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プロローグ 朝倉颯太のすべて

そうして……

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 ———小学生時代。

「———それでボクらは家族になれました。オレがいなきゃ何もできないパパとママだけど、大好きです!」


 参観日、両親についての作文発表会で颯太の両親は泣き崩れた。周りから心配されるているのも知らずに、とにかく泣いた。今ではもう着慣れたスーツが濡れるのも、おとなしめになった化粧が崩れるのもお構いなしに、二人は泣いた。


 ———中学生時代。

「ギャアアア!」

「ぐうっ! つ、強え……!」


 颯太に殴り飛ばされた男たちは死屍累々に颯太の周りに倒れていた。そこへ颯太の友人達が現れた。


「わー、ヤベェ……今日は何人やったんだ? 全部ひとりでやったのかよ」

「さすが“錦の喧嘩師”だな!」

「やめろよそれ。錦に喧嘩師も似合わないし、喧嘩師に錦も似合わないだろ」


 颯太はからかってくる友人の頭をはたいてツッコむ。横では女友達から羨望の眼差しを受けて、うざったく顔を逸らす。


「はあ、帰るぞ」


 倒れた奴らをほっといて、友人達と帰路につく。


「おい颯太! あれ、お前の初恋の巫女さんじゃね?」


 帰る道すがら、友人が見つけたものを見れば確かに颯太の初恋の巫女が歩いていた。巫女は巫女服ではなく普段着をして、男と一緒に歩いていた。


「あれ、こないだお前に連れてってもらった神社の、巫女さんだよな。修学旅行の時に初恋だって話してた」

「あの男だれだろ……」

「颯太君の初恋相手……あ! そ、颯太君……大丈夫?」


 友人の話は全部聞こえなかった。颯太の視線は一点に、普段着の巫女と男に注がれていた。
 そして歩き出して、後ろからの友人達の止める声も無視して、歩み寄った。近づくと巫女は驚いた顔をした。そんな彼女から目を離して男に向かって頭を下げた。


「彼女をよろしくお願いします!」


 それだけ言って颯太は友人達のいる方向に走って逃げ出した。友人達を通り過ぎてそのまま走っていく。それを慌てて追いかける友人達。


 ———そして……。

 ガタン

   ゴトン

 ガタン

  ゴトン

 高校の制服を都会の方まで行ってわざわざ買ってきた、帰り道、その電車の中で。


 ガタン


 ゴトン


 ガタン


 ゴトン


 電車に揺られながら、久しぶりの都会の空気に当てられて、疲れて眠ろうとしていた。買ってきた新品の制服を大事に抱えて。
 そうして……そして……———


 ガタン

 ゴト


 電車の揺れがなくなり、代わりに耳障りな人々の歓声に目を覚ます。そして頭を下げた目の前に、自分の胸に目を見張るほど大きな乳房が付いていた。


「え……なに、これ」


 声も女の子になっていた。周りを見れば知らない人たち。
 電車の中にいたはずなのに、なんだか絵画で見るような厳かな、神殿のような場所で、人の中に自分は座っていた。制服も無くなっている。
 呆然と自分に生えた乳房を見下ろす。
 さらに自分のいる場所から神殿の真ん中の方に目をやれば、なんと自分がいた。自分が歓声を受けているのを、これまた呆然と見下ろすしかできなかった。
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