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第3章 火宅之境
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しおりを挟むどうすればいいのかわからない。
今までΩとして非人道的な生き方をしてきたから、これからは改めようと思った。
去年はそれを信じて疑うことなど一切していなかったから、先輩たちとの関係があった。
あの時が一番Ωとして正しい生き方をしていたと思う。
それでもΩだと公表するには今まで長く隠してきてしまっているから、怖くて出来なかった。
やっぱりそれもよくなかったんだ。
だから2月のあの時発情期が来て強制的に周りに知られてしまった時、あんなに怖かったんだ。
もっと平気だと思っていたのに、想像を絶する恐怖感だった。
そんな時に静先輩と出会ってしまった。
出会い方も悪かったんだ。
あんなタイミングで、ひどく動揺していたから、余計救世主に見えていとも簡単に好きになってしまった。
それに静先輩もすごく真っすぐ気持ちを伝えてくれるから、たった一日やそこらで今までの考え方を根本からひっくり返すほど、心を動かされた。
そうやってずるずる目を背けて一緒にいようとしたから天罰が下ったのかもしれない。
今まで犯してきた自分の罪に目を逸らすどころか、静先輩と一緒にいたい、と更に罪を重ねようとしていた。
だからそんなことは認められないと、許されないと、僕に自覚させようとしているのだろう。
そんなことわかってるんだ。
やっぱり静先輩と一緒にはいられない。
ちゃんと離れるって言わなきゃいけない。
次こそ、ちゃんと・・・・・・。
「弥桜くん?」
「っ!!!」
今まで誰一人いなかったこの場所で、何の前触れもなく人の声が聞こえてさっきまでの状況も相まって思い切りびくっと身体を震わせる。
「やっと見つけた。静と入れ違ったんだ。とにかく見つかってよかった。大丈夫?」
「ひっ、嫌だ、こないで。いやっ」
声の主が近づいてきて腕を伸ばしてくる。
その姿がさっきまでの男たちと重なって一気に恐怖に襲われる。
知らない人に触られるのが怖い。
静先輩じゃない人に触られるのが怖い。
「弥桜くん? どうした、大丈夫? 俺だよ、結永だ。わかる?」
「いやだっ、来ないで!! 僕に触らないで、いやっ、静先輩以外いやだっ」
周りを見るのが嫌で頭を抱えて全力で首を振る。
酷く震える身体を押さえつけてなるべく平常心でいたいけれど、目の前の静先輩じゃない人の存在が恐ろしい。
お願いだから、誰も来ないで。
「ひどいな・・・・・・。これじゃ俺はダメだ、静を呼ばないと」
足音が少しだけ遠ざかっていったことにほっとしたのも束の間、すぐに今度は別の足音がさっきより勢いよく近づいてきた。
「弥桜っ!! 無事でよかった・・・・・・」
「いやっ、お願いだから誰も来ないで・・・・・・、静先輩・・・助けて」
人の顔を見るのが怖い。
どんな目を向けられているか知りたくない。
「っ、弥桜、俺だ、静だよ」
「来ないでっ!! 怖い、怖いよ、静先輩・・・・・・」
いやだって言ってるのに全然どっか行ってくれない。
またさっきの男たちみたいに触られたらもう耐えられる気がしない。
「弥桜、落ち着け、大丈夫だから。ゆっくり、ゆっくりでいいからこっちを見て。俺だよ、静だ。もう誰も来ないから、大丈夫だよ」
人の声にまたびくっと震えてしまったけれど、何故かすごく安心する声が聞こえる。
「大丈夫、ゆっくりでいいから」
「しずか、先輩・・・・・・?」
「うん。遅くなってごめんな」
「っあ・・・ひっく、ぅ」
今まで我慢していた感情が一気に押し寄せてきてぼろぼろと涙が零れる。
怖かった、嫌だった、気持ち悪かった、静先輩が来てくれた、もう大丈夫、守ってくれる。
やっと会えた大好きな人に向かって全力で手を伸ばした。
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