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第5章 落穽下石

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どれくらいの時間こうしてただろう。

静先輩は僕をあちこち撫でながら、あれこれこの数日間どうだったか聞いてくる。
僕はその手の気持ちよさに時折猫のように唸りながらも、聞かれたことに答えていたはずなんだけど。

いつからだろう、なんだか頭の中がふわふわしてきてうまく回らなくなってきたのは。
さっきまで存在すら忘れていた頭痛も、酷くなってきてズキズキと体の不調を知らせていた。
心なしか部屋も少し暑い気がするし、なんか視界がぼやけて静先輩の顔が見づらくなってきている。

「ねぇ、静先輩・・・・・・」
「ん? 弥桜、少し顔赤くないか。それにやけに体温も高いな」
そう言って静先輩の手が額に触れると、あーこりゃ確実に熱あるぞ、と言って僕を布団に寝かせて救急箱を取りに行った。

戻ってきた静先輩に体温計を渡されて測ると、案の定37.5度と熱があった。
あーそっか、部屋が暑いんじゃなくて自分が暑いのか。
いつもみたいに静先輩がうちにいることに、安心したりちょっと興奮したからか張り詰めていた糸が切れたのかな、なんてここ最近引きずっていた体調が本格的に悪くなったんだろうと思った。

あれこれ用意してくれている静先輩を見ながらぼーっとしていると、ぺたりと熱さまシートをおでこに貼られる。
「ちょっと寝ろ。起きたらなんか消化のいいもの作るから食べて、早く治そう」
そう言って頭を撫でてくれる静先輩に、ちらりと荷物の方を見て口を開く。

「静先輩、やっぱり今日は帰ってください。これくらいなら一人でも大丈夫だから、それより風邪うつったらやだ」

あの荷物の量は今日のお泊まりセットだ。
用事も終わったって言ってたし、今日は泊まってくれる気だったのだろ。
でもこんな状態で一緒にいたら静先輩にうつっちゃう。

それにもう、少し気持ちが弱っている。
さっきまであんなにうちにいる静先輩が嬉しかったのに、今じゃもう見ていられなかった。
普通風邪引いた時って誰かにそばにいて欲しいものなんだろうけど、今は逆に一人にして欲しい気分だった。

きっと僕のメンタルの方がおかしな方向に弱っていることに気づいているのだろう。
無理に食い下がってくることはなく、本当に大丈夫かどうかを念入りに確認して、水の入ったペットボトルだけベッド脇のチェストの上に用意して静先輩は帰っていった。

静先輩が帰ったことでまた自分一人だけの静かな部屋に戻った。
つい3ヶ月前まではこれが当たり前だったのに、今じゃ静か過ぎて逆に落ち着かない。
自分で追い返したくせに、無性に居心地が悪い気がして落ち着かない。

熱で頭がぼーっとしてるし体もだるいから、何にもする気にはなれないのが逆によかった。
今動けていたらきっとまた家の中をうろうろして挙動不審になっていただろう。

今は早く寝てこんな風邪治してしまおう、と目を閉じた。

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