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 朝の眩しい日差しと共に百合を眠りから目覚めさせたのは森の中にこだまする鳥の唄だった。

 見知らぬ天井を見上げて瞬きを繰り返すこと数回、百合は弾かれたように起き上がった。

 ――ここ……、どこ??

 朝日が降り注ぐ大きな窓には品のいい萌黄色の麻のカーテンがかかっている。

 室内を見渡すと天然木のクローゼットとサイドボード以外には百合が寝ていたセミダブルのベッドがあるだけの、ホテルのような簡素なインテリア……。

 恐る恐るベッドから降りてクローゼットを覗いてみると、昨夜百合が羽織っていたジャケットがきちんとハンガーにかけられ、バッグは棚に収められていた。

 カーテンを引いて外を眺めると広いベランダがあってこの部屋が二階に位置していることがわかる。

 目の前は深い森で窓を開けると朝の爽やかな空気が流れ込み、鳥の声が一層大きく聞こえて来た。

 バクバクと暴れる心臓を抑えながら必死で記憶を手繰り寄せても、タクシーに乗った後の記憶はほとんど甦ってはこない。

 かすかに、思い出せるのはタクシーに乗る時ドアを開け、シートに座らせてくれた時に間近で見た鬼嶋の紳士的な微笑み。

 ここに百合を連れて来たのは鬼嶋以外には考えられない。でも、一体何のために――?

 百合の服装は昨日と同じ、ワンピースにストッキング――。一切乱れも変化もない。

『お持ち帰り』されたわけでもないこの状況――。一体何がどうなっているのか……。

 ベッドに座って考え込んでいる最中に部屋のドアがコンコンと軽くノックされ、百合はびくりと肩を震わせた。

「……如月さん? 」

 続いて聞こえてきたのは鬼嶋の声――。いつもと変わらない穏やかな口調。

「は、はいっ! 」

 立ち上がった百合は急いでドアへ向かい、扉を開けた。

 廊下の鬼嶋は普段着だろうか、濃紺の薄手のニットにベージュのズボンを着ていて、流していない前髪はさらりと額にかかっている。

 爽やかな鬼嶋の姿を目の当たりにした瞬間、鏡も見ずにドアを開けたことを百合は後悔した。

「おはよう。……具合はどう?」

 背の高い鬼嶋が見下ろすようにして百合の顔を覗き込んでくる。

 寝起きの顔を隠したい一心で、百合は部屋の中へ飛び退り、深々と頭を下げた。

「あのっ、すみません。昨夜は迷惑をおかけして……!」

「そんなこと気にしないでいいよ。顔を上げて」

 鬼嶋の手が百合の肩に優しく置かれた……けれど、恥ずかしさに百合は顔を上げることができない。

「あのっ……恥ずかしくて……」

「え?」

「……顔が……起きたばかりで」

「ああ、なんだ」

 少し安堵したような鬼嶋の声が降ってくる。

「大丈夫なのに。じゃあ、そうだね。俺は階下したで待ってるから……」

 肩に乗せられた手がふいに除けられたと思いきや、下げられたままの百合の顔のすぐ近くで鬼嶋の声がした。

「……支度が出来たら、おいで。美味いコーヒーを淹れて待ってるから」

 さっと身を起こし颯爽と去っていく鬼嶋の後姿を思わず見上げながら、百合は耳まで紅くなっていた。
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