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過去編
懺悔人が乞うたのは②
しおりを挟むすっかり暗い雰囲気となった屋敷を歩いて、セレスティアの部屋へと歩く。
きっと眠れなかったのだろう、僕も同じだ。
だが、食べれるようなら食事を取らせなければ。
そう思ってノックをしても、返事がない。
「セレス…?朝食は…」
ドアノブがやけにひんやりと冷えている。
ガチャリ、と静まりかえった屋敷に響く音が耳に残る。
返答を待たずに彼女の部屋の奥へ進む。
カーテンが揺れて、窓が開いていることを教える。
不用心だな、と普段なら小言が出るだろうが、僕はベッドに目が釘付けになった。
「ああ…ッセレス…ッ」
駆け寄って、冷えて固い手を握りしめる。
『…奥様は生きる気力そのものが、なくなっておられるかのようだ。今日、明日にもこの世から離れてしまいそうな状況です。』
いつかの昔馴染みの老医師の声が聞こえた気がした。
夫婦は片方を追う様に亡くなることが珍しくないという。
セレスティアは、デイビッドが逝った次の日、――旅立ってしまった。
…ああ、
…わかっていたのに
〈君が、彼と添いたいと心の底で願っていると、〉
…デイビッドも、名実ともに妻に迎えたかったことだろう。
…素晴らしい人間だったのに彼は実子をひとりも持たないまま、逝ってしまった。
〈セレスティア、彼が君の生きがいだったのに…――〉
…理解のあるふりをして、君を自分の元に縛り続けた。
〈君の隣に立つ、君の夫という立場に必死にしがみついた〉
…あんな謝罪で済むものか。
〈真に想うならば、君に自由を与えるべきだった〉
…子ども達が大きくなった後はなおさら。
…いいや、それを待たずとも。
僕のエゴがなければ、もっと君は幸せを得ることができたのに。
(君と彼がどうか幸せな場所へといけるように。
――僕の何を差し出してもいい…)
―――どうか……
…どうか
◇◆◇◆
「奥様?旦那様がいらっしゃいません。こちらにいらっしゃいますか?…奥様?」
侍女が扉を開けた先には、寝台で穏やかに逝ったセレスティアと、その手を握りしめながら横たわるウィリアムの静かな死が在った…――。
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