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乾杯の魔法で始まった夜は全てが完璧だった。
アスパラガスのグリーンとサーモンのピンクが鮮やかなテリーヌに始まり、よくローストした新玉ねぎのオニオングラタンスープ、香ばしく焼き上がった白身魚のポワレふきのとうソース、メインはジビエで鹿肉のロースト赤ワイン煮。
フレンチを基本としているけれど敷居は高過ぎず、むしろ程よく庶民的な親しみやすい雰囲気の店だ。
フランスにはまだ行ったことがない百合だったけれど、温かい光を放つ室内灯やパリッとした清潔な白いテーブルクロス、テーブルに控えめに飾られた野の花が、旅先で田舎町の老舗レストランに腰を落ち着けているような気分にさせてくれる。
店内には二人以外に客はいない。どうやら今日は店の定休日にあたるらしく店主の星熊が友人の鬼嶋のために特別に休日営業しているらしかった。
一皿一皿丁寧に仕上げられた料理を、会話とお酒を楽しみながらゆっくりと時間をかけて食べる。
何より目の前には極上の笑顔を浮かべた鬼嶋がいる――過ぎていく一分一秒が百合にはとてつもなく贅沢な時間に思えた。
料理に合わせて次々と栓を抜かれ、グラスに注がれる白ワインに赤ワイン。
「如月さん、大丈夫? 顔が、かなり赤い――」
テーブル越しに身を乗り出した鬼嶋が心配そうに百合の顔を覗き込んでいる。
「はっ……、はい、大丈夫……です」
そう答えながらも、百合も自分の頬の熱さと強い酩酊感を十分に自覚していた。
――しまった。やってしまった……。
極端に弱いわけではないけれど、今夜は確実に飲み過ぎた――。
りんごのタルトタタンと自家製バニラアイスのデザートを終えた頃、時計は二十二時を回っている。
グラスの水をゆっくりと飲みほしてから、百合は席を立とうと足に力を入れた。
「なんなら、少し休んでいってもいいんだぜ。ウチは今日休みだし」
「如月さん、無理をしなくていいんだよ」
椅子から立ち上がる時ほんの少しフラついた百合を二人の男が気遣うように見つめている。
「いえ、大丈夫です。ちょっと眠いだけで……車には乗れますから」
なんとか笑顔を作って答えながらも、歩く足元はふわふわと雲を踏んでいるようでなんとも心もとない。
「……ちゃんと、家まで送り届けろよ。 大事な『人』なんだろ?」
鬼嶋に耳打ちする星熊の低い声がボンヤリとした頭にかすかに響いた。
「もちろんだ。お前に言われなくても分かっている。彼女は――」
完全に酔いが回っているせいだろうか……。流し目に百合を見た鬼嶋の目が怪しい金色に光ったような気がしたのは。
「俺の、大切な『女性』だ……。もう二度と離さない」
アスパラガスのグリーンとサーモンのピンクが鮮やかなテリーヌに始まり、よくローストした新玉ねぎのオニオングラタンスープ、香ばしく焼き上がった白身魚のポワレふきのとうソース、メインはジビエで鹿肉のロースト赤ワイン煮。
フレンチを基本としているけれど敷居は高過ぎず、むしろ程よく庶民的な親しみやすい雰囲気の店だ。
フランスにはまだ行ったことがない百合だったけれど、温かい光を放つ室内灯やパリッとした清潔な白いテーブルクロス、テーブルに控えめに飾られた野の花が、旅先で田舎町の老舗レストランに腰を落ち着けているような気分にさせてくれる。
店内には二人以外に客はいない。どうやら今日は店の定休日にあたるらしく店主の星熊が友人の鬼嶋のために特別に休日営業しているらしかった。
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「如月さん、大丈夫? 顔が、かなり赤い――」
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「はっ……、はい、大丈夫……です」
そう答えながらも、百合も自分の頬の熱さと強い酩酊感を十分に自覚していた。
――しまった。やってしまった……。
極端に弱いわけではないけれど、今夜は確実に飲み過ぎた――。
りんごのタルトタタンと自家製バニラアイスのデザートを終えた頃、時計は二十二時を回っている。
グラスの水をゆっくりと飲みほしてから、百合は席を立とうと足に力を入れた。
「なんなら、少し休んでいってもいいんだぜ。ウチは今日休みだし」
「如月さん、無理をしなくていいんだよ」
椅子から立ち上がる時ほんの少しフラついた百合を二人の男が気遣うように見つめている。
「いえ、大丈夫です。ちょっと眠いだけで……車には乗れますから」
なんとか笑顔を作って答えながらも、歩く足元はふわふわと雲を踏んでいるようでなんとも心もとない。
「……ちゃんと、家まで送り届けろよ。 大事な『人』なんだろ?」
鬼嶋に耳打ちする星熊の低い声がボンヤリとした頭にかすかに響いた。
「もちろんだ。お前に言われなくても分かっている。彼女は――」
完全に酔いが回っているせいだろうか……。流し目に百合を見た鬼嶋の目が怪しい金色に光ったような気がしたのは。
「俺の、大切な『女性』だ……。もう二度と離さない」
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