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過去編
懺悔人が乞うたのは①
しおりを挟むルイスが伯爵位を継ぎ、末の子を嫁に出してから。
僕たちは、王都にあるタウンハウスへと移り住んだ。
母が住んでいたところとは別に購入した屋敷だ。
今は騎士をしているネイサンが母の居たタウンハウスへ妻と子と住んでいる。
今年に入ってから、こちらの屋敷でも執事をしてくれていたデイビッドが寝込む事が増えた。
看護の心得のある使用人を何人か雇って、日々を過ごす。
デイビッドは僕らよりも一回り以上年上だ。
自分たちも孫がいる様な年となった。
自然の摂理と言えども、切ない思いが胸に広がる。
彼には結局、夫婦ともども本当に世話になった。
セレスティアの世話は想定内だっただろうが、僕の執務も時間の許す限り手を貸してくれた。
事業相手に感情的になってしまった時も、彼が諭してくれてうまく進んだ事が何度もあった。
彼は贖罪のつもりだったのかもしれないが、彼が謝らなければならない事をした事は一度もない。
僕よりもずっと高潔な魂をしていそうなデイビッドにとって、隠れて不貞を続けた日常が、負担になってしまったのかもしれない。
そう思い浮かんだのは、僕だけではなかったようだ。
「…ごめんなさい、デイビッド…ごめんなさい…」
泣き疲れて眠ってしまったセレスティアを穏やかに撫でるデイビッドに、僕も謝罪する。
「…すまなかった。ずっと日陰の役目を押し付けてしまった…。不甲斐ない主人で、申し訳ない」
「貴方も私に謝罪する必要などどこにもございませんよ。謝罪をするのはこちらの方です…迎え入れて頂けて、…幸せでした。…ありがとうございます…面倒をおかけまして、すみません」
「ここまでしてくれた執事を病ごときで見捨てる主人なんてこの世にいないだろう」
デイビッドは笑って、目を瞑った。
その次の日も、床から起き上がれず、王都一の医師に診せても首を横に降られてしまう。
いよいよ意識が浮上する時間も短くなって、使用人全員を下がらせてから、セレスティアとふたりきりにさせる。
扉を閉めて背を預け、瞼を閉じる。
…僕は聖人なんかじゃない。
何度も何度も君を恋しく思って、恋敵を…憎らしく思って。
ただただその都度、その暗い思いを押しつぶして来ただけ。
それに慣れただけ。
(ああ、思ったさ。彼は僕らよりも早く逝くだろう。そうしたら、やっと君は…君には僕しかいなくなる…)
そう思っては、自分の醜さに苦しんだ。
人の死を待つ醜さに、それを願わなければ叶わない外道の恋に。
幾重にも重なった感情が、僕に答えのない涙を流させる。
あぁ醜くも願った筈の瞬間なのに、憧れの存在の死を前に、涙を止めるすべがない。
その日の夜、デイビッドは朝を迎えることなく旅立った。
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