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第5章 落穽下石
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しおりを挟むそんな感じで毎日大学が終わるとすぐ家に帰ってきて、どこかに行くこともなく家のことと大学の課題くらいしかすることがないから、わざわざ休日にすることもなくてお昼ご飯までのんびり過ごしていた。
すると1時過ぎぐらいに静先輩から今から行くという連絡があった。
たかが一週間ちょっとだけど久しぶりに静先輩がうちに来てくれることになって、なんだかそわそわと気分が落ち着かなくなってくる。
この数日静先輩と落ち着いて離れる時間が少し出来て、色々家であーでもないこーでもないと考えることが出来た。
結論、もう認めるしかないところまで自分の気持ちが傾いているということになった。
ということになった、というのは客観的に見ればということだ。
こうやって落ち着いてゆっくり考えられる時なら、認めることも出来るぐらいには自分の中が大きく変わっていた。
でもきっとまだすぐに感覚に引っ張られる。
ちょっとでも気持ちがブレると、受け入れられなくなる。
受け入れたい理性と受け入れられない感情が喧嘩して、結果僕の口からは感情だけがこぼれ落ちる。
静先輩と出会った時の僕とは正反対だ。
あんなに心が受け入れたがっていても、頭では受け入れられないと考え方を変えられずにいたのに。
今じゃ受け入れたいと考えられるようになったのに、受け入れちゃいけないと心が反発してくる。
きっとあと少し、何かちょっとしたきっかけがあれば心も折れるところにいると思うのだが、いかんせん脅迫状の件があってから静先輩の過保護も僕の閉鎖的な思考も強まっているからそうそう変化は起こらない。
だからいつまでも同じところをぐるぐるしていた。
「弥桜」
連絡からそう時間の経たないうちに静先輩がいつものように合鍵を使ってうちに入ってきた。
ちなみに静先輩と結永先輩は随分前から勝手に出入りしているから今更だけど、僕が合鍵を渡した覚えはないんだよね。
「静先輩」
久しぶりにうちにいる静先輩を見て、今は落ち着いてるから素直に嬉しいと思えた。
そわそわとした気持ちを隠しきれず玄関までで迎えに行く。
「今日はどうしたんですか? もう忙しいのはいいんですか?」
「うん、用事はもう済んだよ。・・・・・・ああそれから、彼女の件もなんとかなりそうだからもう大丈夫だ」
そういえばあれから脅迫状は静先輩に預けっぱなしだったし、こんなことがなくても外出を一人じゃしないからわざわざ気をつけようという意識がなくてほとんど忘れかけていた。
静先輩が過保護なことも僕が閉鎖的なことも、この件より前からあったことだからちょっとぐらい過剰になったところでさして気になることじゃなかったというのもある。
もうあの人とは何にもないんだ、静先輩は女性より僕を取ってくれた。
静先輩の態度からわかっていたけど、それでも少なからず心に引っかかっていたから、もう本当に気にしなくていいのかと思うと、肩の荷が一つなくなったようにほっとしている自分がいた。
「弥桜、おいで」
静先輩が持ってきた荷物を定位置に置くと、ざっと家の現状を確認してからその様子を見ていた僕を引き寄せた。
その手に誘われるように特に抵抗することもなく、静先輩の腕の中にすっぽり収まる。
久しぶりに人目も気にせずくっついていられることに大きな安心感を覚える。
「買い物一人で行けてよく頑張ったな。みんなよくしてくれただろ。最近来れなくて悪かった、寂しかったか?」
一応大学では毎日会っていたから僕が一人で買い物に行った次の日も会ってて、だいぶ消耗していた僕にその時も頑張ったなって言ってくれた。
それに寂しかった、なんて、それこそ毎日大学で会っていたのに、そんなことないって。
たかが一週間静先輩がうちに来なかっただけだから、大丈夫なはずなんだ。
でも寂しかったかと聞かれて、最初に浮かんだのは寂しかったって、なんでもっと構ってくれなかったんだって気持ちだった。
そんなこと自分の口からはまだ言えないから、黙って静先輩の胸元に頭をぐりぐりと押し付けた。
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