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第3章 火宅之境
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しおりを挟む「でもっ」
どんどん落ち込んでいく思考を遮るように声を荒げる。
「もう無理・・・・・・。怖いよ、人に会うのが。一人になりたくない!!! この手を離すのは怖い」
静先輩の腕を胸に抱き込んでぎゅうぎゅうに締め付ける。
絶対に離れないように、この腕は自分のものなんだと刻み込むように。
「なぁ、弥桜」
今まで静かに僕の話を聞いてくれていた静先輩が優しい声で問いかけてきた。
「怖いって思うのは他人からどう見られているか、なんて言われるのかを気にするから、なんじゃないか。Ωとしての弥桜のあり方を客観的に見るから怖いんだろ。でもΩである前に弥桜という一人の人間なんだ。もっと自分を尊重して良いんだよ。弥桜は悪くないんだ。Ωとしてこうあらなきゃいけないって誰かが決めたわけじゃない。社会の中で相対的に見てそう思われがちなだけで。だから弥桜が感じてる罪だとか罰だとかは、本当はそんなもの存在しないんだ。主観的に見て弥桜自身がどう思うかが大事なんだよ。周りがどうとか、Ωはこうあらなきゃいけない、とかじゃなくて弥桜自身がどう思うかが大事なことなんだ」
静先輩が話していることが、僕にとって衝撃的すぎてぽかんとその顔を見つめる。
話を聞いてる間に、いつの間にかあんなに溢れて止められなかった涙がぴたりと止まっていた。
僕がどう思うか。
そんなこと考えたこともなかった。
何も気にしないでただ自分の思うことだけ。
そんなこと考えたことがなくて、今いきなり聞かれても何も言葉が出てこない。
頭の中がぐちゃぐちゃで、でも何か言いたくて口をぱくぱくすることしか出来ないでいると、きっとそんな顔が滑稽に見えたのかちょっとだけ笑われてしまった。
でもそんなことより初めて見た静先輩の笑った顔に心臓が不意打ちのように撃ち抜かれてばくばくと大きな音を立て始めた。
今の一瞬で本当はもう話どころじゃなくなってたけど、そんな僕のことなんかお構いなしに静先輩は続ける。
「それでもどうしたらいいか分からないなら、弥桜は俺だけを見てればいい。世界は俺と弥桜だけ。二人だけの世界にすればもう怖くないだろ」
怖くないだろ、という言葉の瞬間本当に世界に二人だけになったような気がしてきた。
そんなにすぐに人のことを気にしなくて済むようになれるとは思わないけど、静先輩の言葉は本当に魔法みたいに僕に響いてきた。
今この部屋に二人きりしかいないみたいに、世界のどこを見ても僕を見ているのは静先輩だけ。
そんな世界なら僕は静先輩と一緒にいられる。
そう思ったらもう気に病むことなんかなくなって、散々泣いて喚いた疲れに身を任せるように次の日までがっつり熟睡してしまった。
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