまで……」
してもらうのは申し訳ない、と言う前にレッサーベアーは走って学生寮の方へ行ってしまった。自分の部屋から取ってくるつもりなんだろう。
「ラウラウも、レッサーベアーも、みんないい人ばかりねぇ……」
「でも待っててって事は、お風呂行こうと思ってたんだけど、このべちょべちょ流せないってこと?」
「……まあ、ちょっとは乾くでしょ。それじゃラウラウ、本当にありがとう。ロミロミって子にもありがとうって伝えておいてほしい。後で自分らでもお礼に行くけど」
「ん……いや、私もアンタらと待つわ」
「え?」
「なんで?」
「レッサーベアーにはちょっとばかし興味があるからね。元から」
「……………」
「何かアンタ勘違いしてない? 別にレッサーベアーと同じ趣味で興味ってわけじゃないからね。この学園の方針に従った興味だから」
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