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第3章 火宅之境
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しおりを挟む「ねぇ、放してっ、放してって」
何故か急に進む足が止まったが、一向に手は放してくれない。
ギリギリと強い力で握られて手首が若干痺れてきた。
「おい、桐生、なんで一人でいた。二階堂さんはどうした」
とにかく腕は痛いし知らない人に触られているということが気持ち悪くて早く放してほしい、ということに囚われていたが、ふと聞こえた二階堂の単語にはっとする。
「そうだ、静先輩・・・・・・、早く静先輩のところに行かなきゃっ。早く」
「おい、待て。勝手に動くな」
「早く、早く」
このままこんな所にはいられない。
自分ひとりじゃ抱えきれないことだらけで気を抜くと今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
腕が痛いのも誰かに触られているのも今は気にしている場合じゃない。
「おい、っ、聞けって」
「っ!!」
必死に静先輩の所へ向かおうとしてたら、いきなり頬を思いっきり殴られてその衝撃でその場に崩れ落ちて、掴まれていた腕のせいでぶら下がるような格好になった。
「っあはっ、いったい・・・・・・」
余計に腕の痛みも増してさっき殴られた所ともう何が痛いのかわからないぐらい身体中が痛い。
「っ、なんだよ。こんなのとは関わってらんねぇ」
急に今まで掴まれていた腕が開放されてそのまま地面に膝をつく態勢になる。
「っち、やっと止まったか。それにしてもこんな人の目の多いところにいれっか。いつもんとこ行くぞ。来い」
「ひっ、触らないでっ」
ようやく解放された腕を再び掴まれそうになって全力でその手から逃げようとするけど、さっきので腰が抜けてもう足が動かなくなってしまった。
「んだよ、今まで散々遊んできた仲だろ。そんな態度取られっとさすがの俺たちもキレんだけど」
「それにお前が嫌かどうかなんて知ったこっちゃないんだよ。とにかく来い」
足も動かないから逃げられるわけもなく、あっさりつかまって引っ張られる。
でも引っ張られたところで足は動かないし、掴まれている腕は嫌だし痛いしで必死に引きはがそうとして、ひどい格好になっている。
「っゔぐぁっ」
しばらく引っ張られて辺りが薄暗くなったと思ったら、投げ飛ばされて盛大に地面に体をぶつけた。
「ほんとになんなんだよ。いつも通り大人しくついてくりゃいいものを。今日に限ってなんで反抗的なんだよ」
「ああそういえば、今こいつが桐生製薬のとこの次男だって話が広がってるじゃないっすか。あれ俺が昨日見たんすけど、そのせいじゃないですか。こいつ異様に怯えてるし、なんか気に障ることがあるんじゃないっすか」
「はぁーん」
打ち付けた体を庇いながらゆっくり起き上がると、そこはいつの間にかいつも連れ込まれる校舎脇のデッドスペースだった。
さっきまでいた場所よりは人が少ないけど、目の前にいる男たちの視線や声は一向になくならない。
わらわらと自分に掛かる男たちの影や伸びてくる複数の腕が怖くて仕方ない。
今すぐここから逃げ出したいけれど、ここは周りより人の目が少ない。
ここから出ればまた衆目だ。
静先輩の所に行かなきゃいけないけど、ここから出るのはもっと怖い。
「んだよ、おもしろくねぇな」
「っがはっ」
きっと僕が変に怯えるから、気を更に悪くした男がイラついたように蹴ってきてお腹に鈍い痛みが響いた。
「今日のこいつはガチでつまんねぇ。おい、もうほっとけ。今のこいつと遊んでもなんもおもしろくねぇ」
完全に僕に構うことに飽きたのか、男たちが目の前から去っていく。
誰一人いなくなったここは本当に人の目が少ない。
一番端の校舎だから構内にも人はほとんどいない。
もうここから一歩も動く気になれなくて、あちこち痛む体を抱え込んで蹲ることしか出来なかった。
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