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【ミキちゃんちのインキュバス2!(第63話)】「淫魔とボクボク詐欺!? 恐怖のダークエルフ流呪術、解禁!!」

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 都内T区にあるタイガーメンマンション、805号室。
「キアラ、まずはだし汁をフライパンで煮立たせて……」
 その台所コンロにかけられたフライパン内で煮立つだし汁を見守るのはお正月のおせちで余った紅白カマボコを用いた『かまたま丼』の出張お料理講座でやって来た淫魔族の青年アランとここに住まうハーフサキュバスのキアラだ。
「なるほど……基本は親子丼のアレと同じですのね、アラン様!!」
 元劇団員のフリーター黒ギャルとしてここに住まうハーフサキュバスのキアラはだし汁の塩梅をメモしたチラシ裏と旨味成分たっぷりの香りを楽しみつつ切ったカマボコを入れるタイミングを待つ。
『プルルル!! ピルルルル!!』
「あら、電話ですわ? いつものしつこいさおだけ屋でしょうけどごめんない」
 一度だし汁フライパンの火を止めて電話子機を手に取ったキアラ。
「もしもし、茶摘でございます」
『しくしく…… しくしく……』
「どちら様ですの???」
『お姉ちゃん、ボクだよ、ボクだよぉ……』
「まさか茶摘さんですの? お仕事中にどうしましたの?」
『ボク、チャツミ!! 助けてよお、お姉ちゃん』
「助けてって言われましても……どうしましたの?」
『初めまして、チャツミさんのお姉さんでよろしいですか? 私弁護士の田中と言う者です。
 実は先ほど弟のチャツミさんが都心環状線内で見知らぬ女性と公衆の面前で過度なスキンシップを取った件で……』
「田中さん、一度茶摘さんに代わってもらっていいですか?」
「ひえっ!!」
 電話回で何が起こっているのか分からず、後ろでおろおろするばかりのアランは突如修羅の圧を纏ったキアラに後ずさりする。
『お姉ちゃん……』
「茶摘さん、あなたと言う人は何をお考えですの!! 自分で言うのもなんですけど美人でグラマーナイスバディで色気ムンムンな私を無視して見ず知らずの馬の骨女にボディタッチするなんて!! 恥を知りなさい!!」
『ごっ、ごめんよぉ……魔が差したんだ』
 電話の向こうのチャツミは女淫魔感性的ア・モーレの形に声が引けてしまう。
「魔が差した!? あなたみたいなヲタクは一年中そうでしょうが!! 私とオトコノムスメさん、ニャンティさんや二次元のお友達全てにいますぐ謝りなさい!!」
『チャツミさんのお姉さん、お気持ちは分かりますが落ち着いてください!!
 私は警察の佐藤と言う者ですが、被害者女性は示談に応じる意思をお示しでして……指定の場所に現金をいますぐお持ちいただければ私と弁護士田中先生の承認により弟さんを釈放できます。いかがいたしますか?』
『わかりました……今すぐ用意しますので、場所を教えてください』
『では、申し伝えます。 場所は……』
 電話向こうの警察関係者が言う指示をキアラとアランはチラシ裏紙にメモしていく。

「よしっ、じやあすぐは現金を用意して待ち合わせ場所に……!!」
「アラン様、お待ちください」
 茶摘の友人として示談金を用意すべく魔界スマホで魔界王立銀行のオンライン個人口座を確認しようとするアランを止めるキアラ。
「茶摘さんが無事にお戻りになったら折檻なのは当然ですけど……私、このおまわりと弁護士、ヒトの分際で茶摘さんを誘惑した女にも個人的死刑を下さないと気がすみませんことのよ」
 そう言いつつ適当なチラシを折って長方形にちぎり始めるキアラ。
「だからアラン様はお手を出さないでくださいませんか?」
「うっ、うん……でも物理攻撃や精神破壊は……流石にねぇ?」
「大丈夫ですのよ、アラン様!! 一切証拠が残らない殺り方なんていくらでもありますのよ!!」
『シケイ』と言うのは『私刑』ではなく『死刑』。
『やり方』と言うのは『殺り方』なんだろうなぁ…… と察しつつも魔人族顔負けの鬼気と共にチラシ片を札束に魔力擬態させていくキアラをアランはただ見守る。

 ~それから数日後の夜、都内T区にあるタイガーメンマンション805号室~
『こちら、累計何億円もの被害を出しつつも実体不明であったボクボク詐欺集団の元締めが潜伏していたマンション前です。
 ご覧ください、警察が押収品をいままさに運び出しているようです!! すごい量の段ボールです!!』
「どこぞの真砂は絶えても悪人のタネは尽きぬってのは……この事ですわね、茶摘さん!!」
 夜のニュースを見ながら茶摘と共に夕食を食べていたキアラは憤慨の声を上げる。
「ああ、そうだねぇ……しかし摘発されたのが末端違法バイト要員じゃなくて元締めが総員自首。しかも全ての情報を自主提出するかのように押収させたってのはネットでも奇妙だ、奇妙だとあちこちで大騒ぎになっているし。どういう事なんだろうか?」
「……」
 数日前、都内某所で弁護士の部下だと言うボクボク詐欺グループ関係者に手渡した茶摘の示談金に魔力擬態させたチラシ片。
 それら全てに母方のおばあ様から教わった『関係者全てが自死以外の自己破滅的行動を取る』と言う強力すぎる呪いを仕込んでおいたキアラはその影響が下手人のみならず元締めたる指示役全てにまで及んだ事を察しつつも何も言わず味噌汁をすするのであった。

【FIN】
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