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第3章 火宅之境
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しおりを挟むあの後静先輩が来てくれたことで少し落ち着きを取り戻せて、結永先輩とは話せるようになったけど、到底午後の講義を受けられる状態じゃなくて、結局結永先輩に送ってもらって家に帰ってきた。
家に帰ってきて誰の目にも触れない安全な場所に戻ってくると、今まで張っていた気が抜けてどっと疲れが襲ってくる。
玄関に立ってドアがぱたんと閉まった音が聞こえた瞬間、かくりと膝から力が抜けてつい目の前にあった静先輩の背中に手を伸ばして掴まった。
「っあ・・・」
「おっと、・・・・・・弥桜、もう大丈夫だからな」
優しく掛けられる言葉に収まっていた涙がまた溢れ出してくる。
もうパニックになったりすることはないけど、抑えることも出来なくて静先輩にしがみつくように背中に顔を埋める。
そしたら静先輩はぎゅうぎゅうにしがみついている力なんか意にも返さないぐらいあっさりと、僕の腕の中でくるりと向きを変えて頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「大丈夫」
ただ一言それだけ言うと、しがみついている僕の腕はそのままに、足に力が入らなくて上手く歩けない僕をベッドまで支えてくれた。
荷物の片付けもそこそこに静先輩も一緒になってベッドに転がる。
二人で向かい合ってるだけで、特に何かを言うわけでもなく見つめ合っているだけの時間。
ほんの数秒間だけでも、この一週間ずっと気の休まる時間のなかった僕には、二人だけの空間と時間が何よりも安心するものになった。
静先輩を独り占めにしていることが嬉しいのか、安心したからなのか、今まで怖かった気持ちは何処へやら、口元が緩んでだらしない顔になっていくのを止められない。
でもさっきから溢れている涙も止まったわけじゃないから、今絶対不細工な顔になってるに違いない。
静先輩にはもう少しだって嫌われたくないから、本当はこんな顔見られたくないんだけどな。
「ひどい顔だな」
タイムリーに気にしてたところを指摘されてやっぱり見られたくなくて静先輩の胸に顔を埋める。
次会った時は絶対お別れしなきゃいけないって思ってたのに。
やっぱりもう離れたくないと思ってる。
離れられる自信が欠片もない。
本当に自分がどうすればいいのか分からない。
「・・・・・・静先輩」
「どうした?」
「僕・・・もう自分がどうすればいいのか分かんない・・・・・・。みんなにΩだってバレて家のことも知られて、それから人の目が怖くて怖くて仕方ないんだ。だからこれはきっと今まで隠してきたことへの罰なんだって思った。これからはちゃんと向き合わなきゃいけないって。幸せになる権利なんてない、そんなことしたら更に罪を重ねるだけだって。だから静先輩とも一緒にはいられない。一緒にいたら、好きだって大切だって気持ちをもらえて、大事に守られて絶対静先輩に甘えちゃうから」
ずっとずっと辛かった。
大事にしてくれるこの人の側にいたいと、そう強く思えば思うほど、強く一緒にはいられないんだという事実に襲われるんだ。
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